大丈夫すかね
「おーもう、何が起きてんのかわかんねぇな」
約一分前、突如会場全体が霧に包まれた。
そして霧が晴れあがったかと思えば、実は晴れたのではなく、フィールドに霧が集まり、ドーム型にフィールドを大きく包み込んでいたのだ。
ーーーつか一回戦の俺の試合の時も霧があったよな……何でもかんでも霧を出せばいいってもんじゃねぇぞオイ
凝縮された霧はかなり濃く、対戦の様子は全く伺うことが出来ない状態だ。
「でも一々ハラハラと気が乱れなくて済むわ」
「えぇ……」
ーーーハラハラ? この人が?
サラブレの一言に困惑する。
「まさか失礼なこと考えていないわよね」
「ないない、アリエマセンヨォ……」
▽
一方、霧に覆われたフィールド内では、レオが今大会で最大のピンチを迎えていた。
「なるほど、な……」
白衣の男の“喰術”とやらは、伝染病みたいな物なのかもしれない。
サラブレを襲った、一気に魔力を奪い取る術と、アカネを襲った徐々に魔力を奪い取る術を病原菌に例えると、その病原菌をロン毛と眼鏡に白衣の男が病原菌の影響を受けない何らかの方法で渡し、二人に感染させ、レオに伝染させた。
その考えが浮かんだレオだが、今更何をしようにも魔力が残っていない。それにここは霧の中。ほぼ詰みと言える状況だ。
「さてどうする? と言っても、もうどうしようもないよね」
「……」
もはやレオには喋る体力も残っていない。
魔力は体力にも影響する……それは魔力を持つ者の数少ないデメリットと言える。
「おいおい、なんだいその目は。まだ諦めてないのか」
「……せぇ」
「追い打ちをかけたい所だけど、生憎僕には喰術しかなくてね、後は君を観察するだけさ」
そう言って、パチンと白衣の男が指を鳴らすと、瞬く間に霧が晴れ上がった。
そして、霧が晴れたフィールドを見た観客がざわついた。
倒れている選手が、まさかエリート校の生徒だと思うまい。
「見物だね、エリート君が、そこんじょらの一般生徒に大敗する姿をお客さんがどう思うのか」
白衣の男は両手を大きく広げ、勝ち誇ったかのように愉快に笑う。
「くっ……」
「悔しいのかい? 怒っているのかい? それとも怖いのかい?」
俯くレオに煽るような口調で攻め立てる
「くくっ、くくく……あっははは!!」
「ん? まさか君も笑っていたなんてね、気でも触れたのかい?」
突然笑い出すレオに、少し困惑している。
「成程そういう事だったのか、なんだ簡単じゃねぇか……くくくっ」
「気味が悪いな、さっきまでは言葉を口にすることすら出来なかったって言うのに」
白衣の男は、不気味がりつつも、面白そうだといってレオに近づく。
「ははっ……馬鹿め」
白衣の男にレオはそう言って、彼の足首を掴んだ。
「馬鹿って、酷いじゃないか」
掴まれた足首を乱暴に振り払う。
「そうですかい」
「えっ?」
振り払った勢いで、間抜けにも白衣の男は尻もちをついてしまう。
会場からはくすくすと笑い声が聞こえる。
「いてて、これはお恥ずかしい」
体勢を立て直し、立ち上がろうとするが……
「なんで……立てない」
わけが分からないと、呆然としている彼に、
「手、貸してやるか?」
と、先程まで立つことすらままならなかったレオが、平然とした様子で彼にそう言う。
「どういう事だよ、おい! 説明し、ろ……」
突然のことに訳が分からなくなり、憤慨する白衣の男に、レオは無表情のまま、
「面倒だ」
と言い残し、手刀を一発。
『勝者、センス学院!』
最早会場からは、どよめきもざわめきも何も聞こえない。何が起こっても不思議ではないのだと、皆ようやく分かり始めた。
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