うーん、手強い
「さて、どうしましょうか」
よいしょと地面に座り込み、体力を回復させながら作戦を考える。
ーーーあのロン毛は攻撃してこないのか?
防御力が高い監獄に守られているからといって、流石に攻撃を警戒しないわけがない俺だが、一切攻撃する素振りを見せないロン毛に不信感を抱く。
ーーーとすると、ロン毛は回避だけが秀でているだけで、その他はからっきしだとかある?
どの道確かめるにはこちらから動くしかない。
「よしっ」
ロン毛の不気味な雰囲気に恐怖がない訳では無いが、気合いを入れ直して監獄を解く。
「キシシ、遅いじゃねぇか」
ーーー喋るとか随分余裕そうじゃねぇか
隙丸出しのロン毛の背後を再びとり、今度は結構マジな速度で拳を突き出す。
「おっとぉ」
「おわっ!」
案の定拳は空を切り、バランスを崩す俺の背後には、ロン毛がにやにやと馬鹿にしたような表情で立っていた。
「へぇ」
そして俺はほぼ確信に至った。
ーーーロン毛の魔術は自分と他人の位置を入れ替える……だとしたら、ロン毛が俺を馬鹿にしてんのはありがたいかもな
「はぁ、はぁ……」
ーーーっ、それにしても、さほど動いてないのになんだこの疲労感は……あんま長く持ちそうにないな
どちらにせよ、仕掛けるなら早い方がいい。
「らァ!」
「キシシ、もうヤケになりました?」
大振りな動きでロン毛をさらに油断を誘う。
「るっせぇな」
「っとお」
あまりやりすぎて悟られないよう、多少キレのある動きを混ぜていく。
「いいねぇ、こんなにも戦いやすい相手が、まさか名門校に居たとは……キシシ、本当に運がいい」
完全に俺を格下だと判断したロン毛。
「はぁ、はぁ……くそっ」
「はいはいはい、その表情いいねぇ! キシシ!」
「なんで俺が変な魔術を使うやつに負けんだよ!」
「変な魔術って……あのねぇ、僕の魔術は自分と対象物の位置を入れ替えることなんだよ」
ーーーっ、マジかよ! ……んでも、どっちにしろあの様子じゃ気づかねぇだろうな
調子に乗って俺に考えもなしに歩み寄る……俺によっておびき寄せられているなどと露知らずに。
「それじゃあ、後はゆっくり嬲って……」
「はいお疲れ様」
「は? ……っ! なんだこれは!?」
焦るのも無理ない。諦めかけていた相手に、まさか自分の足が魔術によって拘束されるなど、思いもしないだろうから。
「くっ、クソっ! これじゃあ移動が使えない!」
ーーーんまぁ、驕りきった今のあいつには逃れんだろうな
実は冷静に考えれば簡単に対処が可能なのだが、俺によって完全に油断したロン毛はただテンパるだけで精一杯だろう。
「てことで、おやすみ」
後は腹パンで気絶でもさせておこう。
「……ははっ、う、そ、だろぉ」
なんと身体に力が入らない。
先程の異様な疲労感が、徐々に身体を追い込んでいた。
ーーーあーあー、なんだかんだ言って俺も油断してたって事なのかな……せめて、相打ちにさせるか……
「ちく、しょぉ……」
何とか魔力を振り絞って魔術を発動させる。
「すりぃ、ぷ」
チートを捨てて以来発動しないと思っていたお気に入りの魔術。しかし、何故か自然とその魔術を発動しようと、口を動かしていた。
ーーーな、にや、ってんだ、俺……だ、めだ、いしき、が
果たしてロン毛はどうなったのか。薄れる意識の中、審判の下す判定を聞き、俺はほっと安堵して瞼を落とした。
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