世の中ゴリ押すだけでは上手くいかない
「やられたわ」
フィールドから降りてきたサラブレは、表情を崩してこそいないが、額にはじっとりと汗が浮かんでいる。
「どうやら、思いのほか相手も一筋縄ではいかないということか」
「んまぁ、でも意味ある撤退でしたよね」
サラブレは、相手が何らかの方法をしたことにより、かなり魔力を失っていた。
あのまま諦めずに戦う……確かに諦めないことは善いのだが、状況が“予選”なので、正直団体戦において勝てる相手に、わざわざ個人が無闇に実力をさらけ出して他の強敵に知られるのは避けたい。
あの状況での撤退は、ある程度勇気がいるため、俺は彼女を賞賛する。
「ああ、ツダの言う通りだ。よくやった」
「すべき事をしたまでよ」
疲弊している筈なのに、ここで苦しげな表情や言動を見せないサラブレに憧れる。
『次の選手前へ』
次は俺の戦いだ。
「んじゃ、行ってきます」
「気をつけて、相手はまた何かしでかす気よ」
グッと親指を立て、俺はフィールドへ上がる。
▽
『両者構えて』
相手はロン毛男。見た目で推測するに髪を駆使して戦うのか、取り敢えず様子を見ておく。
にやにやとこちらを伺うロン毛に、思わず身震いする。
『始めぇ!』
ーーーさて、どう来る?
「キシシッ」
どうやら相手もこちらが仕掛けるのを待っているようだ。
ーーーどうする、俺から動くか?
「ほら……来いよ」
相手はこちらを挑発し、自らが動くことは決してしないとばかりの、凄まじい隙を見せている。
ーーーくそぅ、これは攻撃しろって身体が言ってる……
「ちぃ……!」
悔しいがこちらから攻撃を仕掛けることになった。
「キシシッ」
真正面から突っ込むと見せかけ、俺はロン毛の背後に一瞬で移動し、顔面へのフェイントをかけながら脇腹へ蹴りを繰り出す。
「残念、キシシッ」
なんといつの間にやら、俺の後ろへ移動していたロン毛。
「うわぁ……」
ーーーぜってぇ面倒臭いやつだこれ
作戦を変更し、今度は敢えて攻撃を仕掛ける。
「ふっ!」
右フック、左ストレート、上段げりの三コンボは尽く回避される。
ーーーフェイク入れてんのに……俺もしかしないでも、格闘下手くそか?
ということで魔術使う。
「監獄」
相手を封じるお得意の手法。
「あれれ」
ロン毛は流石にこれには対処しきれず、捕まってしまう。
「やっと捕まえたぞこらぁ!」
思わずガッツポーズ。
「キシシッ」
ロン毛はそれでも笑い続ける。
「あ……れ?」
そして気がつけば、俺は監獄に閉じ込められていた。
ーーーふぁ!? どーゆーこっちゃ!!
脳内パニックの状態で導き出した答えが、
「入れ替わってる!?」
「キシシッ」
心は入れ替わらなくとも、身体が入れ替わるのは勘弁して欲しい。
ーーーしかも、元々の回避能力とか高そうなんだよなぁ
一先ず、脱出困難な監獄……言い換えれば固い防御に身を守られながら思考することにした。
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