帰還
王室へ戻ると、そこにはリリィが居た。さっきまで泣いていたのか、目を腫らして寝ていた。
ーーーったく、王室で堂々と座りながら寝るなっての
そう心の中で悪態をつきながらも、リリィを起こさないように静かにその場を去り、アルバートを探した。
アルバートは丁度こちらへ向かっている最中だった。
「あっ、居た。おーい」
「ん?………なっ!? ツダアカネ! もう戻ってきたのか!?」
「あ、はい」
「まだ一日も経っていないんだぞ」
「その様ですね。でも、思ったより早く攻略出来たので」
「そうか、まぁ早いに越したことはない。さっきまでは魔王様が泣いて……いや、何でもない」
「もう手遅れですよ」
ここまで遅いうっかりは初めてだ。
「う、うるさいぞ………それより、攻略した証を確認したい」
「これです」
そう言って俺はアルバートにダンジョンの核の欠片を渡した。
「これはダンジョンの核か……ああ、確かに本物だ。して、宝物は?」
「もしかして、ダンジョンの主みたいなのが守っている物ですか?」
「そうだ」
「すいません……どうしても渡したくないそうで、代わりにこれをと言ってもらった物なんです」
「はぁ〜、まったくお前は甘すぎるぞ。いいか? ダンジョンの宝物は全てこの世に二つと無い幻の宝物なんだぞ」
アルバートはそんな俺に呆れていた。
「本当にすいません! ですが、今回だけは見逃してもらえないでしょうか」
「仕方ない。それに、ダンジョン攻略にも人がかなり必要だからな。もう暫くは攻略に行けんだろう」
「ありがとうございます!!」
ーーー本当に優しい人だ
「お前、魔王様へご報告はしたのか?」
「いえ、リリィは寝ています」
「まったく、あのお方は……とりあえず王室へ入り魔王様が起きるのを待て」
「はい」
俺はそう言って王室へ入っていった。
▽
リリィ・サタンは夢を見ていた。
リリィとアカネが仲良く遊んでいる夢。
二人で仲良くご飯を食べている夢。
一緒に旅をする夢など
どれも朱音が帰ってきてから過ごす夢だった。
だが、その夢にも終わりが来た。
だんだんと夢の光景が薄れていき、意識が覚醒してゆく。
「う〜、夢を見たら益々アカネに会いたくなったのじゃ……」
ーーー早く戻ってきてくれんかのう
そう思ってたリリィに
「俺に会いたいって?」
「ふえ?」
ずっと聞きたかった声が聞こえた気がして間抜けな声を出すリリィ。
「なんじゃ、空耳か」
ーーーそこまで我はアカネに会いたかったのか……
そう思い少し恥ずかしくなる。
「おいおい、まだ寝ぼけてんのか? 俺はここに居るんだけど」
「え?」
声が聞こえる方へ振り向く。
………そこにはアカネがいた。しばらくの間会えなくなる思っていたその人が今、目の前にいた。
「ア、カネ?」
「なんだよ」
「本当にアカネか?」
「ああ」
「本当に本当か?」
「そうだっつってんだろ」
「本当に本当か?」
「うるせぇ! 何回目だよそのやり取り!?」
すると安心したリリィは朱音に抱きついた。
「うわっ、な、なんだよ……」
「うぐっ、ひぐっ、心配したんじゃぞぉ。良かったぁ……」
「あーあー、分かったからすぐ泣くな。それに一日も経ってないぞ」
「それでも、それでも我にとってはとてつもない時間だったのじゃ!」
実際にそう感じたのだろう。リリィはいつまで経っても朱音に抱きついたままはなそうとしない。
「いや、何百年も生きてんのによく言えんな」
「う、うるさいのじゃ! ホントなのじゃ!」
「分かってるよ。ゴメンな、心配かけて」
「いや、送り付けたのは我じゃ。ごめんなさい……」
しゅん、とリリィが申し訳なさそうに謝った。
「な〜にちびっ子がいっちょ前に反省してんだよ」
「う、うるさい! 我はこれでも魔王なのじゃぞ!」
「まぁ、俺にとってはただのお子ちゃまでーー」
「う〜馬鹿にしおって……」
「かけがえのない大切な友達だからな」
「っ!」
俺の言葉を受け、リリィの顔に赤みがさす。
「なんだ? 照れてんのか?」
ニヤニヤと茶化す俺に
「う、うるさいのじゃ………///」
と、リリィがもじもじしながら言う。
「可愛いな〜お前」
そんなリリィの様子にほんわかした気持ちになった俺は、リリィの頭を撫でながら言った。
「な、ナデナデするなぁ……///」
さらに顔が紅潮して、ヘナヘナになってしまったので止めた。
▽
「ご、ゴホン、取り敢えずよく戻ってきたなツダアカネよ」
暫くして、まるでさっきの事は無かったかのような口調で突然言った。
が、顔はまだ微妙に赤い。
「どうした? いきなり」
「攻略した功績として、この城に住むことを許可するのじゃ」
「何言ってんだ!?」
「言ったじゃろう、ダンジョン攻略をした時には安全な生活を保証すると」
「いや、そうだけどさ」
「ならここが一番安全ではないかの?」
「そうだけど」
「なら決定じゃ!」
「はぁ〜、わかったよ」
「わーい!」
と、成り行きで全くといっていいほど、魔王らしくないリリィと一緒に暮らすことになった朱音。
ーーー勿論、リリィとだけじゃないよ!
そんなことを強く主張しているが、朱音は幼女好きなので本当なのか実際のところ怪しい。
「おいナレーション! しっかり仕事しろや!!」
「ど、どうしたのじゃいきなり?」
と、突然訳の分からないことを叫んだ頭のおかしい朱音にリリィが困惑する。
ーーーおい、なんか酷くないか……
「い、いや、なんでもない」
「本当か?」
「ああ」
「そうか。では改めて……おかえり、アカネ」
リリィが満面の笑みで言う。
「ただいま、リリィ」
朱音も笑顔で返した。
そんな光景を見せつけられたアルバートはというと……
ーーーイチャコラしなくて宜しいですから、さっさとツダアカネを学院へ入学させる準備をして下さい!
どうやら早速新たな展開になりそうだ。
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