シュババ
『次の選手前へ』
サバン・オブジェ登場。
どうやら注目の選手らしい。観客……特に女性の方がキャーキャー言ってる。
忘れていないと思うが、この大会は魔王軍のお偉いさんが来ている。若しかするとサバン・オブジェは魔王軍の隊長さん達にも注目されているのかもしれない。
ーーー俺も目立ちたい
ーーー《叶わぬ夢を申さないでください》
『両者構えて』
熊はペイント弾の汚れをとり、再び姿を消している。
『始めぇ!!』
ーーーあっ、こっち見た
俺たちに気がついたサバンは、グッジョブポーズで眩い笑顔を放つ。
ーーーよく気がつくもんだな
なんか嫌だ。
「隙あり」
相手から視線をそらしたサバンは、早くも背後からピンチが迫る。
「隙ではないさ」
ひらりと背後に居るであろう熊を躱し、透明化している熊の頭の上へ跳んだ。
「敢えて死角をつくっているのさ」
捕まえることが困難ならば、わざわざ自らが捕まえに行く必要は無い。相手がこちらへ来るのを待てばいい。
「ふぅん」
隠れ美少女はさして興味無さそうに、手を上に振る動作をして熊を移動させる。
「おっと」
乱暴に振り落とされたサバンは、持ち前のバランスで体勢を立ち直し、地面に着地した。
「あくまでも透明化はお遊びに過ぎないということかい?」
「どうかしらね」
熊が火弾を放つ。
「魔術まで使うのは反則でしょ」
驚き回避したサバンの乾いた笑い。
「まぁでも腕を封じれば……風刃」
透明化した熊へ無数の刃が迫る。
「魔術はこれで対策できたかな?」
手足を無残に切断された熊。ダメージが大きい様で、透明化が解かれている。
「破壊光線」
既に胴と頭のみの体で放つ最後の一撃。
「大したものだよ……暴風」
サバンの一撃で熊の攻撃も難なく相殺されてしまう。
「これで俺の勝ちだね」
「どうかしら」
不敵に笑らう隠れ美少女。
先程のカノンがやられた謎の攻撃を忘れてしまったのか。
余裕の表情を隠すことなく相手を挑発しているサバン。
「……なに」
「どうしたのかな?」
初めて隠れ美少女に動揺の表情が表れる。
「白々しい、何をした……!」
怒りを見せる隠れ美少女に、観ている俺は困惑する。
ーーーそう言えばサバン・オブジェに何も起こってないな
「ああ、もしかしてカノンが最後ぶっ倒れたやつやろうとしてた?」
「くっ……」
「残念だけどそれは叶わないよ」
そこで負けを確信した隠れ美少女。
「言ったよね、魔術は封じたって」
「……」
「恐らくカノンに使ったのは“呪い”の一種かな?」
「……そうよ」
「効果は多分、攻撃を受けた分だけ相手に跳ね返す。この場合は、痛覚神経に作用するのかな?」
「一々聞いてこないで」
ウザさたっぷりの表情で隠れ美少女を刺激する。
「で、そのダメージ分跳ね返すには、ダメージをカウントする物が有ると思ったんだ……で、そこが」
サバンは自分のつむじ辺りに指を置く。
「ここ、熊さんの頭ら辺だったわけ」
ーーーああ、だからあの時頭の上に乗ったのか。そして多分その時破壊したのかな
「でもどうやって見つけたのよ」
「んー、それは……」
「なによ」
「ひ・み・つ」
「私の負けね、死ね」
ここで隠れ美少女の敗北宣言。
『勝者、ミラ学院』
つか、最後の解説とか相手が仕組み知ってんだし必要なかっただろ
と口にしようとしたが、おそらくその解説は俺ら、一学年の選手に向けられた解説だろう。
“この大会には曲者が多い”
こんなことを伝えたかったのであろうか。
ーーーんでもよ、なんであの時気持ち悪く種明かしを断ったんだよ
今もあの時の表情を思い出し、吐き気を催す。
いつも読んでいただきありがとうございます!