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ちょこっと見せます、隊長達

遅くなりました。


 「断られてしまいましたか……そ、そうですよね! いくらツダ君でも、無茶なお願いでした、ね」



 申し訳なさそうに彼女が笑う。



 「ええ、俺は貴女の願いを聞き入れることは出来ないですね」



 正直言うと、できないことも無い。俺が彼奴を取り込み、自我は一つになった。が、俺は完全には彼奴を消滅させてはいない。今の彼奴は、俺によって生かされている、“自我の無い自我”と呼べば良いか。ざっくり言うと、“自我の元”、“自我の赤ん坊”と捉えると分かりやすいか。どの道、今の彼奴は俺の精神に干渉する事は出来ないということだ。



 では、何故俺がレシファの願いを聞き入れないのか。

 覚悟が足りない、そう見えたから。彼女は禁忌を犯す事に躊躇った。俺の厨二知識で推測するに、人物の蘇生(この場合俺のもう一つの自我)を含めた禁忌の魔術は、実在すると考えた。そしてそれは、生半可な覚悟では、その術に取り込まれ下手すれば命に関わる、そう思うのだ。



 考えすぎだとも言えるが、用心するに越したことはない。故に俺は、彼女の願いを拒否し、暫く様子見することに決めた。



ーーーごめんね、レシファさん



 どこか虚ろげな彼女の横顔を見て、胸がちくりと痛む。




 ▽


 一方その頃、会場内の()()()()に王国の最大勢力と言える人物達が招集されていた。



 この部屋は所謂VIPルームのようなもので、快適な部屋で伸び伸びと試合を楽しむことを目的として造られたのだが、殆どがそういった様子がなく、刺すような緊張がこの部屋に漂っている。




 「あ〜あ〜あぁ〜、毎年毎年つまんねぇなこの()()はよぉ」



 どかりと椅子に座る、鍛え上げられた肉体とそこに刻まれた無数の古傷が特徴の、強面の男……魔王軍第八部隊隊長、オーガス・イフル



 「そんな言い方はいけないよ」

 「あ?」

 「あの生徒達は魔術大会(ここ)を夢見てやって来たんだ、そしてゆくゆくは我が魔王軍に入る為に……だからもう一度言う、そんな言い方はいけないよ」



 オーガスに向かって立ち、彼を咎めるのは、ローブに身を包んだ華奢な体の男。手に持つ、青い球体をその先に浮かばせた杖本体には、自らの意思があるという。彼の名は、魔王軍第六部隊隊長、オーマン・シリウー



 「てかそれよりさぁ! 出たんでしょ、ドーピング! あぁぁ……混沌が始まる予感がするぅっ!」



 変態じみたゴスロリ衣装のその少女は、身悶えした後、ソファに座り何事も無かったかのように、自らが執筆した、『混沌から生まれる理想』を取り出して食い入るように読み始める。そんな情緒がおかしい彼女は、最年少にして魔王軍第九部隊隊長、ヘリィ・キャメン



 「ヘリィあんたねぇ、もう少し慎ましく出来ないわけ? だから男が寄り付かないのよ」

  「そーゆー先輩だって、ここ何百年も男がいないんですよね?」

 「ぶち殺すぞゴスロリチビごらぁ」



 ヘリィにどキツイ睨みをきかせるのは、“戦鬼”の異名を持つ天才。魔王軍第三部隊隊長、セラ・アルバート



 「お前ら、魔王様の御前だぞ。あまり調子に乗っていると……言わなくても分かろう、俺もそう気が長くない」



 曲者揃いの魔王軍の隊長達を黙らせるのは、魔王軍最強の実力を有し、セラ・アルバートの兄であり、魔王軍第一部隊隊長、ゼロ・アルバート



 「これこれ、お主らよさんか……アルバート、気を沈めよ」

 「失礼しました」



 そしてそれらをまとめ、王国の頂点に君臨する、最強の称号“魔王”を有する者……リリィ・サタン



 「ふむ、今回招集出来たのはこれくらいか」

 「はい、第二部隊は、度々この王国に危害を及ぼしている()()()の調査、第四部隊は近日に戦争を控えている同盟国との会議、第五部隊は王国の見回り、隊長はサムリン家の護衛を務め、第七部隊は先日の任務での休暇、最後に第十部隊ですが……」

 「はぁ、この大会に出場しているのであろう?」

 「左様でございます。ツダ・アカネの実力を把握すると言っておりました」

 「そうか、報告ご苦労、ゼロよ」

 「恐れ入ります」

 「あー魔王様?」

 「どうした」



 タイミングを測っていたヘリィが、にやにやとした顔でリリィを呼ぶ。



 「そのツダ君ってコは、魔王様の交際相手なのでしょう?」

 「うむ、その通りである」  

 「で、彼はどんなお人なのですか? と言うより、何故もっと早く私に教えて下さらなかったのですかぁ〜」



 少し拗ねたようにヘリィが、椅子に座り床に届かない脚をぶらぶらさせる。



 「すまんすまん、それで、彼奴の事じゃが……正直、特に優れたところがあると言えば、特に無いな」

 「ほぅ、これはまたどうして」

 「彼奴には、魔族(われら)には無い“温かさ”がある。我が惚れたのはそこなのかも知れぬな」

 「なのかもって、魔王様ご自身も分からないのです?」

 「実を言うとそうなのじゃ、全く、どうしてなのかの……」



 そう言ったリリィの顔は、実に優しく、以前の冷たさと言うのが和らいでいるのを、彼女等は感じた。



 「そうかい、いい男を見つけたなぁ、魔王様」

 「うむ、我は幸せじゃ」

 「なの!」

 「ん? 何か聞こえませんでした?」



 一部の魔王軍の隊長達は、聞き慣れない謎の声に辺りを見渡す。



 「ヴァンピィはヴァンピィっていう名前なの」



 どこからか、ひょっこり現れた小さな子供。



 「えっと、魔王様この子は……」

 「娘じゃよ」

 


 直後、場が凍りつき、ヘリィからの質問の嵐がリリィを襲うのであった。

いつも読んでいただきありがとうございます。

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