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神獣ウルフェルド

  ダンジョンに侵入者が入ってきたことを知り、銀狼は


ーーー五百年前に隠してすぐにこれか……


  と呆れる。

  神獣ウルフェルドはこのダンジョンにある杖を守るために存在する。

 しかしウルフェルドは、何故自分が守護者をしているのか。その理由は自分でもわからなかった。いや、別にわかっても分からなくてもどっちでもいいと思っていた。

 自分はただそれを守っていればいい。その為だけに生まれてきたのだ。だから理由など正直どうでもいい、侵入者を殺す。その為に存在するのだから。

 

  しかし、何度も来る侵入者に嫌気がさし、五百年前にこのダンジョンを魔術で隠したのだ。だが、つい先日、このダンジョンが見つかってしまった。


ーーーまったく、いつの時代になっても懲りない奴らだな………


  ウルフェルドはため息吐く。

 

  侵入者の存在を知って三時間後、その男は現れた。

  男は杖に近づいて行く。


ーーーやはりこいつも杖目当てか


  「ウォォォォォオォォン!!」


  「な、なんだ!?」


  ウルフェルドは雄叫びを上げる。

  男はそれに驚き振り向いた。ウルフェルドの姿に圧倒されたのか男は硬直していた。


  その男にウルフェルドは容赦なく襲いかかる。


  「ぐぁぁぁぁあ!!」


  何とか致命傷を避けたのか、男は立ち上がった。


  「クソ……睡眠スリープ!!」


  と、男はおそらく魔術の類を使ってきたのだろう。だがウルフェルドにはそんなものは効かない。


  再びウルフェルドは男に襲いかかる。しかし倒れない。もう一撃、更に一撃と繰り返したが男は何度も立ち上がる。


ーーーなぜ倒れない、一体何がお前をそうさせている


 

 「うっ、はぁ、はぁ……ま、待ってろよリリィ……はぁ、うっ、コイツぶっ倒して、ぜぇ、戻ってくっからな……」


ーーーなるほど、そいつの為か……誰かの為に。そんな事でここへ来た者は初めてだな。ならばその覚悟に誠意を持って応えねばならんな……


  ウルフェルドは次の一撃で決める。そう決め、身体に力を込め


  「グァァァア!!」

  「うっ……あぁ」


 

  男に一撃を決めた……




  はずだった。


ーーーなっ! 消えた!?


 

  男はそこに居なかった。だが、気配を感じ振り向くと


 ーーーなぜそこに居る!?


  ようやく分かった。


ーーー我の一撃を避けたのか……


  自分でも捉えることの出来なかったスピードに、ウルフェルドは脅威を感じ。


ーーーならば本気でゆくぞ!


  「グルァァァァァァァアアア!!」


  ウルフェルドに光が纏う。それは【まとい】と呼ばれ、ウルフェルドや他の神獣が持つ力である。纏は、神獣の特化した能力を最大限に引き出す事が出来る。ウルフェルドの場合はスピードで、元々とてつもない速さを持つが、纏を使うことで約三倍にまで上昇するのだ。


  その強化されたスピードで男に迫る。

  だが、男はそれを難なく躱した。


  そして……男は自分より上回る速さで迫り、ウルフェルドを殴り飛ばした。


  「グァァッ!」


ーーー負けた。完全に敗北した。しかもたった一撃で……


  ウルフェルドは自らの負けを悟った。


ーーーだが、この杖だけは命にかえても守り抜く!


  フラフラになりながらも、ウルフェルドは杖の前に立ち男を威嚇した。

  その様子を見た男が


  「そんなになっても守ろうとするって、どんだけ大事なんだよ……」


  と言ってきた。


 『お前には関係の無いことだろう』


  ウルフェルドは他人と話す事はしなかった。だが負けを認めた相手とは話がしてみたかった。


「だれだ!?」


  男が驚く


 『ふん、いきなり来た侵入者に負け、今では立つのがやっとのみっともない狼だ』

 「なっ、お前喋れんのか!?」

 『当たり前だ』

 「じゃあ、なんで今まで何も喋らなかったんだ?」

 『侵入者に口を利くわけなかろう』

 「それもそうか………で、その杖が欲しんだけどくれないか? 別に無駄に命を奪いたい訳では無いからな。殺したりはしない」


ーーーそれだけは絶対に渡す訳には行かない


 『我はこの杖を守るために生きている。例え殺されようと最後までこの杖を守り抜く』


ーーーそう、我はこの男に殺され杖を奪われるだろう。だがこの杖を守り抜く。それが我の生きる意味である


 「つっても、お前もうボロボロじゃん。しかも声的に女だろ? 俺はそんな鬼畜じゃねぇからんな事しねぇよ」


  此処で杖をあっさり渡してしまったら一体何のためにこの千年以上の時を過ごしてきたのか。それはウルフェルドが生きる意味でもあった。それが無くなってはウルフェルドはこれからどうすれば良いのか。

  それがあったからこそウルフェルドは生まれてこれた。だが、それが無くなればウルフェルドが存在する意味が無くなる。それが怖かったのだ。もっとも、本人はまだ自分でも気づいていないが……


 『だが杖は奪うんだろう?』

 「ああ、まぁ別に杖じゃなくてもいんだけどな」

 『なに!? それはどういう事だ?』


  その言葉にウルフェルドは飛びついた。


 「俺はある事情でこのダンジョンに来た。そこでこのダンジョンを攻略した証が欲しんだよ」

 『それが手に入ればこの杖には手を出さないと?』

 「ああ」


  正直、疑う気持ちもあった。


 『本当か?』

 「当たり前だろ。それに、本当に欲しかったらお前なんてとっくに殺してるっつの」

 『それも……そうだな』

 

  その言葉にウルフェルドは少ししょんぼりした。

 

 「だから攻略したという証だけ欲しんだ」

 『そうか、なら暫し待て』


  ウルフェルドは下へ降り、あるものを採ってきた。


 『お前にこれを渡す』

 「これが攻略の証か?」

 『そうだ。これは全てのダンジョンにあり、ダンジョンの核の欠片でもある』

 「ふーん、これってちゃんと証として持ってけんの?」

 『ああ、核はダンジョンの最下層にある』

 「ここって一番下じゃなかったんだな」

 『と言っても、この下だがな』

 「なーんだ。まぁいいや、じゃあね、ありがと………っとその前に」

 『ん?』


ーーー何だ? こちらを見つめて

 

  しかし男は何もせず消えた。


ーーー転移したか………それにしてもおかしな奴だった。名前を聞いておくべきだったか?……いや、もう二度と会うことはあるまい。聞いても意味の無いことだ


  神獣ウルフェルドは杖の守護者として、再びダンジョンの管理を始めた。

 

いつも読んでいただきありがとうございます!

次回リリィ様登場です

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