波乱
申し訳ありません。寝落ちしました……
『さぁさぁさぁさぁ!! いよいよ始まります! 魔術大会二日目! 本日は二学年による試合、一学年ながらハイレベルな試合を繰り広げた昨日、本日はより会場を盛り上げてくれるのかぁ!?』
ーーーまるで見世物だな
観戦席にいつもの三人で俺達は、周囲の一般客の様子を眺める。
実況者が観客を煽り、観客はそれに続いてジャンクフードを片手に雄叫びを上げている。
「見世物だというのなら、見世物らしく度肝を抜いて見せようじゃないか」
「うわっ」
心の声を見透かしたかのように、後ろからぬっと顔を出すのは、サバン・オブジェ。
「まもなく試合だと言うのに随分と余裕そうですね」
明らかに嫌いオーラを醸し出すレオが、厄介者を追い払おうと冷たい視線を彼に突きつける。
「いやー、そんなに睨まなくてもねぇ。まっ、安心して見てるといいよ」
満足したのか、観戦席から引っ込んでいった。
「ったく、どうやったらこんなクソ混んでる席から顔出せんだよ」
確かに、レオの言う通り、観戦席は超満員。立ち見の人もいる中でレオはすんなりとこちらへ顔を出してきた。
「それはもしかして……」
約一ミリの隙間からでも侵入できるという、恐怖の暗黒物質。
「嗚呼、口にするのもおぞましいぃぃ……!」
「あ? 一人でなにやってんだ?」
きもちわりぃ。そんなワンフレーズを残し、レオは、飲み物。と一言だけいい席を立った。
「あ、あの」
するとタイミングを見計らってか、レシファが俺に声を掛けた。
「ん? どうかしました?」
「あの、その……ツダ君に一生に一度のお願いがあります」
「あー、ん?」
これ程までに本気な“一生に一度のお願い”があったのだろうか。
「私は産まれてからずっと天才と言われ続け、私もそれに応えようと、自らを鍛え続けました」
「……」
「魔術や魔力についての知識も勿論死に物狂いで身に付け、今となっては学院の教師となって、生徒を教える事も容易でしょう」
「ぉおう」
「しかしそんな私でさえ未だ見知らぬ、自我を持つ魔力というものを貴方が、もう一人のあなたが教えてくれました」
「そうなん……ですかね」
「そうですよ……そして、自我を持つ魔力との共存は困難を極め、最終的には……」
そして少し間を開けて、レシファは続ける。
「私とツダ君は所詮他人同士。あまり深く関わる必要のない関係……ですが」
所々言葉を詰まらせながら口を動かす。
「私はもう一人の貴方……自我を持つ魔力とお付き合いさせて頂いています」
「聞きましたよそれ、あいつ嬉しそうでした」
柔らかく微笑むレシファ。しかしすぐに表情を引き締める。
「しかし、同時に私は貴方に多大なるご迷惑をお掛けしました」
すいません。そう言って彼女は立ち上がり、俺に頭を下げる。
「ああっ、人が見てるから座ってくださいっ」
そう言われて辛うじて絞り出して、心当たりが見つかった。
ーーー彼奴が消えて、それで悲しむどころか、自分が悪いと泣きわめいてたあの時か?
だがしかしそれは寧ろ自分の感情を押えた行為だと思う。俺が彼女の立場だとすれば、なぜあの人だけ消えた。なぜお前が消えない。などと相手を容赦なく傷つける言葉を浴びせているだろう。
「そして、今、私は貴方へ無謀とも言えるお願いを叶えてもらう為にレオさんのいないこのタイミングで言わせてもらいます」
取り敢えず頷く。
「ツダ君、貴方に、もう一人のツダ君を蘇らせて頂きたいのです」
一番初めに浮かぶ言葉が、“禁忌”であった。
「それが、例え人類の理から外れることになったとしても……ですか?」
「それは……っ、で、出来ます!」
一瞬躊躇うも、彼女はその躊躇いを振り払い、そう答えた。
だとしたら決まっている。
「無理ですね」
今の俺が彼女に出せる答えはそれしかない。
いつも読んでいただきありがとうございます!