のじゃ!
「それでは皆さん、どうか気を付けてお帰りください」
うちの学院の選手が集められ、学院長の話を聞き流し、本日はこれで解散となった。
「ではレシファさん、レオ、先帰りますね」
「お疲れ様でした。また明日、頑張ってくださいねっ」
レシファはこういう時も、しっかり返事をしてくれる。
対してレオは、こちらを一瞥してさっさと帰ってしまう。
ーーーまぁ、それがレオらしいんだけどさぁ
レシファが見えなくなるまで、彼女に手を振り、外へ出る。
「おっ、やっておるか?」
「この様子ですと、たった今終了した感じですね」
「お兄ちゃんどこー?」
上から順に、リリィ、カスラ、ヴァンピィ。
中々驚いているぞ俺。
「ど、どうしたん?」
「あっ! お兄ちゃんいたー!」
いち早く俺に気がついたヴァンピィが、トテトテとこちらに向かって走り出す。
「よっと……珍しいなぁ、こんな所にリリィが来るなんて」
ヴァンピィが両手を広げ、だっこ! のポーズをしたので要求に答える。
「まぁ近いからの。ヴァンピィも行きたいと言っておるし、カスラとも行くことになったのじゃ……しかし、たった今終わった所じゃったとはのぅ」
残念そうに笑いながら言った。
「実はセンス学院との試合の時、問題があったんだよ」
「問題ですか?」
「一体なんじゃ」
できるだけ詳しく、あの時の試合の内容を伝える。
「成程のぅ」
「そこまで問題になる事か?」
リリィが中々に深刻そうな顔をしていたので、つい聞いてしまう。
「魔力増幅剤などの、所謂ドーピングと呼ばれる物は、一時的に爆発的な力を得る代わりに、勿論体にかかる負担が大きい」
「ふむふむ」
「そこで、先代の魔王……我の父上がドーピングの使用及び製造を禁じたのじゃ。そしてそれはここ数百年間、表に出回ることは無かったのじゃ」
「成程、でもそれが今になって出てきたと。それは結構ヤバいかもな」
「おそらく今、使用した選手は、然るべき機関によって尋問をうけている最中だろうな」
尋問と言うワードを聞き、ゾワゾワと鳥肌が立ってくる。
「まぁ、よっぽどの事が無い限りは、お主にとって縁のない事じゃ。安心するが良い」
「なんかフラグたってる様な気がするな」
「ねーねー、ヴァンピィあきたー」
俺の頭をペシペシ叩きながら、天使が言う。
「はいはい、帰ろうなー」
「うむ、いつまでもここにいる必要は無いからの……カスラは城で夕飯でも食べていくかの?」
「お言葉に甘えましょう」
ーーーおお、魔王に対してこの臆することの無い態度……流石俺の師匠だぜ
今日のメシは生姜焼きだそうだ……いかん、ヨダレが……
▽
「キミ、他に何か話すことすら出来ないのかね」
「彼奴だ。彼奴が……」
狭苦しい部屋に居るのは、椅子に縛られた少年と、尋問を担当する魔導師。呆れた様子で少年を見下ろす魔術師は、何十と同じ台詞で答える少年に、疲れたようにため息をつき、少年を残し別の部屋へ移動する。
「どうだ? 彼の様子は」
「だめですね。同じことの繰り返し……こちらがどうにかなりそうですよ」
上司にそう愚痴をこぼす魔導師は、再び少年の居る部屋へ戻っていく。これだからクスリ関係のヤツとは関わりたくない。
「ベルゼ王国……」
戻った時、彼は初めて他の言葉を口にした。
「っ!? ……それよりベルゼ王国がどうしたのか?」
今すぐ問い質したい焦りの気持ちを抑え、冷静に質問を始める。
「突然絡んできたんだ……『勝たせてやるよ』って」
副作用でげっそりとやせ細り、かなり力弱いトーンで言う少年に、魔術師は少し恐れを抱いた。
「それで、そのあとは?」
「殴られてそのまま気絶……気がついた時には漲っていたんだよっ」
少年の様子が変わる。
「何がだ」
「力だよチカラァ! 俺はもう戻れねんだよォ! あの力を知って、俺は元の何倍も強くなった! 一々鍛錬とか馬鹿らしくなっても仕方ねぇよなぁ……くくくっ、あははははははは!!」
先程までとはまるで別人。今度は壊れた人形のように叫び、笑う。
そして数分後、糸が切れたかのように、力なく少年は椅子ごと倒れた。
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