あれ、明日に続くんすか
魔力で威力を上昇(所謂バフ)させた攻撃が、容易くこのどこにでも居そうな男に止められた。
なんなんだこいつぅ!
とでも言いたげな様子で、俺を睨みつけるラガーマン。
ーーーつか幻術の話どこいった?
ーーー《出だしは順調ですね》
ーーー鍛えた甲斐があったよ
カスラとの修行は、実は未だに続いている。
俺がもうひとつの自我と戦い、精神的に疲弊しきった翌日、既にあの時リリィの城で暮らしている事を知られた俺は叩き起され、半ば引きずられる形でいつもの修行場へと向かい、更なる修行を積むこととなった。
そして今、その成果が実践で発揮された。
足裏から魔力を地面に突き刺し、身体を固定。そして、無属性ということで脳死で無属性の魔力を掌で放出させ、相手のバフを相殺。これでただの巨体タックルとなった攻撃を、自主練で鍛えた体幹と筋力で受け止める。
ニヤケを抑えながら、ざわめく会場を見渡す。
「は?」
しかし、目に写ったものは、驚く民衆ではなく、会場中にかかる白いモヤだった。
「とほほ……」
折角我慢して片手で受け止めたというのにこの結果。
じんじんと痛む右手を確認しようと、ラガーマンから手を離す。
「……って、お前か!」
自らふしゅーふしゅー言ってるラガーマンの身体の穴という穴から、白い蒸気の様なものが吹き出ている。
「グルァアア!」
「なんだぁ?」
警戒した俺は、後ろに退く。
「ガァアアアアァァアアアァッ!!」
ラガーマンの咆哮。
「〜〜〜っ、なんなんだよ」
ただの咆哮で、身体が吹き飛ぶ程。
「ガァッ!」
考える暇もなく、ラガーマンは両腕を振り上げ、俺に襲い掛かる。
「っ、はやっ」
先程の攻撃とは比較にならない。
攻撃が外れ、両腕が地面を打ち付ける。
「はぁ!?」
打ち付けられた地面は陥没し、フィールドは揺れる。
ーーーあんなの受けたら死ぬな俺
ーーー《なんと、そこで命尽きるマスターな―――》
「わけあるかぁわぉあ!?」
決め台詞を放ち、ラガーマンに向かおうとするが、デカい速い重いの最悪の攻撃が来る為、下手に近づけない。
ーーーてか、薬でもやってんのか?
ーーー《一時的に魔力を増幅させるものでしょうね》
ーーーいいのかそれ?
ーーー《ドーピングは駄目ですよ》
「おお」
と、言うことはだ。この試合は相手の反則負けで終わる。
早速審判へ報告する為、審判を探す……が、
ーーー成程、この為の霧ね
何とも腹立たしいが、ここは実力で勝つしか無さそうだ。
「グルァ!」
「ちぃ!」
ーーー上手く霧に隠れやがって!
だが、何とか身体が追いついている。それで十分だ。
「ガァアッ!!」
死角からの攻撃。普通なら喰らって終わりなのだろう。
普通なら。
「監獄」
上空から、無数の魔力の棒が、ラガーマン目掛けて降り注ぐ。
「グゥゥッ……!」
後数センチで届く距離に、忌々しげに呻いている。
その表情を拝みながら、俺は動きを封印したラガーマンの頭に手を当てる
「内部攻撃」
脳内部で掻き乱し、意識を強制終了させる。
三日は戻るまい。
霧がはれ、早速俺は審判へドーピングの件を報告する。
数名の審判が出てきて、ラガーマンの身体を検査している。
数分後、互いに頷きあった審判が、判定を降す。
『ファウス学院の不正行為により、試合を中止し、センス学院の勝利とする!』
どよめく会場。
「おいアカネ、何があった」
「かなり大きな声がしていましたが……」
試合を霧で見ることが出来なかったレオとレシファに、大まかな経緯を説明する。
「……成程、結局はお前の実力か」
「凄いです!」
「えへへ」
この二人に褒めてもらえれば十分だ。、
と、会場全体に鐘の音が響く。
『ここでお知らせ致します。大変急ながら、本日の試合はこれにて終了と致します。続きましての試合は、翌日。本日と同日程で行われますのでご注意下さい。皆様のご理解とご協力をお願いします』
更にどよめく会場。
「ドーピングですねきっと」
「ああ、恐らくな」
「……」
フィールドを去る途中、ふとラガーマンが気になり後ろをむく。
「っ!」
使用者の末路を目にし、やるせない気持ちに唇を噛んだ。
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