初めて
やっと、やっとクソ忙しい休日が終わりました……
ハッと我に返る。
「戻ろう」
先程までの事故は、過去の出来事だ。レヴィと過ごした短い間の友情も、所詮は過去の出来事にすぎない。
「もう、過ぎたことなんだ」
気付けば、己の唇をなぞっている。
そして蘇るのは、あの感触。
「初めて……だったんだよな」
マウストゥーマウス。交際相手のリリィとすらもしていない。
「……」
何とも言葉にし難い複雑な気持ちを抑え、会場へ歩き出す。
▽
「あっ、遅いですよツダ君」
「すいません」
「ん?」
やけにテンションの低い俺を見て、レシファが首を傾げる。
「それで、今はどんな感じに進んでます?」
追求されないため、状況確認を急ぐ。
「現在両校とも二人目、こちらも実力が拮抗しています」
言い忘れていたが、今大会は団体戦のトーナメント。各校三人一チームが個人戦を行い、先に二つ勝利を上げればそのチームの勝利となる。
「またそんな感じですか」
すると、レオが首を振った。
「あの学校、遊んでるな」
「どこの学校ですか?」
「ハモン高校」
確かに見てみると、選手の表情がまるで違う。
「ハモン高校の人は……笑ってますね」
「そうですわね、ニンゲ学院の方は疲弊していますわ」
メンバー二人も、相手選手を煽る様な態度で挑発している。
「いやー、あんなのと戦いたくないですね〜」
「「潰しがいがある(ではありませんか)」」
逃げ腰な俺の横で、目をギラギラと光らせるエリート二名。
『そこまでぇッ!!』
試合終了。やはり、ハモン高校が勝利した。
そして第三試合。
この試合が終われば、次は俺達の試合が始まる。
「そろそろ行きましょうか」
「はい」
「……」
待機所へ向かう。
▽
『それでは只今より、リック高校 対 ミラ学院の試合を始めます』
ーーーミラ学院か……そして居るもんなぁ、あの人
『両校一人目の選手前へ』
リック高校からはがっしりとしたチビな男が、ミラ学院からは、ひょろ長い男が出てきた。
開始のゴングが響き、瞬間、リック高校のチビが倒れた。
「な、何が起こったんだ!?」
会場も俺も動揺する。
「ゴングだな」
「ですね」
しかしエリート二人は、冷静に事の流れを分析していた。
「へ? どういう事ですか?」
「ツダ君の頭でも分かりやすく説明致しますと、ゴングから放出された音の波を、ミラ学院の選手が何らかの魔術を使い、リック高校の選手の耳へと届く音の波を大きくさせた。そしてその影響で脳に繋がる神経に影響を及ぼし、気絶……これが私達の推測です」
「すげぇ……」
ーーーこの時間であんな具体的な推測が……
感服した。
『勝利、ミラ学院!』
早くもNo.2の実力を見せつけていくミラ学院。
「強い……」
「私達も負けてられませんね」
俺達が改めて気を引き締めている中、レオはひとり、精神を統一している。
『リック高校、次の選手前へ』
出てきたのは、可愛らしい女の子。
「ちっちゃい子だ」
「相手を見くびるな」
レオに怒られた。舐めてかかるとやられるのはこちらだ、と言いたげな目をしている。同時に、ゴングが鳴る。
「また来たっ」
開幕の躱すことの出来ない攻撃が、リック高校に襲いかかる。
「反則すぎだろあの音攻撃」
早速、リック高校の負けを誰もが予想した。
しかし、
「うそっ!?」
俺一人、驚く。
リック高校の選手は平然としている。
「耳を見てみろ」
「え、えぇ、そういう事ね……」
耳栓。これで解決。彼女は予めおそらく魔術で作り出したであろう、特殊な耳栓で、先制攻撃を防いだ。
動揺し、一瞬の隙を見せるひょろ長を、植物のつるが拘束する。
「アタシの植物たちは少し特別でね、逃げ出すことなんてほぼ不可能さ」
小さな彼女は、そう言い、ひょろ長の腹を殴る。
それが以外にも重く響き、ひょろ長は意識を落とした。
『勝利、リック高校!』
「決着が早いなぁ」
『ミラ学院、次の選手前へ』
出てきたのは、レヴィ。
「はは、選手だったとはな」
今でも少し驚いている。
フィールドへ上がったレヴィが、こちらに気がつく。
が、直ぐに目を逸らした。
「やっぱ嫌われたな」
「さっきからなんなのです?」
レシファが苛立ちげに、女々しい俺に言う。
「なんでもないっす」
俺はそれだけ言って、試合を見届けることにした。
いつも読んでいただきありがとうございます!
疲れた……