おデート
デートと言っても、男同士だし、単に二人で外を歩くだけ……そう思っていた。
ほぼ初対面にもかかわらず、会話が思ったより弾んでいた。しかし、会話をしていく中で、ある問題に直面した。
「そう言えば……えぇと、あの」
「レヴィ。そう呼んでくれ」
名前が分からないと今更気がついた俺の様子を、レヴィが察してくれた。
「宜しくレヴィ、俺はツダ・アカネ。ツダでいいよ」
こちらも自己紹介するが、実を言うと、未だに“ツダ”と呼ばれる事に慣れていない。
「宜しくね。そう言えば、さっきツダが言いかけてたことってなんだい?」
「ん? あっ、ああ、レヴィの所属している校を知りたくてね。因みに俺はセンス学院」
「おお、あのセンス学院かい?」
「う、ん?」
あのと言われても、名門と謳われていても、俺自身はセンス学院の実力というものを未だ理解していない。
「僕んトコは、ミラ学院。知っての通り、万年この国では君の所に次いで二番目だよ」
小さく笑った彼の顔は、俺のハートをずっきゅんさせる、レオに通ずるものがあった。
「レヴィって一月にどれくらいラブレター貰う?」
「恋文か〜……」
顎に手を当て考えている。
「正確には覚えてないけど、二桁行くか行かないか位かな」
「あー、成程ね、はいはい裏山裏山」
「えぇっ、何さ自分から聞いといて」
嫉妬とかしてないし。一日最低でも一回は、女の子に思いを告げられるレオよりは全然いい方だし。適度にモテモテで良いなとか思ってないし。ついでに言わなくても、俺はゼロなんて分かりきってることだし。
「つ、ツダさーん、大丈夫ー?」
硬直する俺の顔の目の前で、手を振る美少年。
「はぁ、良いさ、俺には愛するリリィがいるもん。ヴァンピィがいるもん。他は寄せ付けないもん」
「自慢?」
「そうだよ!」
やけくそ気味に叫び、顔を見合わせる。そして、同時に吹き出す。
「あははっ、君面白いね」
「そうか?」
もっと彼と話をしてみたい。そう思っていると、
『第二試合目、ハモン高校 対 ニンゲ学院の試合が間もなく始まります』
会場から、アナウンスが聞こえる。
「ごめんレヴィ。もっと話したいけど、待たせている人いるからまたいつか会おうぜ」
「うん、またね」
会場へ走り出す。この時、一緒に戻れば別にいいものを、何故急いで戻ろうとしたのか。直後、その行動が思いもよらぬ結果になることを知らなかった。
走り出した直後、後ろから声がかかった。
「おーい、ツーダー」
レヴィだ。
「なんだろ……どーしたー?」
駆け寄るレヴィへ、俺も小走りで向かう。
この時だ。この時。
約二メートル程の距離。そこで俺は立ち止まろうとした。もう一度言う。立ち止まろうとした。はい。無理でした。
躓いた。
もうお分かりいただけるだろう。
躓いた俺に驚き、反応が出来なかったレヴィを抱きしめる形になり、そして、唇が触れ合う。
「むぐっ!」
「んんっ……」
男にしては柔らかい身体を抱きながら、しばらくの間、時が止まったかのように、所謂キスという形で硬直した。
「ぷはぁ……ご、ごめん!」
「だ、大丈夫だよ……うん」
終わった。折角できた気軽に話せるようになるかもしれない、大切な人が、関係が無くなる。
俺は、鈍臭い自分を酷く恥じた。
「んじゃあ、僕、先行くね……」
「うん……」
呆然と立ち尽くしている時、試合が行われるのか、会場からは歓声が鳴り響いている。
いつも読んでいただきありがとうございます!