とうとう来たぜ魔術大会
此処はサタニウス王国最大の闘技場。
普段はただそこにあるだけで誰も興味を示さないが、今日この日、いつになく大勢の大衆がこの闘技場に押し寄せ、闘技場内は超満員。
「はえー、すげぇな」
魔王城の自室からその光景を眺めていた俺は、ある意味圧巻と呼べるそれに対し、これから始まる国内最大イベントに胸が高鳴る。
ーーー《それ以上にプレッシャーと緊張で逃げ出したい気分なのでしょう?》
ーーー言うな、クレルよ
「これアカネよ! はよ起きんか!」
ノックもせずに部屋へ入ってくる、お玉を持ったエプロン姿のリリィ。
「おはよ」
「起きとるんじゃったらさっさと支度せんかの!」
「ごめんよ、闘技場に集まる人達見てたら緊張しちゃって」
可哀想に見せるため、視線を斜め下に落とし、泣きそうな表情を作る。
「何アホ言っておる、お主は我の恋人、我は魔王! 国の王じゃ。つまり魔王が愛する男が、そこん所そこらの学生など取るに足らぬ相手であろう?」
「ナニソノナゾノリロン」
久々にあほらしさが垣間見えたリリィ。
だがしかし、そんなに軽く言う魔王様を見て、寧ろ吹っ切れた。
「よっしゃ! 絶対勝ってくるから」
「うむ」
満足気に頷くリリィ。だが、
「って、いい感じの台詞で我の怒りから逃げられると思ったのか?」
「い、ぃいえ?」
看破されていたようだ。
ーーーか、勝てねぇ……
悟った。
▽
『大変混雑しております! 足元に気をつけて下さい! ……そこ押さない!』
上から拡声器を使って誘導する役員。
一度に十人程入れそうな入口に、何百何千と人が押し寄せ、怪我人も出始めたようだ。
「あはは、どうやら観客にも予選会があるみたいだね」
「げっ、サバン・オブジェ……」
「何か言ったかい?」
俺の背後にいつの間にか居た彼が、相変わらずの口調で愉快そうに笑う。
「それよりツダ君、俺達の入口はアッチさ」
サバンが指差した場所は、少し離れた茂みの辺り。
「彼処……ですか」
「取り敢えず行って見ればわかるさ」
言われるがままについて行く。
「ここだよ」
「んん?」
ーーーなんも無いけど
やはり茂みがただある場所としか言えない。
「解除」
サバンが何か呟いた。
「なんっだこれ」
サバンが何やら魔術を発動させたようで、茂みが割れ、そこから茂みサイズの小さな扉が現れた。
「裏ルートさ、毎年先輩が後輩に教えるというのが風潮になってるのさ」
面倒臭いけど、と余計な一言を残して、サバンは先に扉の向こうへ入っていく。
「面倒臭いのはあんたの方だと思うけどなぁ」
小さく言いながら、俺もサバンの後へ続く。
▽
扉の出口は、広めの部屋に繋がっていた。
「えっと、此処は?」
「控え室だよ、ウチの学院の」
テーブルの上には菓子類や、紅茶の葉と思われる物が並べられている。
「中々充実していますね」
「でしょ?」
と、サバンは紅茶を淹れ始める。
「サバンさんって、自分で淹れる事あるんですね」
「偏見過ぎないか? 基本は自分の分は自分で淹れてるよ」
「へぇ」
何故か感心する。
「はいどうぞ」
カップを渡される。サバンが淹れた紅茶が入っている。
「俺の分ですか?」
「他に誰がいるのさ」
言われてみると誰も居ない。
「さてと、ゆっくり皆が来るまで待とうじゃないか」
「は、はぁ……」
早速紅茶を一口口に含む。
「おぉ、美味い」
「逆に不味いと思うわけ? この俺が淹れる紅茶が」
中々にうざいサバンだが、実際かなり上手いと思う。
詳しくないのでよく分からないが、すっきりとした味わいだ。
ーーーうん、食レポ下手だな俺
紅茶を楽しんでいる間に、ポツポツと選手が揃い始めてきた。
全て味わった時には、皆が揃い終えた。
「集まりましたね」
そしてどこから現れたのか、学院長の姿が仁王立ちしている。
「それでは魔術大会、頑張ってね」
ニコリと学院長スマイル。
それだけで、選手たちの士気が爆発的に高まった。
ーーー恐ろしい程の一体感
学院長の魔術と思える程の魅力(?)に、俺は畏怖の念を感じざるを得ないでいた。
いつも読んでいただきありがとうございます!