目覚め
じんわりと温かい液体に浮かんでいるような感覚。
暗いそこで、俺はそんな感覚を楽しんでいた。
ーーーなんだろ、段々と俺のカタチが出来上がってきて……
暗闇の世界の中、俺はただそこにある意識から、徐々に体の形成が始まるのを感じる。
形成の途中、何処からか光の雫が一粒、俺の胸へと落ちる。
「あ……」
すると、その雫がまるで原動力になったのかのように、一気に身体の形成が加速し、ものの数秒で津田朱音という俺の意識の器が完成した。
ーーーあの雫はもしかして……
「そうか、成功したんだな……告白」
優しく笑い、俺はあいつに恥を見せないように生きよう。そう気合を入れ、意識を覚醒させる―――
▽
「おっ、やっと起きたのじゃ」
「リリィか」
目覚めて始めの光景は、リリィのほっとして気の抜けた顔。
「んぅ……ふぃ〜、おはよう」
「シャキッとせんか」
体がだるい。上半身を起こすのに、これ程体力を使うのかという程に。
「レシファさん」
「……」
上体を起こすと、力無く座り込むレシファが目に映る。
「ツダ君……」
「はい」
しかし表情は死んでおらず、凛とした顔で俺を見つめる。
「私に、もう一人のツダ君のことについて……ツダ君が気を失っている間に何が起こったのか、教えてください」
教えない理由はない。
「わかりました、ではそこの椅子にお掛けください」
リリィが気を利かせ、椅子を持ってきてくれた。
「では先ず、もう一人の俺について話す前に、この俺自身の話から始めましょうか……今まで黙って来たことを含めて」
「黙っていたこと」
緊張したレシファがゴクリと唾を飲み込む。
「俺は元々、この星の人間ではありませんでした―――」
▽
全てを話し終えた。
リリィは目を瞑り何も言わない。
レシファは終始驚いたり、泣いたりとひとり忙しい様子であった。
「ありがとうございました。今からなのですが、図々しく個人の事情に足を踏み入れてしまい申し訳ありません……」
「えっ、ああいえ大丈夫ですよ」
「貴方は、いつもそうやって人をすぐに許します」
「ん?」
怒りで震える声で、レシファが言った。
「私は! 私は……許して欲しくありません……ひぐっ、わだじは、ただばつを……ぐすっ、あの子をたずげられながっだがら、ばづを……」
「ちょっ、レシファさん!?」
感情が昂って自分で自分を抑えきれなくなっている。
「リリィ、暫くレシファさんを落ち着かせてくれないか?」
言葉が通じなさそうな今は、女性のリリィに彼女を任せるのが適している。
ーーーそれに……
「あの人が呼んでるしな」
誰もいるはずがない書斎から、感じたことのある思い出したくもない感覚がビンビン伝わる。
「うむ、ここは我に任せておけ」
礼を言い、部屋を後にする。
▽
書斎へ赴くと、やはり居た。
「お久しぶりです、魔王様」
「久しいな」
魔王フロウ。一体隣国の魔王がどうして此処へ来たのか。
「またお茶をしに来たのです?」
「うむ、それも良いのだがな」
「だが?」
「今回はお前に用があって来た」
真剣な表情の為、俺のハートがずっきゅん等とふざけた事は言えない。
「用ですか?」
「ああ、実はお前に頼みたいことがあってな」
「なんですか一体」
魔王が俺個人に頼みたいこと。思わず身構える。
「およそ二ヶ月後、ベルゼ王国が我が国へ戦争を仕掛ける」
「戦争!?」
「ああ、そこで同盟国として結んだ条約に基づき、サタニウス王国から戦力の要請をしている」
「えと、それはリリィに……」
「勿論報告済みだ」
すると、フロウは姿勢を正しこちらを見つめる。
「ツダ・アカネ、其方を我が国の戦力として借り入れたい」
話の流れからは察していた。
「仮に引き受けたとして、俺の役割は何ですか?」
「お前の得意なスタイルで構わん」
「報酬は?」
「しっかりと用意してある」
褒美は貰いたいが死ぬのは怖い。しかし、それ以前に片付けて置かなければならないことがある。
「あのー」
「なんだ」
「決定は、一週間後に行われる魔術大会の後でいいですかね?」
「……良かろう、決定を急いで集中力を欠いてはいかんからな」
ほっと胸を撫で下ろす。これで落ち着いて試合に望むことが出来る。
「では一週間後、お前の活躍を見せてくれよ?」
前言撤回。去り際のフロウの言葉で、全てが真逆となった。
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