捕食
GW、存分にだらけました。嘘です。逆に忙しかったです。でもだらけました。
「神として、産まれた……?」
『んまぁ、正確に言えば、“神になるために”だけど』
理解が追いつかない。
『はぁ、仕方ない、説明してあげるよ』
やれやれと首を振っている俺が頭に浮かぶ。
『“運命”という、絶対に抗うことの出来ない、道が誰かしらに存在する』
「抗えない?」
『うん、それが己の世界の意思ならば』
「なんだそれ」
新たな疑問がまた生まれるが、そこはスルーされる。
『その運命を背負って誕生したのが、君さ』
「んじゃあ、その運命ってなんだよ」
『だからさっきも言った、神になるという運命だよ』
「なんで神になんなきゃいけないんだよ」
『話が終わらないよ、こんな調子じゃ』
「それも……そうだな」
一旦落ち着くために深呼吸をする。
「これから質問していくから、お前が答えるっていう感じて頼む」
『良いよ、その方がこっちも楽だしね』
早速質問に入る。
「先ず、俺がこの世界の神になる運命ならば、どうして別の星……地球に誕生したんだ?」
『それに対してはあまり難しく考えなくていいよ』
「どういう事?」
首を傾げる。
『運命を背負うものは、例えその距離が何億、何兆光年離れていたとしても、そこへ自然と辿り着くからね』
「そんな凄いのかよ……」
『他に質問は?』
ある、と俺は言う。
「クレルは、この世界に女神が俺を連れてきたと言った。その女神はたまたま俺を連れてくることになったと言っているらしい。これはどう説明つく?」
『運命だよ』
また運命。
『此処へ来た。そういった事実は全て、“運命が導いたから”その一言で片がつくんだよ』
「なんだよそれ……」
運命という名の鎖で縛られている感じ。
「じゃあ、リリィやヴァンピィや皆との出会いも全部運命だって言うのかよ」
『いいや、それは違う』
「……」
『君は自らの意思と行動で仲間を手に入れた……いや、配下をね』
「違う!」
叫ぶことで強い否定を表す。
「俺は、俺は毎日を平凡に過ごすことが出来れば満足なんだ。皆は配下じゃない、そんな平凡な一日を共に楽しんでくれる仲間や愛する人達だ。異論は、断固として認めない」
『強情だなぁ』
そして俺は最後の質問をする。
「お前があの時レシファさんに見せた涙、あの人への恋心……すべて、もう一人の俺を演じるための演技だったのか?」
『……』
これだけは本当であって欲しい。
そう、望んだが……
『当たり前じゃん』
「っ! なら! なら何故わざわざもう一人の俺として振る舞う必要があった!?」
訴えかけるように叫ぶ。
『何故って、その方が彼女への同情を誘えて、尚且つすんなり受け入れてくれそうだったからさ。もしあの時君が死んでしまえばそれこそ運命が許さない』
「運命運命運命……って、そんなにその運命ってやつが大切なのかよ……!」
悔しさで、握りしめる手から血が滲む。
『そうだよ、だってボクがね……』
「あぁ?」
『ボクがその、“運命の意思”っていうやつだからさ』
「っ!? そりゃ一体……」
驚きで目を剥く。
『ボクの誕生は君が津田朱音として、生を受けたあの日から……あの日からボクは、地球ではないこの星の神になるべくして自我を持ち、頃合を待ち続けた』
時々不気味に笑いながら、話を続ける。
『そしてある時、君の精神に綻びが生じた』
俺が叔父を殺す直前のことだ、
『そして、ボクはその隙に君へ移り変わり、そして祈った』
「祈った?」
『“この意思を、現実に”とね』
「そんなんで一体何が……」
『出来るんだよ、ボクにならね』
もう一人の俺……運命の意思が姿を現す。
『君は、この世界の神になる事を望まないようだね』
「当たり前だ」
『なら、ボクを喰らえ。それしか運命を打ち砕く方法はないよ』
「お前を食うだと?」
『そして、ボクも君を喰らう……君の自我を奪うために』
運命の意思が不敵に微笑む。
『なぁに、ちょっとした力比べだよ……お互いの存在をかけたね』
「ちっ、上等だ」
ーーー食われたら、俺が死ぬ
久々の死の恐怖で、じっとりと汗が流れる。
『それじゃあ……いただきます』
「うぐっ!」
運命の意思が大きく息を吸うと、同時に俺の精神がそいつに吸収されていく。
「ぅ、ぉおおお!!」
負けじと、俺も大きく息を吸うように、運命の意思の精神を喰らう。
「ぉおおおおお!!」
『ぁあああああ!!』
お互いの力はほぼ拮抗している。
そして遂に……一人が食われた。
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