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チカラガアフレル

はい


ーーーなんだろう、この今までに無い感覚は


 満身創痍のレシファを眺めながら、湧き上がる力と興奮に戸惑う。


 「これが無属性魔術……いや」


ーーー俺本来の性格


 争いを拒んではいるが、いざ戦闘となると力を見せつけたい、屈服させたいなどと言った感情が一時的に昂ることが何回かあった。


 そして今、失った力と引き換えに得た新たな力、それに対する不安や喜びで不安定になった闘争心が、戦いの中で力をものにしていくことで再び燃え上がろうとしている。


ーーー落ち着け、今は本気になる時じゃない……落ち着け、俺


 深呼吸を何回か行い、冷静さを保とうとする。が、身体は戦いを求め、抑えている力が暴走しかけている。


ーーーはは、今更厨二病患者みたいなやつじゃねぇか俺




 ドクンッ



 「くっ……!」


 体中の血液の流れが急速に勢いを増す。


 そろそろ限界が近づいてきたようだ。身体の震えが止まらない。


 それが一体何故なのかはわかる。初めての感覚だが、俺は確信している。



ーーー暴走が始まる……


 

 最早周りの事を考える余裕もなくなってきた。

 

 全てがどうでもいい。


 この溢れ出しそうな圧倒的な力に身を任せたい。





ーーー壊したい。引き裂きたい。嬲りたい。潰したい。抉りたい……






 「コロシタイ」





 瞬間、体内の魔力が溢れ出す。欲望が、殺意が、喜びが、溢れ出す。



 「ガァァアアアアッ!!」


 

 力に呑まれ、薄れる意識の中に映る、見届けるかのようにただ佇むカスラの姿。


 “あの時”の様な、悲しみに満ちた顔をしたレシファ。



ーーーな、んで……泣いて……る、んだ……?



 ほんの少しだけ残る正常な思考を回転させる。



ーーーな、んで、だ……おれが……何か……したのか?



 元々馬鹿なのに、更に馬鹿になった今では分かるはずもない。


 

 「ナン……デ」


ーーーあの時、お……れが、レシ……ファさん、のお菓子食べた……からかな?



 「なん、で」


 どうでも良い疑問で、暴走した力が徐々に収まっていく。


 


 「はぁ、はぁ、はぁ……す、すいません」


 なんとか暴走する力を抑え込み、レシファに謝罪しながら、倒れ込む。


 「ツダ君……」


 ほっとした様子のレシファ。


 「これでお判りになりましたか?」

 「え?」


 木の影から声が聞こえた。


 「お姉ちゃんから離れろ変態紳士ッ!」


 飛び出したのは、綺麗に揃えられた黒髪ぱっつんの毒舌少女、レシファの可愛い妹にしてその性格はツンドラ! その名は……



 「く、クリロちゃん!?」


ーーー久々だなぁ〜



  「一体どうして此処に?」


 どうやらレシファとカスラの反応からするに、知らないのは俺だけのようだ。


 「何とぼけてるのですか! 貴方は地面に這いつくばりながら私に泣いて鼻水をダラダラ垂らしながら感謝しなければならないのですよ」

 「んん?」


 相変わらずの毒舌はスルーするとして、クリロへの感謝というのはいまいち理解が追いつかない。


 「貴方、私の能力ご存知無いのですか?」

 「えと……“深読み”だったはず」

 

 そうです! とクリロは自身の胸を叩く。


 「……そっか、そうだったのか!」

  「ほう、分かりましたかその弱いオツムで」


 クリロの能力は他人に深読みをさせること。その物事に集中して深く考えさせてしまう能力。逆に言うと、相手の意識を別の物へと移すことも可能というわけだ。

 

  「その能力ちからを利用して、暴走しようと無意識に集中する俺の意識をレシファへと逸らすことで、俺の暴走が止まった……」

 「その通り!」

 「ありがとうございます!!」


 土下座する。


 「まさか土下座するなんて……」


 若干クリロが引いている。


 「……でも、クリロちゃんが偶々此処にいたってことは無いんでしょ?」


ーーー少なくとも俺の暴走を予想していたとは思う


 「ええ、そうです」


 カスラが此方へ歩いてくる。


 「莫大な量を有する一部の者に見られる暴走……それを止められるのは、そこら辺にクリロさんしかいませんもの」

 「てか、なんで暴走すると分かっていて俺と一戦交えようと……」

 「魔力の恐ろしさというものを、身をもって体感して貰いたかったから……ですかね」

  「恐ろしさ……」


 初めて自分自身が怖くなる。


 「大抵の魔術師は“ただの”魔力を使って魔術を発動しますが、極一部の魔術師に現れる特異の性質を持つ魔力が存在します」

 「何ですかそれ」

 「自我を持つのです」


ーーーおいおいまじかよ……ってことは、もう一人の俺って……


 「そうよ、ツダ君」


 俺の動揺から察したのか、レシファが心配そうな表情で言う。


 「もう一人のツダ君……あの子は、貴方の膨大な魔力から生み出された自我なのよ」

 「は、ははは……」


 あまりの衝撃に乾いた笑いが零れる。


ーーーてことは、転移する前から、日本にいた時から俺は魔力を持っていたという事になる……地球に魔術を使う事は無い、つまり、俺の両親の両方もしくは片方が異世界から来た? いや、それだったら妹にも何かしらの変化があるはずだ……いや待て、もしかしたら逆の可能性もある。妹に魔力があって俺に……んなわけあるか! 親も死んだし全部わかんねぇままだ! ……死んだ? なんであの時親が死んだ? 事故? 本当に事故なのか? もしかして……わからない、わからないわからないわからない……! 俺は、俺は一体……



 「誰だ」

  「ツダ君、大丈夫?」



 考えれば考えるほど分からなくなる。それにもう一人の俺という存在も怖い。




 「ぅぁああああああああああッ!!」




 思考を放棄し、発狂する。


 「この変態、こわいよぅ」

 「っ! ツダ君!?」


 蹲り、息が続く限り叫ぶ。


 「ああああああああああああ!!」


 怯えるクリロ、俺を必死で呼びかけるレシファ、黙ってただ様子を見つめるカスラ。


 それからも逃げるかのように、更に声量を上げる。



 「あああああああああああ!! あああ! あぁ、ぁぅぅ……」


 酸欠状態に陥り、俺の意識は強制的に遮断されていく。


ーーーもう、いやだよ……




 『現実から目を背けようと、喚き、挙句の果てには気絶……情けないなぁ』



 誰かが、俺を嗤った。

 



 

 

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