わん!
「本日の放課後ねぇ……」
ーーー何か入学したての頃みたいだったな
自分だけを信じ、他人の力を借りようとしないプライドの高かったあの頃。
今となってはそんな雰囲気が抜けている。
ーーーでもさっきのレシファさん、様子がおかしいんだよなぁ
と、何かが引っかかる。
「……って、今日休日じゃん」
やはりポンコツ部分を隠しきれていないのか、それとも何か意図が……
「いや無いな」
と思いつつも、夕方、放課後の時間辺りに集合の場所へ来ている俺。
「やっぱ居ねぇか」
五分ほど待ったが、来る気配がない。
「クゥ〜ン」
「おっ、人に慣れてんのかな? ……よし、帰るか」
いつの間にか足元にいた、野生の比較的大人しい犬型の魔物(柴犬そっくり)を撫で、城へ戻る。
「ただいま〜」
「おかえりなのー」
ヴァンピィが珍しく、夕飯前に昼寝から目覚めていた。
「アカネよ、レシファは結局来たのか?」
「いや、レシファさん間違えたっぽいね」
「ふふっ、そうか……って、お主は何を連れておるのじゃ?」
「ん?」
「ほれ、足元」
リリィの指摘を受け、足元に目を移す。
「あっ、お前さっきの犬か」
「ワフッ」
あの時撫でた犬だ。しかしこうも簡単に、誰にも気づかれずにここまで来れたなと少し驚く。
「あっ!」
嬉しそうに声を出したヴァンピィが、その犬に近づき、撫で始める。
ーーーヴァンピィもやっぱり、可愛いのが好きなんだなぁ
「久しぶりなの、“イヌコロ”〜!」
「え、知り合い?」
うんっ、とヴァンピィが元気に頷く。
「このコの名前はイヌコロって言うの」
「敢えて“犬”という形を崩さずに、堅実で分かりやすい名前をつけるとは……いいセンスだ」
親指をぐっと立て、ヴァンピィを褒め称える。
するとヴァンピィ、イヌコロの口に耳を近づけ、うんうんと頷いている。
「あのヴァンピィ、何してんの?」
「イヌコロがなんか言ってた」
「あー、そう言えば出来んのか」
ヴァンピィは、お友達なら動物とでも会話をすることが出来るらしい。
「んで、イヌコロはなんて?」
「“イヌコロって馬鹿にしてんのかお前”だって」
「なんでぇ!?」
初の動物とのやり取りが、まさか動物に怒られるとは思わなかった。
「でもヴァンピィも言ってるのになんで……」
「なになに……うんうん、“ヴァンピィたんは天使たん、可愛いなら何されても良いわ、寧ろナニかされたいわ”だって……?」
首を傾げるヴァンピィ。
「てんめこのクソ犬! 幼女に対してなんつー事考えてんだボケェ!」
「“ヴァンピィたん助けてぇ”だって、もぅ、そんな酷いこと言うなら……めっ! だよ」
「ヴァンピィ……俺は、俺は何も……」
この犬のせいでヴァンピィに怒られた。ユルサナイ
「リリィぃ……ヴァンピィが犬に盗られちゃうよぉ」
「むぅ、しかしあの子がそれで良いのなら致し方ないと言えよう」
リリィが難しい表情をしている。
ーーーはぁ、でもそんな所もギャップがあって良いなって思うのです!
「なになに……“お前もそこの幼女にデレデレじゃねぇか! ロリコン野郎じゃねぇか! 余計なブーメラン発言控えろしks”だって、ヴァンピィなんの事かよく分かんない」
ブツンッ
あの犬、調子に乗りすぎた。リリィ、コワイ……
「ほぅ、イヌコロと言ったな……」
背後から炎が燃え上がっているかのように錯覚する。
「着地はしっかりとな」
イヌコロを鷲掴みにするリリィ。勢いよく窓を開ける。
そして、美しい投球フォームに俺は目を奪われる。
「そぉおおおい!!」
「キャゥウウン!!」
イヌコロは綺麗な放物線を描き、遥か彼方の地へ消えていった。
「やっと平和が訪れた」
「すっきりしたのじゃ」
俺達が喜んでいる中、ヴァンピィが不安そうな顔をしている。
「イヌコロ、大丈夫なの?」
「なに、心配せんで良い。あのような魔物はそう簡単に死なん」
「そっかぁ! 良かった」
切り替えの早いヴァンピィ。
「さっ、夕飯の時間じゃ」
「わーいなの」
「腹減ったぁ」
この後、いつも通り和やかな食事が進む。が、俺はレシファへの不安と、少しの恐怖、そして一割程の嘲りで、夕飯がお代わり四杯と喉を通らなかった。
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