修行
めちゃくちゃ行き詰まり、やっと執筆が終わった私がこんな夜分に失礼します。
放課後、俺はレシファとクラス委員の仕事を終わらせ、二人で帰宅しようと校門までだらだら歩いていると、
「待っていましたよ」
カスラが待ち伏せしていた。
「げっ」
「あら、カスラさん、どうしました?」
業間に俺がカスラに目をつけられた事を知らないレシファが、不思議そうな顔をして俺とカスラを交互に見ている。
「突然ですがレシファさん、ツダ・アカネをお借りしてもよろしいでしょうか」
どれだけ俺に怒っているのか、レシファに質問しているのに俺を睨んでいる。
「あら、何故いきなりそんなこと言うのですか?」
少しムキになったのか、レシファがカスラの視界に入るように、俺の前に立つ。
「失礼しました。私はこの男を性根から叩き直すために参りました」
「どうそどうぞ、ご自由にお願いします。ビシバシお願いします」
理由を聞いた瞬間、レシファが快く承諾をした。
「裏切り者!」
「ツダ君、これは何よりも、貴方のためです」
俺がレシファを非難するが、彼女は優しい表情で、ゆっくり諭すように受け流す。
「くっ!」
「それでは参りましょう」
この先は強引に腕を引かれながら、ニコニコと手を振りながら遠ざかるレシファに、助けを求めるようにして手を伸ばすだけであった。
▽
「……此処は、私が所有している土地です」
連れてこられた場所は、とある山。
暫く歩き、急に木々が無くなり、開けた広い場所がカスラの所有する土地だという。
「此処で何しろと」
「修行です」
「ん?」
「私が直々に貴方に修行をつけると言っているのです」
てっきり、カスラの知り合いの人がつけてくれるのかと思った。
「なんだ……」
ーーーよかった、これならちゃちゃっと凄いところ見せて帰ろ
「わかりましたよ。で、俺は先ず何から始めれば良いのですか?」
「魔力を体の指定された部位に流してください」
軽く手と足を広げ、指示を待つ。
「左手」
「……」
「首」
「……」
「右足首」
腰、眼球、一本の髪の毛など、細かい所まで指定され、魔力操作が得意な俺は難なくこなすことが出来た。
「……ふむ、魔力操作は一流以上ですか」
「次は?」
得意になった俺は次の指示を待つ。
「そうですね……」
パチンとカスラが指を鳴らす。
すると、十メートル程離れた地点に、地面から的らしき物が突き出した。
「彼処にある的の真ん中に、火弾で命中させてください」
「それだけで良いのですか、ではいきます」
調子に乗って余裕ぶりながら、構える。
「はぁ! ……あっ? ぁ、あぅ」
そして、気づいた。
ーーーしまったー! 魔術使えない事忘れてたぁ!
「どうかしました?」
「えっ、あぁいえ! 失礼しました。やります、やりますよぉ」
あれだけヘラヘラとした態度をとっていたため、今更出来ませんなどとは言えない。
「ぐっ!」
ーーー《鶏ですかマスター》
ーーーレシファ!?
つい先日まで、姿を捉えての会話をしていたため、少し驚いた。
「まさか、出来ないのですか?」
いつまで経っても発動しない俺に、カスラは淡々とした様子で尋ねる。
「……はい」
ーーー《素直でよろしい》
カスラの淡々とした態度が、何処か安心でき、素直に打ち明ける。
「では、貴方は“何処まで”出来ますか?」
「……」
いまいち質問の意味がわからない。
ーーー《そのままの意味で捉えて宜しいのでは?》
ーーー俺が今できる事……
だとしたら、自ずと答えは出てくる。
俺の今持っている最大の武器。
「む、無属性魔術……です」
すこし恥じらいながらも、正直に伝える。
「無属性魔術は、どの段階まで発動可能なのです?」
「固体化させた魔力を放出……というか、生み出すだけです。あとは、生み出す際に少し飛び出します」
人間界で竜に閉じ込められたあの空間の水晶は、飛び出す魔力をただひたすら当て続けた。最後は消えずに残った魔力を鷲掴みし、叩きつけて割った。
因みに初めは透明な魔力の固体だが、やろうと思えば色を付けることが出来ぞ!
「貴方が現状できることは、体内から取り出した魔力を……あぁいえ、ただ、魔力を体内から取り出す。それだけですね」
後は魔力操作が得意。そう補足して俺の評価が付けられた。
「今の貴方は、鍛え上げれば美しく輝き、何もしなければ唯の石の塊にしかならない、原石のようなものです」
「原石……」
彼女の言葉をもう一度呟く。
「では尋ねます」
じっと、カスラは俺を見る。
「ツダ・アカネ、“無属性魔術”というゴミにも宝石にもなる可能性を、私と共に磨き上げませんか?」
俺も彼女の目を逸らさない。
侮りの感情も、今は一切ない。指導者としての彼女に敬意を払い、俺は答える。
「お願いします、カスラさん……いえ、姐御!」
「あ、姐御?」
敬意を表した呼び方に、姐御は初めて戸惑いを見せた。
いつも読んでいただきありがとうございます!