マジ勘弁な
「おはようございます、ツダ君」
「あっ、レシファさん。おはようございます」
翌日、神界へ戻る神ーずを見送ったあと、俺はそのまま学院へ向かった。
「少し疲れているように見えますが……」
普段通りに振舞っているつもりだが、レシファは俺の小さな変化を見逃さない。
ーーー何故バレた!?
「昨日は結構濃い一日でしたから」
「と、言うと?」
「久々の慣れない遠出で、肉体的疲労や精神的疲労がひしひしと……」
「あらまぁ」
お疲れ様です。と、彼女は俺を労ってくれる。
ーーーんはぁ〜! もう元気百倍ですわ!
「それより、よく俺が疲れてるって気づきましたね」
油断も隙も見せていない……とまではさすがに意識していないが、ある程度心配させないように普段通りで居たつもりなのだが、彼女はそれを容易く見破った。
ーーー素晴らしい目をしているな!
「それは勿論、大切な友人なのですから」
当たり前でしょう? そう言いたげに首を傾げる。
「友達同士って、そんな凄いもんだっけ?」
「あら、どうかしましたの?」
「いえ、なんでもありません」
「なら早く行きましょう、遅刻してしまいますわよ」
軽く走りだし、先を急ぐ。
ーーー毎回思うけど、レシファさんって朝弱いのかな
俺が言えたことではないが、彼女と共に登校すると、八割方ぎりぎりの登校になる。
▽
「はーい、席に着いて〜」
本日もぎりぎりの登校となった。
ふと、レシファの座る席に視線を移すと、彼女はごめんなさいと口だけを動かした後、申し訳なさそうに笑う。
だいじょうぶですよ
此方もそう口を動かす。
「ツダ君、なに一人でにやにやしてるんです?」
タイミング悪く、担任が呆れたような声色で俺に言う。
くすくすと嘲りの含んだ笑いが教室を包む中、前の席に座る金髪ドリル、カスラだけは物凄い形相で俺を睨んでいた。
ホームルームが終わり、俺はカスラに呼ばれて、人気のない場所へと連れていかれた。
「貴方、本当に代表としての自覚をお持ちですか?」
冷たい視線を浴びせられ、緊張と恐怖と喜びとで、ビシッと背筋が伸びる。
「自覚と言うと、魔術大会のことでしょうか」
「それ以外に何がおありというのですか!」
興奮した彼女が、突然大声を上げる。
「な、なにも……おありでないっすぅ」
そんな彼女に怖気づき、俺の脳裏から中学の頃初めて先輩に怒鳴られた記憶が蘇る。
「んん、それで、貴方は代表としての自覚をお持ちですか?」
冷静さを取り戻した彼女が、再び同じ質問を投げかける。
「正直、今でも戸惑っている部分もあります……」
カスラは表情を崩さず、黙ったまま。
「でも、“勝ちたい”という気持ちは誰にも負けません……俺は、この学院の代表です!」
言い切り、暫く沈黙が流れる。
ーーー一応それっぽく熱い言葉を並べてみたけどどうかな?
「貴方、嘘ついてますね」
一発で見破られた。
「嘘って、何を根拠に言ってるんですか」
追い詰められた犯人のように、無駄な足掻きを見せる。
「何って……ココですよ! ココ!」
カスラは“ココ”と言って自分の胸を叩きながら、熱く語る。
「貴方にはココに来るものがない! 大抵の実力者達には、ココに来る何かがあるのです!」
「な、何とも抽象的な……!」
しかし、当たっているので反論が出来ない。
「ぐぬぬ……」
「さぁ、ツダ・アカネよ。曲がりなりにも代表なのですから、本当のことを語りなさい。熱いハートをさらけ出し、私に響かせてみなさい」
ーーーくそ! この人、暴走仕掛けてんじゃねぇか!
「わかりました」
ーーーこうなりゃ仕方ない。本当の気持ちをぶちかましてやるぜ
そして、なるべくネチネチとした言い方を意識して、口を開く。
「正直言うと、自覚どうこうの前に、魔術大会の重要性を全く知らない俺にとって、何処にモチベーションを見出したら良いのか分かりません。というのが本当のところなんですよねぇ。さらにぶっちゃけてしまうと、大して魔術使えないんですよねぇ俺。ですから、そんなに詰め寄られてもプレッシャーがただただ伸し掛かるだけですし、迷惑なんですよ貴女。とまぁ、そこから自覚あるかないかの話しで繋げると、“ない”と言うのが正解でしょうかね?」
ーーーよし、我ながら中々うざく振る舞えたのでは無いか?
このまま彼女には見放されてもらいたい。そう願いつつ、彼女が発する次の言葉を待つ。
「最低ですね」
カスラが呟くように言う。
「うっ……」
ーーー中々のダメージだそこれ
「初めてですよ、貴方のような落ちこぼれを目にするのは」
「それはどうも……」
「魔術は使えない。プライドもない。頭も悪い」
「返す言葉もありません」
ため息をつくカスラ。
「わかりました……もういいでしょう」
ーーーよし! やったか?
そしてカスラは俺に近づき、トドメに最後の言葉を……
「貴方の腐った性根、叩き直して上げます」
ーーー………え?
「え?」
それはあまりにも意外な言葉であった。
そして、一度彼女に目をつけられたら……
「逃げられないわよ」
「勘弁してくれ……」
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