ほげぇ!?
当たり前だが、城の門を護衛する門番は、停止ししている。その為、城の門は、俺が手で押して開ける必要がある。
「今の俺に出来ることはない」
「そう誇らしげに言うものではありませんよ」
胸を張りながら言う俺を神ーずが素通りし、女神が門に手を当てる。
「ちちんぷいぷい……」
「!?」
「とびらよ、ひーらけ」
女神の魔術(?)により、ゆっくりと門が開く。
「そもそも、時が止まった世界ですから、この門を物理的に開くことは不可能なのです」
解説のクレル先生が言う。
「空気の流れも、今は女神様が作っているのです」
「さすがです! 女神様!」
「ふつうだから」
満更でもないといった表情の女神。
「すげすげ、まじで止まってんだな」
歩いていると、未だ登場していない、メイドさん達が忙しく働いている様子で停止していた。
「着いたな」
遂にリリィのいる部屋の扉の前に辿り着いた。
ーーーてあれ? 思ったんだけど、初めからここにワープしてけば良かったんじゃね?
クレルへ視線を移す。
「おいそらすな」
「女神様、お願いします」
俺を遮るクレルの指示で、女神は扉に手を当てる。
「ちちんぷいぷい……とびらよ、ひーらけ」
ゆっくりと扉が開く。
「ただいまー!」
返事は勿論返ってこない。が、帰ったら“ただいま”が自然と出てくる。
「リリィって、近くで見ると更に可愛いよなぁ」
時が止まっているからこそ、間近でリリィを見つめることが出来るチャンス。
「ほっぺぷにぷ……ほげぇ!?」
頬を触ろうとした途端、自分の頬に凄まじい衝撃が襲う。
「な、何が起きた!?」
「それはこちらの台詞じゃバカもの!」
「へ?」
ーーーやられた
タイミングを見計らったクレルが、女神に時間を戻すよう指示したのだろう。
「何を惚けておる!」
「リリィ〜……!」
しかし、体感的に一ヶ月半ぶりの再開。感極まり、思わず抱きついてしまった。
「ちょ! え? ええ!?」
「うぅ……ぐすん」
「仕方の無いやつじゃの」
何が起こったのか分からず、戸惑うリリィだったが、俺の様子を見て、優しく言って頭を撫でてくれる。
「はっ!」
我に返り、神ーずを探す。
ーーーくそっ、絶対馬鹿にされるやつじゃねぇか!
が、二人の姿は見受けられない。
「行ったか……」
「どうしたのじゃ?」
「いや、大したこと無かったわ」
すると、リリィの表情が険しくなる。
「では、き、気を……つけて、行って……くるのじゃ、ぞ」
絞り出すかのように、泣きそうな顔でそう言う。
「あー……あっ、そゆことか」
「ん?」
「人間界、もう行ってきたから」
「は?」
これ程間の抜けたリリィの表情を、俺は見た事がない。
「事情は後でしっかり説明するから」
「絶対じゃぞ」
顔をプルプルと真っ赤にさせて、恥ずかしさと怒りを顕にしている。
「ご、ごめんね」
「別に怒ってなどおらぬ! 我が一人で盛り上がっていただけであろう! 笑いたければ笑うが良い!」
完全に怒っている。
「んみゅ〜、お姉ちゃんどーしたのー?」
昼寝から起きたヴァンピィが、眼を擦りながら入ってきた。
「ヴァンピィ〜!」
すぐさまヴァンピィを捕まえ、ほっぺスリスリをする。
「んむゅー! なんなのいきなり〜」
まだ目が覚めていないからか、抵抗せず、されるがままの状態になる。
「ヴァンピィ〜! 久しぶりだなぁ!」
「なんの話なの……」
「後で話すからよ」
ーーーリリィとヴァンピィに、今日の俺の活躍を大袈裟に語ってやる
「それじゃ……」
パンッ、とリリィが手を叩く。
「夕飯にするかの!」
「やったー!」
「お腹すいたの」
早速飯の準備を始める。
なんでも、今日のメニューは中々の出来だそう。
「待たせたの」
鍋つかみをしたリリィが、土鍋を運んできた。
「おぉ……」
「わぁ!」
本日は鍋料理。
期待が膨らむ中、リリィが蓋を外してくれる。
「キタコレ!」
「もくもくー!」
大量の湯気から見えてきたのは、はんぺんやたまご、コンニャクなどのアレには定番の具材。
そう、本日のメニューは、“おでん”
早速大根を頂く。
「ん〜〜!」
しみる。大量の汁が染み込んだ大根ほど、身体を喜ばせるものはないだろう。かなり熱いが、それを遥かに凌駕するほどの旨みとデカさ。明日には多分、舌がヒリヒリして大変なことになるだろう。
「美味しいですね」
「このぷるぷるおもしろい」
ーーーふぁ!?
いつの間にか、神ーずが同じ食卓についていた。
「いつから居たんだよ……」
「神出鬼没ですからね、神だけに」
「かみですから」
ーーーなんだそれ
人間界の冒険も無事(?)終わり、リリィ、ヴァンピィ、クレル、女神、そして俺。本日はこの五人で食卓を囲み、人間界での俺の武勇伝をたっぷり語らせてもらうのであった。
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