あ〜、ここで来るのか
三度目の寝落ちです。土下座しています。
徐々に視界が回復していく。
「うぅ……」
何度か目を強く瞑り、完全に回復した俺の視界が写した景色……それは
「岩」
恐らく草原であろうこの場所に、真っ黒なゴツゴツとした巨大な岩のようなモノが目の前に存在していた。
ーーーなんだろ
触れようとしたその時
「それに触れると危ないよ!」
何者かの声がした。
「っと」
警告を聞き、既のところで手を引っ込める。
俺は声がした方を向く。
そこには、俺と同じくらいの年齢とみられる二人の少年が、それぞれ剣を持って構えている。
ーーーえ? なになになに?
一瞬俺達に向けられたものだと思ったが、先程の警告を思い出し、対象はあの岩のようなモノだと理解する。
「こんなんただの岩だろ」
何となく空を見上げる。
「……うぇえ」
己の中では分かっていた。だが、それを受け止める度胸が俺には備わっていない。その為、俺はその正体に目を背けていた。
ーーー晴天なのに一部だけ暗いって、やっぱおかしかったか……
岩の正体……ドラゴンとバッチリ目が合いながら、プルプルと神ーずの助けを待った。
「さて、今回の所はここ迄ですかね」
クレルがそう言い、空間に歪みが出来る。
「く、クレル、はやくしてくれ頼む」
「あかねこわがり」
「怖くないんですか!?」
俺と女神が歪みの中へ入って行ったあと、クレルは二人の少年に一礼し、歪みの中へ入る。
歪みが消えたあと、二人があんぐりと口を開けていたのは、俺達には知る由もない。
▽
朱音達が消えた後、数秒の沈黙が流れる。
「なんだったんだ……」
「そんなことは後! いくよ!」
ドラゴンにも隙ができ、見計らった一人の少年が高く跳躍する。高さはおよそ五十メートル。ドラゴンの頭ほどの高さまで跳躍した。
「斬!」
言葉と同時に振り下ろされた剣からは、大きな一つの刃が放たれ、そのままドラゴンを真っ二つにした。
それを見届けたもう一人の少年が、二つに割れたドラゴンの死骸へ近づく。
「ったく、流石は“勇者様”だな……消滅」
少年がそう唱えた時、巨大な死骸が一瞬にして消えた。跡形もなく。
「何言ってんのさ、状況次第では君に負けるよ」
「へいへい……んで、さっきの三人組はどうする? 報告するか」
「いや、どうせ信じてもらえないよ。それに……」
勇者は空を見上げて言う。
「あんな面白い魔術使える人がいるんだよ、そんな暇があったら面白い魔術にもっと出会うために流離うほうが余っ程良い」
「お前の言うことはよくわかんねぇな」
すると、勇者は皮肉交じりに、
「天才様には僕みたいな凡人の意見は参考にならないだろうよ」
そう言って剣をしまい、勇者は歩き出す。
「今日のメシ誰が奢る?」
「そりゃ、ドラゴンにトドメさしたのは僕だよ」
「残念、死んでも自然に影響のあるドラゴンの死骸を完全に消滅させたのは俺だな」
「ぐぬぬ……わかったよ、今日は僕が奢る」
「ゴチになります! 勇者様ぁ!」
いつもの調子で歩き出す二人。
「お腹すいたぁ」
「ああ、俺もだ」
腹をさすりながら、二人のお気に入りの店、《早く食べちゃっ亭》を目指すのであった。
▽
「あの人達って何者?」
時が止まった世界……魔界へ帰還し、城へ向かっている道中、早速気になっていることを質問する。
「本物の勇者です……マスターのように、偽物ではなく、神に選ばれた本物の」
「まじですかい!」
ーーーやっぱいるのか、本物は
「あっ、もしかしてこの前言っていた、魔界の危機の原因って……」
「さぁ、分かりません」
「やっぱ教えてくんないか」
すると、女神が俺の裾をちょいちょいと引っ張り、少し拗ねた表情で、
「めがみさまにもしつもんあるでしょ」
プクりと頬を膨らませてそう言った。
「え? えぇと……あっ! 勇者を選んだ神様って、女神様ではないんですか?」
これは単純に知りたい。
「ちがう、わたしがえらんだのはあかねだけ」
「そ、そうですか」
突然の胸キュンな台詞に、言葉が詰まる。
「では、一体誰が……」
「しんかいのかみはほかにもいる」
ーーーってことは、ぶっちゃけどの神様か分からないと
「そういうことです」
「くれる、どういうこと?」
心を読めるのはクレルだけ。女神は不思議そうな顔で首を傾げる。
「女神様は可愛い。ということです」
「なるほど」
サラッと嘘をつくクレル。それを疑うことなく信じてしまう女神。
「そ、そろそろ先を急ごうぜ、早くリリィとヴァンピィ
に会いたいぜ」
ーーーこれ以上純粋な女神様に嘘をついちゃダメだぞ
「了解です」
「くれる、なにをりょうかいしたの?」
「女神様が可愛いということです」
「なるほど」
ーーーだから嘘は……はぁ、可愛いのは事実だからいっかぁ
俺も少し感覚がおかしくなってきた。
ーーー女神様可愛い女神様可愛い女神様可愛い女神様可愛い……
こんな調子で城へ向かっていく。
いつも読んでいただきありがとうございます!