なんかコイツもやべぇ奴だな
遅れてすいません。
「ほぅ」
扉の先の光景を見て、不思議な感覚に陥る。
ーーー何これ、ぐちゃぐちゃしてんな
空間が様々な色のマーブル模様で埋め尽くされ、上も、下も、感覚が失いそうになるくらいには、混沌としている。
「ん?」
そんな場所に、ひとつ、大きな影を見つける。
「あむ、もぐもぐ……うんめぇなぁ」
恐らく俺達から見えるのは背中だろう。
何かを食している黒い影は、俺達には気づいていない。
「なぁクレル、あれ何?」
「レジェンデ……人間界最古のドラゴンです」
「あれが?」
俺には、誰かが来たというのに、それに気が付かず、食べ物を食べているただの太ったおっさんにしか見えない。
「ではマスター、行ってきてください」
「え、あそこに?」
「あのドラゴンが、鍵なのですよ」
「そうか……よし、行ってくる」
ーーーま、ここまで連れてきてくれたんだ。自分のことはあとは俺でやろう
俺はおっさんのようなドラゴンへ歩き出す。
「あのー」
「はむ……むぐ、あむ、むぐむぐ」
ーーーだめだ。夢中になって声が届いてない。
「あの!」
「もぐもぐ……んくぅ……おっ、なんだぁ?」
ようやく気づいたドラゴンが、此方に振り向く。
確かに、後ろからはよく分からなかったが、今ならわかる。顔のかたち、腕、脚……様々な部位が、竜のそれだ。
「あなたが最古のドラゴンと呼ばれている、レジェンデさんですか?」
俺がそう問うと、
「儂がレジェンデ? だっけ、んまぁ、そう呼ばれてたな」
とぼけたように答えた。
ーーー覚えてないのかよ
「俺は、津田朱音と申します。この度は、あなたに、力を貸して欲しく参りました」
「ふぅむ、力とな……」
そう言うと、ドラゴンはまじまじと、俺を見つめる。
「……まぁ、話は聞いてやるか」
口にクリームをつけたまま、偉そうにドラゴンが言う。
「俺、自分の力だけで、最大限力を引き伸ばしたいんです」
「ふむ、それは一体何故だ、お前には見たところ、特殊だが充分な力を有していると思うが」
見ただけで、俺の力を見抜いたドラゴン。最古から生きているだけある。
「いえ、その力は、俺にとってとてつもなく大きなものです。その力を扱う器というものが、俺には備わっていないと思うのです」
「なるほど、確かに、お前の“与えられた”力は、ちと現環境においてインフレし過ぎだな」
「インフレ……」
ーーーまさかそんな言葉知ってるなんてな……さすが最古
すると、ドラゴンが突然、ため息をついた。
「一体こんな大層な力、誰が付与したのだ……のぅ、神界の者よ」
俺の後ろ、神ーずに視線を移し、わざとらしくそう言った。
「私達の存在を知っていたのですね」
「何億年生きとると思っとる、稀にだが、神界というワードは耳にする」
「ということは、人との交流もあると」
「さてな」
探りを入れるクレルを流し、再び俺へ視線を移す。
「さてと、まぁ、お前の望みは叶えることが出来るだろう」
「本当ですか!?」
「ああ」
ただし、と、ドラゴンが補足する。
「自分持つ力で強くなりたければ、勿論、それを叶えるか、全てはお前自身だ」
「楽な道のりではない事は、重々承知しています」
「そのやる気が続けば良いのだがな」
不意に、ドラゴンが俺の頭の上に手をかざした。
「壱ノ鎖……弐、参ノ鎖。これを今から断ち切る」
「鎖、ですか」
「ああ、お前の与えられた力を、無理矢理閉じ込めている鎖だ」
「む、無理矢理……」
初めて知った。クレルが急に恐ろしく感じる。
「最後に警告だ。今の力でも、お前は充分な力を持っている。その力を捨て、突破できないかも知れぬ試練を受けるか……覚悟は決まったか」
「はいっ」
後戻りはもう出来ない。俺はハッキリと返事をする。
「俺は、試練を受けます」
そう答えた時、ドラゴンは少し嬉しそうに、頷いた。
「一閃ッッッ!!」
ドラゴンの叫びと同時に、俺の背中を手刀が撫でる。
「っ〜〜!」
一瞬だけ鋭い痛みが走る。
「よし、これでお前は今、何も無いただの木偶の坊と化した」
「ふぅ……」
今のところは身体に変化は見られない。
「では早速、試練の方をお願いします」
「ああ」
するとドラゴン、何やら見たことある術を使った。
「空間が歪んでいる」
「よし、お前、この中に飛び込んでコレを破壊しろ」
“コレ”と呼び、ドラゴンが空間から取り出したのは、大きな水晶の結晶に似たもの。
「これは?」
「滅茶苦茶固い物質だ。これを破壊することが出来たら、お前はもう自分を超えることが出来ているはずだ」
「すげぇ」
その結晶を、俺へ放り投げる。
「おもっ!!」
ずっしりと、身体に重みが伝わる。持てない重さではないが、ギリギリだ。
「そ、それでは行ってきます」
両の手に抱えながら、空間の歪みへ飛び込む。
覚悟を決め、飛び込んだ時、最後にこんな言葉が聞こえた。
「あっ! そう言えば、コレ破壊しないとお前戻ってこれないから!」
今になって重要な説明をしてくれる
「こんちくしょおおおおおお!」
破壊するまで帰れません。
次回から、レジェンデの呼称を竜とします。
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