伝説の地
「いやのぅ、我も中々多忙な身なのだよ」
国王……アルド・スーンは、あれから、ずっと俺たちに愚痴を聞かせている。
「同盟国との面倒な交流、国の舞踏会で、なんかよくわからん踊りを見せられたり、紙によくわからんことを記したり……長男だからと言って、国王にされる身にもなってみろ」
ぶつぶつと、溢れる愚痴の内容はどれも、馬鹿丸出しだ。
ーーーこんなのが王で、本当に大丈夫か?
かなり頼りなく思える言動に、本気でそう思う。
だが、
「それにしても、何故家臣や国民らは、そこまで我を慕うのだろうな。出来ないことは任せきりだ……正直、我自身も国王の身に相応しいとは、一度たりとも思ったことがないと言うのに」
どこか遠い目をして言う国王を見て、先程街で俺がチンピラに絡まれた事を思い出す。
ーーー……なるほど
どうやら国王、自分自身気付いていない様だが、かなり王としての素質があるようだ。
娘の前では、暴君として振る舞い威厳をみせつける。だが、本当の顔は、民を思い、民に慕われる存在。自分の実力を分かった上で、やれることは押し付けないで自らやり、困難な仕事は優秀な者に頼む。ある意味、理想の上司で、理想の国王と言えるのかもしれない。
ーーーほんと、人って第一印象だけで決めちゃダメだな
今までの思い込みを恥じる。
「それにしても、最近娘が反抗期での……」
まだまだ国王は語る。
思わず俺は苦笑いしつつ、嬉しそうな彼の表情を見て、中々止められない。
▽
こうして、国王の話だけで夕方になってしまった。
「むっ、もうこのような時間か……すまんな、呼び出しておいて、実はこれと言った用はなかったのだ」
ーーーおぉう、こ、これは喜んでいいのか?
「無駄な時間を使わせてしまったな」
申し訳無さそうに、頭をかく。
「ああいえ、気になさらないで下さい」
ーーーほんとに初対面のときのギャップが凄まじいな
「詫びと言ってはなんだが、何か欲する物など有るか?」
「欲する物……そうですね」
貰えるものは貰おう。遠慮する素振りは見せない。
ーーークレル、俺達が目指す場所ってどこか教えて貰えるか?
ーーー《“天の頂”。そこが私達の目指す地です》
初めてクレルがヒントをくれた。一度同じことを聞いたのだが、あっさり教えてはつまらないと、流された。
早速、そこの場所への手がかりを聞いてみる。
「では、物では無く、情報を教えていただきますでしょうか」
「我が返答できる範囲でなら、別に構わん」
王国のトップなら、何か知っているのかもしれない。
「天の頂という場所はご存知でしょうか」
「ふむ……」
王は少し考える素振りを見せる。
「知っている……が、本当にそのような事でいいのか?」
「ん? ええ、その事が知りたいのです」
ーーーなんか問題あったか?
「“天の頂”。それはこの国だけでなく、大陸に広く伝えられている有名な伝説だ」
「有名なんですね」
ーーーだからさっきあんな反応したのか
「辿り着いたものは、この世の真理を知ることができると言われている」
「真理ですか」
ああ、と王が頷く。
いまいちピンとこない。
「だが、これは空想上の話とされている。我が知るのはただそれだけだ」
「そうですか、ありがとうございました」
頭を下げ、礼を言う。
「しかし、本当にそれだけで良いのか?」
「ええ、まあ、他に欲しいものとかは俺達にはありませんし」
すると王は少し不機嫌そうな顔をした。、
「お前達、今日はこの後どうするのだ」
「えと、宿に……」
そこで、現在の所持金がゼロということに気がつく。
「の、野宿します」
「はぁ、仕方ない。今日はここへ泊まっていけ」
俺の馬鹿さに呆れた様子の王が、有難い事を言ってくれる。
「え、いいんですか!?」
「勇者だけであったのならそのまま放置したのだが、女性もいるとなると、我とて見過ごせぬ」
「ありがとうございます!」
「ふんっ、別にお前の為ではないわ」
おっさんのツンデレに少し引く。
「食事もこちらで出そう」
ーーーありがてぇ
そしてこの後すぐ、俺達と国王、そして王の娘と共に食事をした。娘はすっかり俺たちのことを忘れており、女神を見て気に入ったのか、めちゃくちゃに可愛がっていた。女神は鬱陶しそうな表情をしつつも、抵抗はせず、させるがままの状態だった。
夕食後は、なんと風呂も用意してくれていた。もちろん男湯と女湯に別れる形で。
そしてたっぷりと疲れを取ったあと、ふかふかのベッドで就寝。
部屋分けは俺一人の部屋と、クレル一人の部屋、最後に女神と王の娘……ヘリアの二人部屋で夜を明かした。
▽
そして翌日
「それでは、行ってきます。本当に何から何までありがとうございました」
城門の前で最後に国王に礼を言う。二人もぺこりと頭を下げる。
「気を付けてな。あと……ほれ」
王が、そう言って俺へ何かが入った袋を放る。
「っと」
それはずっしりと重く、ジャラジャラと音が鳴る。
「これって……」
「流石に無一文ではきつかろう。少ないとは思うが、持っていけ」
「ありがとうございます!」
まさかの激励品をいただき、なぜだか泣きそうになる。
「ほれ、さっさと行ってこい」
「では、またいつか! 困った時があったら言ってください。全力で力になりますから!」
そして、俺達は城を出る。
ここから、あの地へ向かうスタートを切った。俺は絶対にたどり着いてみせる。
ーーーもう、偽物チートなんて言わせないんだからね!
いつも読んでいただきありがとうございます!