もう滅茶苦茶だよ!
アルド・スーン。
スーン王国の現国王にして、津田朱音が初めてこの世界で接触した人物。そして、俺はこの男から逃亡した。
俺のこの男に対する印象は、民から税金を多く搾り取り、自分は贅の限りを尽す。そんな男だと思っている。
「くそっ、ついてねぇ!」
「逃がすか」
しかし現在、なんと国王は恐らく顔も覚えていない俺……つまり一般庶民の前に立ち、チンピラを撃退している。
「ふぅ、こそこそと城から出たというのに、面倒事を引き起こしおって……ああ、騎士が来てしまったではないか」
俺が呆然としている中、国王が何やら呟き、直後に国の兵と見られる団体がこちらへ向かってきた。
「陛下ぁあ! また抜け出したのですか!」
「ぬっ、騎士団長か」
「いい加減にして下さい!! いいですか、貴方は国王! 子供では無いのですよ!!」
騎士団長……そう呼ばれた若々しく見える中年の男が、国王を怒鳴りつける。
「むぅ」
「むぅではありません。いい歳したオッサンがむくれても、気分を害する方が増えるだけです」
「騎士団長、我、国王……」
余りの酷い言われように、同情しつつ、あの時のギャップに驚く。
「はぁ……おい、そこの男を牢にでもぶち込んどけ」
騎士団長が、撃退され伸びている男を軽々持ち上げ、指示を出して下っ端へ男を放り投げる。
「それでは陛下、行きますよ。大臣も探していますよ」
「仕方ない……少年よ、怪我はないか?」
不意打ちに、国王が俺に向いて話しかけてきた。
「え、ええ。ありがとうございました」
そう言って頭を下げる。
ーーーバレるなバレるなバレるな……!
「では行くぞ」
国王は俺の返事に満足したのか、兵と共に歩き出して行く。
ーーーよ、よかったぁ!
取り敢えず危機は逃れた。
そう、安堵した直後、
「お前も来るのだぞ、少年……いや、勇者よ」
「なっ!」
ーーーバレてたぁ〜
国王は、少しだけバツの悪そうな顔を浮かべていた……ような気がした。
▽
案内された広い部屋に、俺はひとり、ふかふかのソファに座っている。
緊張で味が感じない茶菓子を口にしながら、いつの間にか居る女神とクレルに目を移す。
「今まで何してたんだよ」
ジト目で二人を睨む。
「それは私達の台詞ですよ、いつまで経っても戻ってきませんでしたよね」
「でもさぁ、クレルさんなら分かるよね、そんくらい」
「はて、何を言っているのです? 私が一体何を知っているのです?」
「はぁ……」
ーーーわかって言ってんだろ
「バレました?」
「はぁ……」
ウザすぎモードに突入したクレルに、緊張感を持っていかれ、丁度よくなのか知らんが国王が入室した。
「久方ぶりだな、勇者よ」
ーーー二人はスルーなのね
「お、お久しぶりです」
国王にとって、俺は逃亡した裏切り者。どんな制裁が下されるのかと、再び緊張が押し寄せる。
「して、逃亡生活は楽しめたか?」
「はい、それなりには……」
「……」
ーーーこ、こェえ! なんか知らねぇけどこェえ!
少しの沈黙の後、国王が再び口を開く。
「魔界へはたどり着けたか?」
「まぁ……はい」
「!?」
誤魔化そうとも考えたが、後々下手をやらかしそうなので、正直に答える。
「そうか……はぁ、やめだやめ。やっぱ我、まだまだ国王として威厳とか冷酷さとか足りとらんわ」
「……ん?」
とてつもなく急な脱力感に、思わず目を見開く。
「実はなー、我なー、お主とあった時なー、ビビったのだよ」
若干腹立つ言い方になっているが、取り敢えず頭を整理する。
ーーーえぇと、とにかく今の国王は、初見のあの時とは違う……つまり、本性をさらけ出した国王、ということでおけ?
ーーー《ええ》
ここで初めて、生クレルと言葉以外で会話することができると知った。
「ある日、娘が『父上、魔術唱えてよ』と言うのでな、適当にそれっぽい台詞を王室でふざけ半分に叫んだら、爆発音が響いてな……お主がいたのだよ」
ーーーそこからあのやり取りに繋がるのね
「てことで娘がいるから、威厳ある冷酷非道な国王をやってみたのだが……どうだったかな?」
「ええと、その前に国王様は魔術をお使いになるのですか?」
「いや、魔術に関して我はからっきしぞ……そう言えば、その事を我が娘も知っていたはず……何故あの様な願いを」
ーーー完全に遊ばれてんな国王様
ついでに言うと、隠し通しているつもりのへっぽこさもバレてんなと思いながら、笑いを堪える。
ーーー一体今までどんな芝居してきたんだ?
おそらく騎士団長やら家臣やらと、威厳を保つ為の芝居を娘の前ではしていたのだろう。
「一体どんな恥ずかしいこと言ってたんだろ」
「何か言ったか?」
「いえ、なんでもございません」
国王は咳払い一つし、話を続ける。
「そして、何故か護衛を倒したお前が、街から姿を消したと知りかなり驚いた」
「えっ」
「更に我は後悔した……思わず適当に魔界へ行ってこいと、無茶な命令を下したことに」
ーーーあれ護衛だったの? 俺が見つけたらめちゃめちゃ焦ってたのに?
ーーー《マスターがぞろぞろと護衛を引き連れて街を歩く……どうなりますか?》
ーーー目立つね
ーーー《そうならないように、腕っ節の強い一人の護衛を後ろから付けた……マスターが変に気を使わないよう、こっそりと》
ーーーうん
ーーー《そして、早とちりしたマスターが尾行だと勘違いして、体を透明化、そして襲撃。護衛が焦るのも仕方ありませんね》
ーーー本当に申し訳ございません
国王が何かまだ話をしているが、衝撃の事実が明らかになり、俺は罪悪感に苛まれていたため、中身が入ってこない。
そして思うことがひとつ、
ーーーどうせ全部知ってたんだったら、教えてくれてもよかったんじゃ無いですかねぇ!
心の中で叫び、話そっちのけでクレルを睨む。
クレルはというと、
ーーー《ワロタ》
と、国王の話を聞いているように見える本人は真顔。なのだが、俺の中ではしっかり馬鹿にした様な笑い方で、そう言うのであった。
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