取り敢えず混乱しております
大変遅くなりました。
神ーずと名乗る美少女二人組。
顔も姿も知らず、初めての対面。
しかし、お互いに相手のことを知っており、俺に至ってはとても世話になっている。
そんな彼女達が何故、魔界へ訪れたのか。そもそも彼女達は一体何者なのか。詳細のところは俺も詳しくは、というかほぼ知らない。
「何時まで私達は、マスターのアホズラを拝まなければいけないのですか」
「はっ!」
眼鏡美女……クレルが相変わらずの毒で俺の硬直を解く。
「はぁ、これでは私達が滑ったように見られるではありませんか」
ロリ……女神が頬に手を当て、ため息を漏らす。
「マスター、もっと気の利いたリアクションが出来ないのですか? 相変わらずですね」
「え、えぇ……」
姿が分かっても、クレルはクレルなのだとなぜだか安心した。
「あの、聞きたいことは山ほどあるんだけど……先ずこの女神様だっけ? 一体何かあったの?」
それらの話を説明するために、クレルが居るのであろう。そう思い、彼女に尋ねる。
「勿論、私達“神ーず”が参上した目的は……」
少々タメが長い。
「マスターの育成計画を実行するためです」
「い、いくせいけいかくだってー」
女神が俺に代わって、うっすいリアクションをとっている。
ーーー意味わからん、どゆことっすか
「察しが悪いですね、つまり、マスターが“与えられたチート”に抵抗がお有りでしたので、慈悲深い女神様が、わざわざマスターに“自らの力で手にするチート”を実現する機会を与えて下さったと言っているのです」
「まじすか」
クレルの後ろに隠れるようにして立っている女神を見ると、
「かんしゃしろ」
と可愛らしく精一杯ふんぞり返っている。
「あ、ありがとうございます、女神様」
「がんばってね」
ーーーきゃわいいい!!
「ひぃっ」
つい熱い視線を送っていたらしい。怯えた女神がクレルの後ろに隠れてしまった。
「豚野郎、女神様は只今先程の自己紹介でかなりのはずかしが……ごほん、で、精神力を消耗しました。そこに貴方が下劣な視線で女神様を視姦するなど、私達“神界”の者に喧嘩を売っていると捉えて宜しいですね? いいですか? 女神様はとても心が繊細なお方なのですよ、言ってしまいますが、あの自己紹介の流れも、女神様はとてつもない程の勇気を振り絞ったのですよ」
何か物凄いことをクレルが言ってきた。
女神を見ると、初めの印象とは違い、全てを出し切ったかのように、ひっそりと存在を消すように隠れている。
「ゴメンナサイ、ユルシテクダサイ」
「だそうですが、どうします女神様」
「ゆるす」
ひょこっと後ろから顔を出して、無表情で謝罪を受け入れる。
「でもこのひと、きもちわるいからや」
「ふごぉ!!」
流石に今のはダメージがでかい。
「あ、あのぅ、我置いてけぼりなんだが……」
そんな中、リリィがソファから立ち上がって寂しさをアピールしてきた。
「実際に見ると益々小さいですね、ガチロリが趣味でしたか……なるほど」
「何を言っておるのじゃ?」
「いえ、こちらの話です。魔王にも関係ない話ではありませんので、取り敢えず座りましょうか」
仕切るクレルは女神を先に座らせ、その隣に座る。俺とリリィは二人と向かい合うようにして、隣同士に座る。
「さてマスター、貴方は先程の話を受けるということでよろしいですね?」
先程の話というのは、女神が俺にくれたチャンスの事である。
「うん」
「では、マスターには再び人間界に向かってもらいます」
「何じゃと!?」
「なんで?」
リリィは驚いているが、人間界に行くという事に驚きはしない。それよりも、何故そこへ行くのか疑問に思う。
「魔界の方が、強くなる環境が整ってんじゃないの?」
「全体的に見ればそうですね」
「全体的に見れば?」
「ええ、しかし人間界のある場所に、マスターが目指すべきチートへの鍵があるのです」
ーーーなるほど、魔界にはそれがないと
「そうです」
「あのさ、俺の心の声を聞くの止めてくんないかね」
「無理ですね」
マジかと肩を落としていると、
「あ、アカネよ……お主は人間界に行ってしまうのか?」
「まぁ、戻ってくるけどね」
「それは何時じゃ? 我は何時までお主を待っておれば良い?」
「……」
心配させないように振る舞うが、難しい。
既に泣きそうなリリィに、口数の少ない女神が一言。
「この世界の時を止めてあげる」
「……!?」
元々さほど騒がしくない城が、まるで世界が止まったかのように静まり返った。否、既に止まっている。
泣きだしそうな表情のリリィがピタリと固定され、この魔界で今動いていられる存在は、俺とクレルと女神のみ。言ってしまえば、今この魔界に存在する者は、この三人のみと考えられる。
「うそだろおい」
圧倒的な力を見せつけられ、俺まで時が止まったように、驚きで固まってしまった。
「これが女神様のお力です……因みにこれくらいは児戯に等しいと言えます」
「かっこいい……」
「ふんすっ」
密かに得意げになる女神に、本気で憧れてしまいそうになる。
「では早速行きましょうか」
「え? どこに?」
「何処って……」
まさかもう……そう思ったが、こいつならやりかねない。
そして案の定、
「人間界へ」
さも当たり前のように、言い、俺の首根っこを掴んで、引きずりながらいつの間にかある、謎の空間へ歩みを進めていく。
「ちょっ、えっ? まじ?」
パニクる俺の上に、女神がこれまたいつの間にかちょこんと座っている。
「ふぅ……」
そして何故か落ち着きを取り戻した。
ーーーいやマジで、ドキドキするんだけど
久方ぶりの人間界に、不安と希望を抱く。
そして……
―――目の前が真っ白になった―――
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