やはり僕は嫌われているようです
すいません、遅れました。
一日あった休日も終わり、本日は決勝戦以来の登校だ。
いつもの様に、俺は城を出る三十分前に起床し、リリィの作った朝食をいただく。
「やっぱ朝はリリィの目玉焼きが無きゃダメだな」
毎朝目玉焼きと白米のセットが出され、毎朝そんなセリフを言う。
「そんなじっくり味わってないで、早く食べるのじゃぞ」
「そんなこと言われたって……ん〜〜!」
「うまうま」
ひと口ひと口を大切に味わう俺の横で、朝から既に三杯目のおかわりに突入しているヴァンピィ。
「ごちそうさま」
「おかわりなの!」
ヴァンピィの、底の知れない胃袋に苦笑いしつつ、席を立つ。
「ほれヴァンピィ、口の周りを汚して……」
黄身でベトベトになった口の周りを、リリィがナプキンで拭いてやる。
そのやり取りを横目に、支度を始める。
「そんじゃ、いってきます」
「ばいばいなのー」
「うむ、気をつけてな」
ヴァンピィは口を拭われながら、リリィは口を拭いながら見送りしてくれる。
「雲ひとつねぇな」
快晴の空を見上げて、歩き出す。
登校中のイベントは特に無さそうなので、ちょっとした話をしておく。
俺の名前は“津田朱音”。
多くの人達は、俺を呼ぶ時、“ツダ”や“ツダ君”と言うが、この世界では日本とは違い、名前が先に、苗字が後に書かれる。
俺の場合は、“ツダアカネ”なので、この世界では“アカネ”が苗字で、“ツダ”が名前となる。
レオは俺の事を“アカネ”と読んでいるので、しっくりくるが、俺の感覚としては何か、ムズムズする。
因みにリリィも、“アカネ”と読んでいるが、彼女には俺があちらの世界の事情を話している(が、あくまでも呼び方だけであり、俺の元いた世界の事は未だ話してはいない)。
てことで、丁度よく登校完了。
「おはよう、ツダ君」
手を振りこちらへ歩いてくるのは、レシファ。
「おはようございます、なんか久しぶりな気がしますね」
「ふふっ、私は貴方の予選をずっと見ていましたので、あまりそうは感じませんわ」
レシファの放つ笑顔と言葉に、俺の鼓動はずっきゅんばっきゅん。
「さあ、行きましょうか」
「……はっ、待ってください〜」
気づいた時には、歩き出していたレシファ。俺は小走りで後を追う。
▽
チャイムが鳴り、ホームルームが始まる。
「は〜い、みんな席に着いて〜」
担任が少し上機嫌な様子で、教室に入る。
「はい、おはようございます」
そう挨拶をすると、クラスのちらほらが、おはようございますと返す。
「さて、それでは早速、大ニュースに入りたいと思います」
大ニュース。そう言われなくとも、皆は分かっている。
「遂に、一昨日行われた校内予選の決勝が終わりました!」
そう言った担任は、ぱちぱちと一人で盛り上がっている。
「そしてなんと、うちのクラスから二人も、本戦出場の選手が選ばれました!」
一気に、クラスの雰囲気が悪くなる。
二人ということは、このクラスで対象になるのは、俺とレオしか居ない。
つまり、俺の本戦出場を快く思わないクラスメイトが、大半を占めているため、険悪なムードが漂っているのだ。
「先生、少しよろしいでしょうか」
と、ある一人の生徒が手を挙げた。
「はい、なんでしょう?」
手を挙げた生徒は、カスタ・フィーネ。金髪ドリルが特徴のお嬢様だ。
「私はアカネ君の出場ということが、全く理解できません」
遠回しに言うことは無く、どストレートに不満をぶつけてきた。
「ええっと、そう言われましても、実際にツダ君は勝ち残ったわけですし……」
「勝ち残ったという事も、怪しく思います。……一体どんな卑怯な手をっ!」
ギロりと俺を睨みつけ、言いがかりを言ってくる。
ーーー可愛いからノーダメージ
寧ろごほ……なんでもない。
「カスタさん、一旦落ち着きましょ?」
そう、担任が促すが、
「私は落ち着いています! さあ、早く吐きなさい! 貴方がどんな手を使ったのかを!」
ーーーそれを落ち着いてないと言うんだ
正義のカスタ様の尋問に、クラスの生徒達もその空気に乗っかり、俺に罵詈雑言をあびせる。
「さっさと吐けやこのインチキ野郎!」
「黙っててもなんにもなんねぇぞー」
「いや、なんにも言えねんだよ、全部正解だから」
とまぁ、こんな風に罵られるが、鍛え上げられた俺のメンタルにかかれば、こんなもの、赤ちゃんがバブバブと言っているようなものだ。
「おい」
担任も止められないほどに騒がしくなった教室の中、そんな声が聞こえた。
声量はないが、言葉の重圧や存在感が桁違いの誰かのその言葉によって、水を打ったように教室が静まり返る。
「れ、レオ様……」
カスタが、少し身震いをした。
「お前ら、そんなにアカネが信じられねぇのか」
言葉と同時に放たれる圧に、俺もゴクリと唾を飲む。
「まぁ、無理もねぇか。こいつの実力を知るやつはそんないねぇからな」
意味深に言うレオに、カスタが恐る恐る反応する。
「ど、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。アカネの実力は未だお前らには見せる価値も無いんだと」
まるで、俺がクラスにそう言ったかのように、レオが言った。
「くっ!」
そしてカスタが俺を射殺さんばかりに睨みつける。
「と、言うことで、本戦はアカネ一人で相手を全滅させるらしいから、しっかり目に焼き付けておけ」
「はぁ!?」
とんでもない事を言いやがった。
クラスの視線は未だ鋭い。
ーーーレオってこんなキャラだったっけ……
そう、肩を落とすと同時に、そう言えば前にも、こんなこと思ったよなと、どうでもいい事を思う俺であった。
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