レオ・ライオネルの普通な休日
決勝戦の翌日
日が昇る頃、寝巻き姿のまま自宅の扉を出たレオは、寝ぼけまなこの目を擦りながら、ポストの中を確認する。
「……ん」
中には、何やら可愛らしい封筒が入っている。
それを見たレオは、宛名を確認することなく、のり付けされた封筒を慎重に剥がしていく。
手紙を取り出し、内容を確認する。
「……」
彼が読んでいる時の表情は、普段通り無表情なことが多いが、時折口端が上がる。
「……ふっ」
読み終わり、他には見せない優しい笑みを浮かべる。
手紙を封筒へ戻し、忘れていた眠気が再び蘇る。
「ふわぁ」
休日なのだから、二度寝をしようか。
そんなことを考える事無く、朝食をとるために屋敷へ戻る。
「おっ! お、おお……れ、レオか、おはよう」
扉を開けると、丁度起きてきた父が此方に少し驚き、自分の息子だと確認したようで、そう挨拶をした。
「おはよう、父さん」
驚く父を見て、少し笑いながらレオも挨拶を返す。
「そうか、今日はあの子からの手紙が……」
「ああ」
「どうだ、元気にしているのか?」
「文から読み取る分になら」
そうか、と言って父は食卓へ向かっていく。レオもそれについて行く。
「おはようございます、レオ、ついでにあなた」
「つ、ついで……」
朝食を作り終えた母が、ひと足早く食卓に着いていた。
「な、なぁ母さん? まだ怒っているのかい?」
「あら、なんのこと? そもそもあなた誰?」
どうやら昨日、二人は喧嘩したようだ。冷たい母の態度に、心底困った様子の父。
「……」
それを尻目に、さっさと朝食を済ませる。
「ごちそうさま」
残さず食べ終え、流しに出したあと、やるべき事をしに自室へ向かう。
誰もいない静かな自室は、片付けられていて、ホコリひとつない。
「ふぅ、」
早速机に向かう。
ポケットから取り出すのは、先程の手紙。
宛名には、ロゼと書かれている。
「……」
もう一度手紙を読み、机の引き出しから便箋を取り出す。
その便箋に手をかざし、詠唱を始める。
詠唱を終えると、便箋が一瞬淡く発光し、小さな鳥の形となった。
レオは窓を開け、紙製の鳥を外に放る。
すると鳥は、まるで生きているかのように自ら羽ばたき、どこかへ飛んで行った。
「食われんなよ」
これがレオ流の返信。
仕組みとしては、鳥を作る際、メッセージも魔術で書き込んでおく。鳥は任意の人物の元へ辿り着くと、消滅し、メッセージだけが光となって宙に浮かび上がる。
これは初めて返信する際にレオが考えたもので、メッセージの内容は“ありがとう”や“俺も元気だ”位の素っ気ない内容となっている。
「レオ〜、ロゼちゃんにしっかりお返事書いた?」
ドア越しに、母がそう聞いてくる。
「一応」
「一応って……幼馴染なんだから、もっとちゃんと書いた方がいいんじゃない?」
「伝わればいい、あいつには」
「んもう、恥ずかしがっちゃって」
そう言って母は通り過ぎる。
「はぁ、」
幼馴染の顔を思い浮かべる。
離れた町にいるレオの幼馴染、ロゼは、生まれた時から共にいる。幼少期から変わらず、レオはある時期を抜いて基本は冷静で大人びていた。
幼馴染のロゼは、同い年の女の子。気が弱く、人見知り。他の同い年の男の子に怯える程の少女だが、レオだけにはとても懐いた。
そんな兄妹の様な幼馴染だったが、二人が中等学校に上がる時、レオは故郷を離れることになった。父が魔王軍に選ばれた為だ。
王国へ旅立つ日、ロゼはレオにしがみついて離れなかった。
何とか彼女の両親が引き離したが、泣き叫ぶロゼにレオは困り果てた。
そこでレオが提案したのが文通だ。
それを話すと、渋々といったように、ロゼはレオを王国へ送ってくれた。
ここまでは、ロゼがレオにお世話になっているのだが、実際はどっこいどっこいである。
レオは基本、クールで賢い。しかし、ある部分に問題があり、ロゼを困らせていた。
それは、『惚れやすく、冷めやすい』と言うレオの性格にあった。
一目惚れをした女の子に、どうやって好意を寄せるかをロゼに相談し、彼女は一日中相談に乗っていた。
しかし、相談している最中に、ストンと一気に冷めたように、やっぱいいわとレオが言って丸一日が無駄に終わる。そんな事が、町にいる間に二十回以上もあり、ロゼを中々振り回していた。しかもタチの悪いことに、一度惚れると冷めるまで、その人に身を捧げるほどの愛を抱いていたという。
最近のレオは落ち着いてきたが、一度、レシファに惚れて朱音に執拗に絡んでいた。だが、それでも昔よりは余程良い方。
「っと、そろそろ行くか」
暫くぼーっと風に当たっていたレオは、何かを思い出し、身支度を始めた。
「いってきます」
外へ出て、山に入る。
暫く歩き、目的のモノが見つかった。
グルルル……
目の前にいる、十メートルはあろう巨大な熊一頭。
「いくぞ」
グァアアアアアッ!!
雄叫びをあげ、此方へ猛突進してくる熊。
それに怯むことなく、レオも突っ込む。
そこから巨大熊との激闘が繰り広げられたことは、言うまでもない。
レオの趣味……熊狩り
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