おめでとう!
「ほ、ほんとに終わったんですね!?」
「ああ」
夕方になり、休日を使った長い一日がようやく終わった。
「んじゃ、俺はここで」
レオと別れ、俺はダッシュで帰宅する。
ーーー《マスター、走りながら聞いてください》
途中、クレルが俺に呼びかける。
ーーーなんかあったか?
ーーー《マスターはあの時、強くなりたいと仰っていましたね》
ーーー言ったな
正直忘れていたが、言われて思い出した。
ーーー《実はこの先……そう短くない時期に……》
ーーーなにかあるの?
次のクレルの言葉に、俺は驚愕する。
ーーー《魔界の危機が訪れます》
ーーーふぁ!? なんで?
ある程度のことは予感していたが、まさか最悪の俺の想定が当たるなど、驚かざるを得ない
ーーー《原因は、つまらなくなるので伏せておきます》
ーーーいや、教えるべきでしょ!
ーーー《マスターは他人に、映画のネタバレされて面白いですか?》
ーーーまぁ、ネタバレはダメだな……って、それとこれとは違うだろ
ノリツッコミしている余裕はある。
ーーー《とりあえず話はこれで以上です》
ーーーえっ! 予言だけして終わりっすか!?
ーーー《ええ、私はただマスターの反応が見たかっただけなので》
ーーーうわぁ
クレルの性格に引きつつも、そういえば先程までの会話に、空気のようにただあるだけの前述があったなと、クレルにはなにか意図があるのではと考えてしまう。それも含めて、クレルの計算だったのだとすると、本当にタチが悪い。
ーーーほんとマジで、俺になんか恨みでもあんのか?
と、いつの間にか足を止めていたことに気づく。
「やばっ、急がねぇと」
早く帰って、リリィとヴァンピィから癒しを受け取らねば。
▽
「ただいまー」
叫びたい衝動を抑え、平静を装いドアを開ける。
「………なんだ?」
この部屋には、いつも誰かしらいるのだが、誰もいない。そして部屋の電気もついていない。
ーーー出掛けてんのかな?
しかし、出掛けると言っても、一体どこへ?
ガチャり、と何気なく食堂のドアに手を掛ける。
「ま、いないか」
予想通り、部屋も暗く、誰もいないことを確認した俺は食堂を後にしようと背を向ける……
「っ!?」
扉を開けようとした時、突然食堂が明かりに包まれる。
「なんだ!?」
勢いよく振り返る。
そして、視線の先には……
祝! 本戦出場!!
と書かれた横断幕に、豪華な料理、更にはどデカいホールケーキが用意されていた。
「な、なにこれ」
「さて……」
「これは一体……」
「なんでしょう? なの!」
背後からの声に、ビックリする。
「ひぃい!」
声の正体はレシファ、リリィ、ヴァンピィだった。
「なんだって聞かれても……もしかしなくても俺のお祝いとか」
デカデカとお祝いのメッセージが書かれているので、今見れば直ぐにわかった。
「そうなのじゃ!」
「でも、どうやってそれ知ったの?」
いくらなんでも、先程決まったばかりのことを、もう知っているなど、中々難しいことだ。
「そこは我の能力でちょちょいのちょいじゃよ!」
「凄いなおい」
益々底が知れないリリィであった。
「ねーねー、これヴァンピィも一緒に作ったの!」
俺の裾を引っ張りながら、ケーキへ指差すヴァンピィ。
「すげぇ、美味そうじゃん!」
もしかして、これがヴァンピィの初である手作りなのか?
ーーーだとしたら勿体なくて食えん
「因みにこの凄い豪華な料理は誰が?」
「それは勿論」
「我とレシファが作ったのじゃ」
ステーキ、パスタ、カレー、肉じゃが、おでん、生姜焼きなど、色々とバラバラだが、どれもとても美味しそうである。
「さて、そろそろ席に着くかの」
感動している俺に、そう促すリリィ。
「そうだな」
席に着き、食事の挨拶をする前に、俺は三人に感謝の言葉を述べる。
「えー、今回は俺の為にわざわざ、こんな豪勢な会を開いてくれて本当にありがとう。本戦でも、もっと頑張れるよ、絶対」
泣きそうなり、声が震える俺。
皆が生暖かい視線でこちらを見るので、凄い恥ずかしくなる。
「でも、優勝してくるんで、その時はまたよろしく!!」
紛らわすために、そう高らかに叫ぶ。
この日、俺は決意した。絶対に不甲斐ない結果は残さないと。そして、俺の勇姿を見届けてもらうのだ。
魔術大会……それはどんな敵が待ち受けているのか。楽しみでもあり不安でもある。でも、俺は決して逃げも隠れもしない。
さぁ、来るが良い敵共よ。俺が全てを蹴散らしてくれよう。
いつかの、魔術大会で。
《完》
ーーーいや終わらんよ?
いつも読んでいただきありがとうございます!
すいません、ふざけました。