疲れた、眠い
戻ります。
『えー、只今をもちまして、魔術大会校内予選を終了致しまーす!』
半日行われた決勝も、ようやく終わりを迎えた。
「やっと帰れますね」
そう、レオと共に帰宅しようと立つが、
『本戦出場を決められた選手の皆さんは、これより打ち合わせが行われますので、学院長室へお越しください』
「まじか……」
いっそバックレようと思ったのだが、そもそもそんな度胸がないので、レオと向かうことにした。
「どのくらいかかるんでしょうかね」
「しらん」
レオも帰りたかったのか、少々不機嫌に見える。
▽
「まず始めに、おめでとう。見事でした」
広い学院長室に、九名の本戦出場者が集まった。
労いの言葉を発する学院長だが、それが上辺だけの言葉だということは皆理解している。表情が祝福しているとは思えない程真顔である。
「そして忘れないでね、あなた達はスタートラインに立っただけ。浸っている暇はないわよ」
これが本質。各々のドラマがこの予選で繰り広げられていたが、所詮予選は予選。あの試合はただの選抜に過ぎない。
すると、学院長は言葉の後に笑みを作り、
「でも選ばれたことにはしっかりと誇りを持ちなさい。誰がなんと言おうと、あなた達はこの学院から選ばれたのですから」
そう言った。
それはまるで、この学院の落ちこぼれである俺に向けられた言葉であるかのように聞こえる。
「さて、私からの言葉はこれくらいにして……タイニャ」
呼ばれたのは、二十代半ばの見た目をした、金髪メガネの女性。
「彼女は、この学院に二人いる副学院長のひとりなの」
因みにもう一人は、アンナ・フェースという。その人もまた、金髪の女性である。彼女は学院長が不在の時に代わりとして、仕事をこなしている。
紹介されたタイニャは、ぺこりと頭を下げる。
「どうも、タイニャ・フェースです。お気付きかもしれませんが、アンナ・フェースとは双子の姉妹でございます」
確かに、眼鏡を取れば見分けがつかない。
「タイニャには主に裏方の仕事をして貰っているの」
学院長の補足説明に、疑問が解消される。
「そして今回は、タイニャに本戦の一回戦に当たる相手を調べてもらったの」
本来は前日に明かされるものだと言うが、果たしてこのようなことをしても大丈夫なのだろうか。
「それではタイニャ、報告を」
「はい、学院長」
一歩、タイニャが前へ出る。
「一回戦の相手は、ウィザ学院です」
俺は初めて聞く(と言ってもこの学院以外何も知らない)名前だが、二学年の一部の生徒の表情が曇る。
「ええ、この学院は去年の一学年の出場者……現在は二学年となったセンス学院の一人の選手に重症を負わせた学院です」
因みに今回も出場するそう。
相手の情報は早く正確に集めることがモットーだという。
ーーーマジどうなってんだ? あの人の情報収集
俺が関係ないことを思っている中、カラは力強く拳を握りしめている。相当カラにとって許せないことだったらしい。
「作戦を立てる前に、一学年もいることですし、改めて本戦のルールを確認しましょう」
ーーータイニャはん優秀じゃ
「形式は勝ち抜き戦。同学年同士の試合が行われ、一対一で戦います。そして勝てばそのまま次の相手へ、負ければ次の味方へ交代します。そのようにして、相手を全滅させれば勝利となります」
ーーーつまりは勝てばいい。
と、脳筋な考えをしてみた。
「「俺(私)一人で終わりだな」」
レオとサラブレの台詞が重なる。
そして案の定睨み合っている。
「さて、続いては早速作戦を考えたいと思います」
クイッと眼鏡を上げるタイニャ。
「といっても、私が既に考えを用意してあります」
まず一学年、と、タイニャは話を進める。
「先鋒はレオさん、続いてがサラブレさん、最後にツダさんというように考えておりますが、質問はありますか」
サラブレが挙手する。
「なんでしょう」
「単純にこの順番にした意図が知りたいわ」
ーーーナイス質問
「レオさんが高火力で押し切り、先手を取ります。基本はレオさん一人で勝ち進むこともあるかもしれませんが、体力温存としてわざと負けを選ぶ場合もあります。そして次に出るサラブレさんは勢いに乗った状態で勝つ。そういった意図が含まれています」
「ふーん、分かったわ。ありがと」
てっきり噛み付くのかと思ったが、自分の役割を受け止めたようだ。
ーーーって、俺は!?
この調子で本日の打ち合わせは、円滑に進んでいくのであった。
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