どらごん出現
すいません! 前回の話に大きな誤りがありましたので修正致しました。
「と〜う! ちゃくっ!!」
パタさんから飛び降り、着地。そして始めてくる地に興味津々と言った様子で、走り回る。
『はしゃぎ過ぎるなよ、無駄に体力を消耗するぞ』
「わかってるのー」
『まったく』
不満げに言うヴァンピィに、先が思いやられるパタさん。
「ほら、早く行くの!」
『敵は逃げも隠れもせんぞ』
最早遊びに来たのかと思わせる、ヴァンピィに、そう言えば遊び感覚で来てるなあの子と、今更気づいた神獣であった。
▽
『あれがドラゴンだ』
「なんかひょろひょろしてるの」
目的の場所に着いた。そこには、悠々と大空を羽ばたく、ワイバーンが十匹程いた。
「ほんとーにどらごんなの? あれ」
拍子抜けしたのであろうか、ムスッと少し不機嫌な様子で聞いてくる。
『ああ、その為にわざわざ空島に来たのだ』
「でもなんか違うの〜!」
今いる地点は、地上から上空三千メートル程にある浮遊島、“空島”。この世界に五つある浮遊島の中で、最も穏やかな島だ。
ここにはワイバーンが多く暮らしており、滅多に地上へ降りることは無い。その為、ワイバーンを狩るとなったらここへ来る方が早くて確実だ。
『ほれ、気の済むまで討伐してくるが良い』
「むぅ」
渋々ながらも、ヴァンピィは、ワイバーンの方へ歩みを進めて行く。
ギャアアアッ!
縄張りに侵入者が入り、ワイバーン達は一斉にそちらへ向く。
「んむゅ?」
未だ状況が理解できないヴァンピィ。
ギャヤアアア!!
問答無用で、一斉にワイバーンがヴァンピィへ襲いかかる。
「わぁあっ!」
ようやく敵意だと分かり、間一髪で身を屈めて回避に成功する。
『どうだ? これがドラゴンと言えないのか?』
少し挑発じみたパタさんの言葉に、
「言えないの! これはただの羽が生えたとかげさんなの!」
『トカゲェ……』
ギャッ!?
心做しか、ワイバーンの元気が無くなる。
「もう、どこなの! どらごんさんはどこなの〜〜!!」
ワイバーンそっちのけで、ドラゴンに会いたいと駄々をこね始めた。
『おい、トカゲさんが怒ったぞ』
ぞんざいに扱われたワイバーン。我慢の限界を迎えたようで、各方向からヴァンピィへ攻撃を繰り広げる。
「……会いたかったの」
大抵の生物なら容易に引き裂くことが出来る、鋭い爪がヴァンピィを撫でる……刹那
!?
ワイバーンが、消えた。
否、黒い巨大な影に呑まれた。
「わぁ……」
その影の正体を確認するや否や、ヴァンピィは目を輝かやかせた。
「やっと、会えたの」
一枚一枚が鋼鉄を越える強度の鱗を身にまとい、ひとつ羽ばたく度に暴風を巻き起こす。
あの羽の生えたトカゲを一口で喰らう圧倒的サイズ。
他を寄せつけない最強の存在。
「どらごんなの!!」
『いかん!!』
ヴァンピィが感動している中、事の恐ろしさを知るパタさんは、全速力で低空を駆ける。
ドラゴンが一歩、足を前に出す。
『ヴァンピィ! 離れろ!!』
「んみゅ?」
大地が、大樹が、その一歩……ただの一歩で、見渡せる限り破壊した。
『ヴァンピィ!』
恐らく巻き込まれたであろう、ヴァンピィ。
最悪の想定が頭によぎる。
『くそっ! 私のせいで……!』
そうパタさんが嘆くのも束の間。
「凄かったの!!」
聞き覚えのある、少女の声がした。
『はっ! ヴァンピィ!!』
声を頼りに、必死で辺りを見渡す。
すると、ひょっこりと見えたり居なくなったりと、忙しく小さな影が動いているのが見えた。
『なんだ……よかった』
まず無事であったことに、ほっと胸をなでおろす。
が、それも一瞬。
『なぁ!?』
ヴァンピィを発見した。それは良いのだが、そこは……
『ドラゴンの背の上だと……』
いや、本当にどうやったらあそこまで到達できるのか。
『兎に角、今は救出が先だ』
覚悟を決め、パタさんはドラゴンへと向かう。
▽
『くっ!』
近づいているのだが、ドラゴンはそれを虫でも払うかのように、尾で侵入を阻止してくる。
しかし、そこは神獣であるパタさん。高速で迫る尾を、すり抜け、なんとかヴァンピィの元へと辿り着いた。
「あ、パタさん」
『ヴァンピィ、もう帰るぞ』
これ以上は命に関わると判断し、この島を出るよう指示する。
が
「嫌なの」
『お前の命も危ないのだぞ』
パタさんの言葉に、にぱっと笑顔で、次にヴァンピィはとんでもないことを言い放った。
「ヴァンピィね、このどらごんさんとお友達になる」
友達。
子供ならではのあまりにもぶっ飛んだ、ドラゴンとの交友関係。
『ならん!』
「っ!?」
パタさんはこの時初めて、ヴァンピィを叱った。
『確かに、ドラゴンと良好な関係を築けることができれば、良いだろう』
「……」
『しかし、それを出来る保証は? 仮に出来たとしても、ドラゴンが危害を加えないと言いきれるのか?』
「……」
『いいか、お前はまだ先があるし、可能性だって十分にある。だからドラゴンとの交友を否定はしない……だが、それはあくまでもお前が、一人前の魔術師になって初めて私が認めることだ。厚かましいが、これは何よりもお前の為である。命は一つだけだ、大切にしろ』
ヴァンピィは俯いて黙ったままだ。
『さ、帰るぞ。ここはドラゴンの背の上だ。気づかれたら一溜りもない』
パタさんがそう、ヴァンピィに近づいた時、
むぎゅぅ
ヴァンピィがパタさん抱きついた。
「ごめんなさいなの……」
顔は見えないが、おそらく泣いているのであろう。
『良い、お前にとってこの経験はきっと役立つだろう』
パタさんもヴァンピィを翼で覆うように抱く。
「明日も一緒に遊ぼうね!」
顔を上げたヴァンピィが、にぱっと笑顔でこちらを見上げる。
『帰るぞ』
「うん!」
パタさんはヴァンピィを掴み、羽ばたく。ドラゴンには幸い気づかれず、島をでた。
次に待ち受けている魔王の怒りのことは、知る由もないヴァンピィ。にやけが止まらないパタさんは、上機嫌で城へ向かっていく。
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