女の戦い
ごめんなさい、また遅れました。
「くっ……」
「無駄ですよ、暫くはどう足掻いても足を動かすことは出来ません♪」
「その口調止めてもらえるかしら、何か癪に障るわ」
「嫌です♪」
「はぁ……」
様々な意味でやりずらいカプチに、苦戦を強いられると予感し、ついため息を漏らす。魔術も封じられているようだ。
「それでは、じわじわと嬲っていきましょうかぁ♡」
「〜〜〜ッ!?」
蕩けるような声で言いながら、カプチはカラの頬を撫でる。
言いようのない高揚と恐怖に、頭が混乱する。
「な、なんなのよこれぇ〜」
「あはっ♪ かわいいねぇ」
おそらく魔術によって起こされた感覚だろう。全身が何かを求める様に、火照る。
「さあ、何して欲しい?」
カプチが、声のトーンを落とし、耳元で囁く。
「はぁはぁ……し、らないわよ! さっさと終わらせて!」
「あらあら、随分と素直ですね」
自分の意思とは関係なく、身体が求めているなどとは、口が裂けても言えない。
「もしかして……期待してます? 私にイジメられることに」
「なぁっ!」
しまった、これでは言ってしまったようなものでは無いか。
「図星、ですか」
「ち、ちがうからぁ……」
徐々に自分の体から力が抜けていくのが分かる。
「それでは、覚悟してください……ねっ!」
カプチの掌から、ビー玉程の小さな球が無数にカラへ放たれる。
「んんっ、んあぁ!」
「イイッ! 実にいい表情ですぅ♡」
異常だ。自分自身が気持ち悪い。おかしい。
これ程痛めつけられているのに、状況は最悪なのに……
「カラさん、貴女はやはりマゾでしたかぁ、これ程痛めつけられて快感を感じるなんて、ヘンタイさん♪」
「ち、ちがっ……ぅう、んんっ」
立っている足もガクガクし始める。
「ふふっ、可愛いですよ、カラさん」
「うるさ、いぃいっ!?」
反抗的な態度を示そうとするが、その度に的確な一撃を食らい、情けない悲鳴を上げる。
「もう正直にお成りなさい、後は私に身を委ねましょ?」
「はぁ、はぁっ、んっ」
自分の表情を見て、カプチは幸福に満ちた顔をしている。
「貴女こそ、ド変態じゃない……!」
「ええ、そうですよ」
「くうぅ!」
何を言っても、彼女にはサラリと流されてしまう。
「さっ、まだまだこれからですよ♪」
「っ!」
逃げられない。
そんな状況下においても尚、高揚する自分がいることに腹が立つ。
▽
そして、それから耳元で甘い言葉を囁かれながら、何度も痛めつけられた。
その度に、情けないことに、いちいち反応してしまう己がいた。
「んふふ♡」
「くぅ……」
余裕な笑みを浮かべ、まるで此方を見世物としているかのように、彼女は楽しんでいる。
負けたくない。例えどんな誘惑があろうと、絶対に勝つ。
ぼやける思考の中で、そのプライドだけは残っていた。
「さぁ、堕ちましょ♪ もっとイイ気持ちにさせてあげる♡」
悪魔の誘惑に、全身が期待に震える。
「……わかった」
「あはぁ♡」
この瞬間、カラは勝つことを放棄する……
わけが無い。
勝つ為には寧ろ、この方法しかない。
「んんっ……ぁあ!」
「とんだマゾですね……既に威力は、通常の弾系魔術と変わりありませんよ」
何とか快楽で飛かける意識を保つ。
「そろそろですかね……」
パチン、とカプチが指を鳴らす。
「あっ」
固定されていた足が解放される。
「よく耐え抜きましたね、楽しかったですよ」
そう言って彼女は、カラを攻撃していた球を呼び戻し、詠唱を唱え始めた。
「さぁ、遊びは終わりです。狂い踊れ……灼熱の苦しみ!」
放たれた球は、身体の奥深くまで刺激を与える。
全身の血液が、沸騰しているかのように熱い。
「ぁ、ぁあ……あぁあああああっっ!!」
痛い。単純に、余りにも、痛い。
今までの弄ぶような、甘い攻撃から現実へ引き戻されるような激しい痛みに、のたうち回り、再び意識を失いかける。
「お疲れさま、ゆっくり休んでね」
力なく倒れるカラに、カプチは優しく言葉をかける。
「ん?」
とどめを刺さんとするカプチが、予想外の出来事に硬直する。
「もっとぉ……もっとしてぇ……」
カプチの胸元へ体を寄せつけ、ふにゃりと垂れた潤む瞳で、蕩けた上目遣いの表情で、まだ足りないとおねだりするように、カラが甘える。
「ふぁああ///」
余裕を見せていたカプチも、これには顔を真っ赤にさせ、あわあわする。
「はっ、しまっ……」
「遅い!」
「はぅぅ……」
そしてあっさりと、カプチは眠り、戦闘不能となった。
「な、なんとか成功したようね」
カプチがカラに掛けた魔術は、魅了。
術者が対象者に触れれば敏感になったり、術者が魅力的に見えたりするアレだ。
強力だが破られた時の反動も大きい。
魅了した相手に、逆に自分が好意を寄せてしまうと、魅了が自分へ跳ね返り、相手への魅了も同時に解けるのだ。
「っ! 久々に危なかったわね……」
ズキズキ痛む身体に手を当てる。
「はぁ、疲れたわ……」
膝をつき、次の瞬間には、もう彼女の意識は闇の中へと落ちていった。
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