風にも負け……たくない
遅くなりました。ごめんなさい。
試合開始わずか五秒、突如暴風が吹き荒れる。
「なんだァ!?」
「ちぃ」
選手も含め、殆どが立つことすら困難になり、何かにしがみついていないと吹き飛ばされそうになるほどだ。
「……あいつか」
会場が激しい風に包まれる中、一人平然とした様子の人物がいた。
「ふんふ〜ん♪」
鼻歌を歌いながら、無差別に巻き込んでいる暴風を操っている。
「〜♪……さて、挨拶はこれくらいにしとこうか」
瞬間、ぴたりと暴風が止み、まるで何事も無かったかのように、一切のそよ風すら感じない。
「それが挨拶なんですかねぇ、サバン先輩」
思わず、乾いた笑みを浮かべながら言う。
「いきなりやってくれるじゃねぇか」
「僕は嫌いだな、こんなやり方は」
不意をつかれた苛立ちからか、リバースとスシはサバンと対峙する。
「おーおー、お手柔らかに頼むよ〜」
不利な状況に置かれたサバンだが、寧ろ挑発的な態度を示す。
「舐めやがってぇ……!」
「生徒会だからと、少し天狗になっているようだね」
同時に二人は詠唱を唱え始める。
「ねーねー二人とも」
「集え、水の精たちよ……」
「散り行け、そして舞え……」
何かに気がついた様子のサバン。二人にを呼んでみるが、詠唱に集中して聞こえていない。
「だから二人とも〜」
「水弾!」
「痛烈な猛攻!」
再び呼びかけるが、二人は自分に向かって魔術を発動してしまった。
「はぁ〜」
面倒そうに攻撃を躱す。
眠くなるほどのトロイお水を横に避け、ただ鬱陶しいだけの紙切れは適当に風を起こして相殺させる。
「なっ!」
「くっ、」
いとも容易く魔術を破られ、悔しそうに顔を顰めている。
「あの、二人ともさっきから呼んでんだけどさ〜」
「な、なんだやかましい!」
未だ二人が気がついていないようで、呆れたようにサバンが言葉を続ける。
「まさか忘れているわけじゃないよね……敵は俺だけじゃない事に」
その言葉に、ようやく気がついたのか、同時に二人は目を見開く。
「ま、もう遅いだろうけど」
「がっ……」
「く、そ……」
何者かにより、二人仲良く気絶。
「あら、早速脱落者が出たようね」
少し離れたところから、声がかかった。
「全く白々しいな君は」
「あら? なんの事かしら」
脱落した二人は、眠りにより戦闘不能となった。
「つくならもっと上手な嘘つこうよ、カラ」
「努力するわ」
真面目な性格なため、本気で努力するだろうとサバンは苦笑する。
「どうする? 今戦う?」
忘れてはいないが、今のカラとサバンは敵同士。
やろうと思えば、今すぐにでも戦えるが……
「遠慮しとくよ、君は苦手だ」
そう言われ、ぶすっとカラは頬をふくらませる
「あら、逃げるつもり」
「そうするよ、って、なんか怒ってる?」
「別になんでもないわよ! ほら、ちゃっちゃと行きなさい」
お言葉に甘えて、とサバンはそそくさと去っていった。
「あのー、私と勝負お願いできます?」
「あら? 貴女は……」
「あ、カプチと呼んでください」
サバンが去った直後、おずおずとした様子の少女……カプチ・コーフィがカラに勝負を仕掛けてきた。
「随分とご丁寧に仕掛けてきたわね」
「ふ、不意打ちはどうも苦手で……」
「あら、なら私が先手頂くわよ!」
カラが飛び出す。普通に殴る気だ。
「わぁっ!」
カプチはなんとか、転ぶようにして、躱した。
と同時に、カプチのポケットから飴玉のようなものが落ち、そして地に着いて直ぐに、溶けるようにして消えた。
「本当に勝ち上がってきたの?」
「ほんとですよぅ」
「安心して、今度は優しく眠らせるから……ね?」
コツコツと、終わりを告げるカウントダウンのように近づいてくる足音に、恐怖を感じたカプチはカタカタと震えている。
「さぁ、今眠らせて……って、なによこれ」
「ふぅ、良かったですぅ」
カプチとの距離が僅か一メートル程になった時、地面に足が固定されたかのように、カラの足はピクリとも動かなくなってしまった。
「何をしたか聞いてもいいかしら」
「罠です♪」
そう答えたカプチの様子は、先程までの臆病な雰囲気はなく、軽い調子だが、獣の目をした、狩人だった。
「少しまずいわね」
「さて、そんな余裕はいつまで持つのでしょうか♪」
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