決着
遅くなりました。ごめんなさい。
満身創痍と言っても過言ではないレオだが、攻撃の威力や速度が衰えることは無かった。寧ろ時間が経つにつれ、勢いが増している気すらしてくる。
「オララララララァア!!」
「ふっ、ほっ」
そして未だ自らの爆発で、推進力を上げて繰り出す猛攻。そんな諸刃の剣の回避にも、そろそろキツくなってきた。
ーーーやっぱすげぇや、俺みたいに与えられたチートじゃない、元からのチートは
今は俺が圧倒的に勝っていると言って良いのかもしれない。
しかしそれも時間の問題。いずれは伸び代のあるレオに負ける時は必ず来る。そう遠くない未来に。
ーーーだからどうすっかなー、俺は
ーーー《なんです? 勝負の最中に考え事なんて》
久々のクレル登場。
ーーー出来ればもっと強くなりたいなーって考えただけ
ーーー《それまたどうして》
ーーー何が起こるかわかんないだろ? この世界結構物騒だから
ーーー《今でも十分お強いではありませんか》
いつもと言動がおかしいクレル。何か企んでいるのかと考えてみたが、思いつかないので放棄。
ーーー別に強いに越したことはないだろ
ーーー《そう、そうですよね。言質はとりました、ありがとうございます》
物凄い含みのある言い方をしてくる。
ーーー絶っっっっ対なんかまた嫌なことさせる気だろ
ーーー《どちらでも良いではありませんか、言質は取ったのですから》
ーーーこの……
ーーー《試合に集中しましょう、ほら早く》
クレルに逃げられた直後、顔面への右ストレートが放たれる。
当たる直前にその腕を両手で掴む。
「ちぃ」
そのまま下手くそな一本背負いをするが、レオは足で着地するような形で踏ん張る。
俺はそこでレオの爆発に警戒し、手を離して離脱する。
「まじでめんどくさいなお前」
その台詞だけ、普段のレオの雰囲気に戻った。
ーーー初対面の時みたいなキャラと普段のキャラ……多分作ってんな
おそらくチンピラっぽいキャラ。レオは自分を奮い立たせるとき、そのチンピラキャラを作ることで鼓舞しているのだろう。
ーーー痛い人なのか違うのかよくわかんないな
というか、今はそんなことどうでもいい。
「行くぞごらぁ!!」
「ご丁寧にどうもありがとうございます」
わざわざあちらから教えに来てくれて、とても有難い。
そろそろ直線的になりつつある攻撃を、楽々躱す。
「ほらほらどうしました先程までの威勢はぁ!」
悪役のように煽りを入れる。
「るっせぇ! 俺はーーがはぁ!?」
攻撃しながらレオが何かを言おうとしていたが、構わず蹴り飛ばす。
「すいませぇん、最後まではっきりとお願いしまーす」
「てんめぇ……」
起き上がろうとするレオを踏みつける。
「どうですレオ? プライドがズタズタですよねぇ?」
たっぷりと悪意に充ちた笑みを貼り付け、背中をふむ踵に体重をさらに加える。
「ぐぁぅぅ」
「情けない声出して……滑稽ですね」
そんなレオの表情は、苦痛の他に、驚愕と困惑と言った表情が伺える。
「な、何故こんなことを……」
「何故って?」
ーーー知らないよぉおん!! 俺が一番聞きたいよぉ! だって、なんでか知らないけど体が勝手に動いたんだもん!
幾ら勝負だからといって、こんな事されては多分、レオが俺に接しようとしなくなる。
「馬鹿なのですか?」
「な……にが」
ーーー馬鹿なの!? 馬鹿なの俺は!! ほんとマジでなんでこんなことした!?
おそらく、多分だが、何度も立ち上がるレオの姿を物語の主人公に見え、俺がどうせなら悪役にまわろうと心のどこかの小さな俺が思っていたのかもしれない。
「ちっ、まぁいいでしょう」
そう言って俺は、レオから足をどけ、そのまま邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばす。
ーーーだから何やってんの俺ぇ!
レオは尚も立ち上がり、俺へと向かってくる。
向かっては倒され、向かっては倒されーー
どのくらいそれが繰り返されたのだろうか。
「まだ立ちますか」
完全な悪役の俺が気だるそうに言う。
ーーーこうなったらもうやってやらぁ
「はぁはぁはぁ、お、俺はァ……どんな戦いでも、勝つ……!」
突然、レオから何やら悪役にとってヤバめのオーラが溢れてきた。
ーーーそろそろお時間がやってきたか……
いつの間にやらバチバチと電気のようなものを纏い、同じく電気のようなものでできた長剣を手にしている。
「これで最後だ……」
「さ、さぁ? どうでしょう」
覚醒した主人公対B級の悪役
ーーー今がちょうどいいタイミングだな……負けるには
そう、初めから俺は勝ちなど狙っていない。この場においての勝ち、つまり優勝は、学院長の指示で止められている。
そう考えると、悪役になった俺は案外都合がよかったのかもしれない。精神的にキツくても、簡単に負けることが出来る。精神的にキツくても。
レオは剣を腰にかけ、居合斬りの構えを取る。
ーーーはぁ、突っ込めばいんでしょ突っ込めば
「終わりです!」
「……」
俺が無謀にも構えているレオに、一直線に突っ込む。
「ラァアア!」
ーーーさぁ、主人公君……
「貴方の勝ちです」
そのまま俺を一閃。
そして俺は負けた。
「あの、最後爆発使ってないじゃん、レオ」
そう、ボソリと呟いて。
いつも読んでいただきありがとうございます!
そういえば、いつの間にか100話到達してましたね。特に思うことありませんが。