よし、真面目に戦おう
遅くなりました。ごめんなさい。
『始めぇえ!!』
ミエが改めて参戦し、試合が再開した。
「隙あり~」
「なにぃ!」
同じように暫くは睨み合いが続くのかと思いきや、開始の合図とほぼ同時に一人の選手が、リフの背後を取った。
「く、そぉ……」
反応しきれなかったリフは、動くことすら出来ずに、首トンでそのまま意識を失った。
「秘技、“斬首”」
ミエだ。
油断を誘っているのか、それともただの馬鹿なのか、彼女は技名らしき単語を口にし、いまいち説明し難いポージングをとっている。
ーーーてか斬首って……
そんなミエの足元で、意味深に抱えていた書物を使用すること無く倒れたリフ。転移される瞬間の彼の顔は、どこか清々しい顔をしていた気がする。
ここまでで開始から約十秒。
ミエが動いたことで、他全員も動き出した。
「じゃあ、次はモブ君だ」
リフを仕留めたミエは、次の標的を俺にしたようだ。
彼女は常人ではありえない速度で、一気に俺との距離を詰めてきた。
「変な人に目付けられたなぁ」
ーーー《それはともかく、マスターはこの決勝戦をどう戦うのです?》
ーーーもちろん睡眠縛りでいくわ
くれぐれも本気で戦うなと、学院長から言われてはこちらも下手には動けない。
ーーーしかもこっち見てるし学院長
学院長の視線に目を合わせないよう、ミエから視線を離さない。
「そ、そんなに見つめても私はキミになんか……興味、ないし」
「はぁ……」
一体何を勘違いしているのか、ミエは恥ずかしそうに俺から視線を外した。
「ざんねん、前回の俺みたいな事になってんぞ」
「あっ……あぅぅ」
自ら隙を作り、そして俺の魔術で呆気なく眠りに落ちた。
「無駄に速くても、動いてないんじゃ脅威ではないな」
相手がヒュプノスッ!!ではなかったら強キャラポジであっただろうミエの転移を確認し、俺を除いた残り三名の選手を探す。
「あら、集まってたな」
俺とミエが対峙している間、三人は1対1対1で戦いを繰り広げていた。
「爆ぜろ」
レオの魔術で二人は防戦一方。
どちらかと言うと、レオが二人を嬲っているようにも見える。
「可哀想に……」
俺がそう二人に同情の言葉を呟くと、
「爆ぜろ」
俺の足元が爆発した。
「おっと!」
巻き込まれる寸前、後ろに飛んで回避。幸い無傷だ。
もし巻き込まれていたら多分、軽い怪我では済まないだろう。
「こいつらじゃ準備運動にもなんねぇ、アカネ、お前が相手しろ」
「えぇ……まじかよ」
レオの相手である二人の方を見ると、回避やら防御やらで魔力を使い切ったのか、立ち上がることすら出来ないようだ。
ーーーてことはつまり
実質俺とレオの一騎打ち。
「どうした、早く来い」
「あそこの二人のどっちかを脱落させて、終わりにするというのは……」
「ほざけ、お前からこないんだったら、俺から行くぞ」
一気にレオと俺の距離が縮まった。速い。ミエとは比較にならない。
俺が呆気に取られたと思ったのか、レオは右腕を大きく振り上げる。いきなり全力で俺を殴る気だ。
「舐めすぎですよ」
俺はレオの拳が降りる前に、左手で振り上げたレオの腕をつかみ、彼の腹目がけて膝蹴りを繰り出す。
「それはお前だろう?」
俺の膝蹴りを、レオは左手で受け止めた。
「やっぱりやめません?」
「もう遅せぇよ」
レオは俺の膝を掴んでいる左手の力を更に込め始める。
「爆ぜろ」
瞬間、俺は爆発が来るのを察知し、強引にレオから膝を引き離し、後ろに飛ぶ。
「ちっ、力もあんのか」
「最近爆発しか使いませんけど、馬鹿の一つ覚えですか?」
「ああ?」
レオの気を乱す為に、俺は挑発を仕掛ける。
「んなもん決まってんだろ」
「何がです?」
「余りにもこの予選会が退屈すぎるから縛り入れてんだろうが」
「……」
言葉が出ない。レオは縛りの意味を理解しているのか。
確かに、準決勝に入ってからはただの“爆発”のみを使っていた。だが、周りにとっては、その“爆発”こそが最大の脅威であり、その最大の脅威をレオはそうとだとは思っていない。つまり、爆発を縛りに選んだレオは、最大の脅威を撃ちまくり、無双状態になっていたのである。
ーーーしかも、それで満足していないからタチが悪い
しかし、俺と同じくレオも縛りを入れていたと知ったからには、レオであろうと、怖くもあるが俺も縛りの状態で戦わなくてはならない。
「おら、まだまだ行くぞ」
ヤル気全開でこちらへ歩いてくるレオに引きつつ、俺も気を引き締める。
「言っておきますがレオさん」
「あ?」
俺もレオに向かい歩き出す。
息が掛かるくらい近づいて止まった。
「俺はそう簡単には負けませんよ?」
「おもしれぇ」
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