あっれれぇ? おっかしぃいいいぞぉおおおお?
すいません、前回誤った記入をしてしまったので訂正致しました。
「なんだ、この違和感……」
決勝戦開始。
選手は皆、未だ誰一人攻撃を仕掛ける気配はない。時を見計らっているのか、それとも単に動けないでいるのか。
その沈黙の時間、俺は何か妙な気持ち悪さを感じていた。
ーーーいや、気持ち悪いって言うわけじゃねぇな、なんだ? なんかこう……ああもう! やっぱ気持ち悪ぃな!
「この時間を利用するか」
本当は試合に集中したい。だが、違和感の正体に気が付かなければ、この試合自体が成立しなくなる。そんな気がした。
ーーーなんだ、一体何がおかしいってんだ
選手の人数……いや違う。
誰かひとりいない……これも違う。
本当は六人なのに、実際は俺含め五人しかいない……ある筈がない。
しかしさっきから同じような考えしか浮かばないが……
ーーーいやいや、あるわけな……く、な……い?
「あぁあああああ!!」
ようやくわかった。分かってしまった。
観戦者、選手共に突然叫びだした俺に注目している。
普段なら、やっちまったと後悔するところだが、今の現状を知ってはそれどころではない。
「ちょ、ちょっと待ってください! 一旦中断お願いします!!」
俺は事実を伝えるため、審判に言う。
『え? え、えぇと……』
「いいから! 大事なこと忘れてんだよアンタも、皆も!!」
ざわつき始める中、俺は必死で叫んだ。
『わかりました……選手の皆さん、一旦この試合を中断と致します』
「ふぅ、よかった」
試合中の緊張が抜ける。
申し訳ないと思いつつ、俺達選手は審判の元へ向かった。
「おい、何があった」
「あっレオ、今から説明しますよ」
一年の選手が全員集まり、急遽数名の教師とセラも駆けつけてきた。
「アカネ君でしたね、一体どうしたのですか?」
「審判さん、確認です。この決勝戦の参加人数は“六人”で合ってますよね?」
「ええ、そうです」
答えを言うのはとても簡単だ。答え自体も単純すぎる。
だが、その単純すぎる間違い……と言うよりも意識から外れていたことにおそらく誰一人気がついていなかった。余りにも自然すぎたから。
だから俺は、ひとつひとつ確かめながら説明していく。皆が誰一人気が付かなかった、とても簡単で大きなミスを確実に理解して貰えるように。
「では、その六人の選手全員の名前を確認してくれますか」
「え、ええわかりました」
審判は少しわからなそうに眉をひそめたが、従ってくれた。
「ツダ・アカネ、グラーリ・ヘブネス、サラブレ・リーロー、レオ・ライオネル、リフ・ロモンですね」
ーーーいや、ドヤられても間違ってますから……
「では、もう一度尋ねます。この決勝戦の参加人数は、“六人”。それで間違いありませんね?」
「ですから、そうですと言ってますよ」
審判は少し溜息をつき、疲れている様子を見せる。
「それを確認したうえで、今現在、ここに居る選手の参加人数を確認してください」
「はぁ、一体何なのよぉ〜」
ぶつぶつ文句を言いながらも、ひとりひとりの名前と顔を確認しながら、数えてくれる。
「……で、最後にツダ・アカネ君。君で一学年決勝の選手最後ですよ」
「先程数えた選手の人数は?」
「だから、“五人”だって言って……」
ようやく、明らかにこの状況がおかしい事に、審判だけでなく他の選手も気づき始めた。
「その通りです。決勝戦の参加人数が“六人”なのに対し、先程まで試合を行っていた人数は“五人”」
「うそ、こんな初歩的なミスするなんて、馬鹿みたい……いえ、馬鹿だわ私」
ガックリと項垂れる審判。
「早くも見破られたか」
突然近くから、何者かの声が聞こえた。
「とうとう出てきてくれましたね、“六人目の選手”が」
リフが美味しい台詞を持っていきやがった。
ーーーなんだよ、そのメガネクイッは!
「一体何故、そのような事をしたのです」
何故かリフが仕切り始めた。
「バレてしまっては仕方ない……」
姿の見えなかった六人目が、俺の隣に姿を現した。
「こんにちは、私が最後の選手……ミエ・フカシです。よろしく」
ミエ・フカシと名乗った女は、濃い紫色のショートをした可愛い女の子だ。声色からして大人しいイメージだ。
「んん、審判として審議に関わる事なのではっきりと聞きます」
「どうぞ」
「貴女の動機を答えていただけますか?」
「がってんしょうち」
全く緊張感がないミエに、場の空気が変に緩む。
「私は自らの“存在の価値”を自在に操る能力を持っている」
「すいません、いまいちピンと来ませんので、もう少しわかりやすくお願いします」
「おけまる。例えば、私の力を使えば皆が私だけを見て、私だけを贔屓させたり、逆に私の存在価値を下げることで、私の事を眼中にしなくなって、いてもいなくてもどちらでも良い存在にしたり出来る」
「なっ……そんなことが出来てしまうの!?」
ミエの説明に、全員が目を剥く。
ーーーそれってヤバくねぇか? 完璧に使いこなせば、世界を支配できるぞこれ
「因みに今回は自分の存在価値を下げて、皆が私をそこら辺の石ころ以下の存在と見なす状態にした。それで数が減ったらひょっこり参上する予定だった……寂しかった」
「貴女が自分でそうしたんでしょうが!」
するとミエは、でもと言って俺を見る。
「君は私が居ないことに気が付いたな、私の目的を邪魔したとはいえ少し嬉しかったぞ……見た目はモブキャラなのに凄いじゃないか」
「最後は余計だから!」
「もしかすると私以上に存在を消せるかも」
「絶対貶してるよね!? 貶してるよねぇ!」
一体俺を虐めて何が楽しいと言うのか。
ーーー俺は存在価値コントロールしてねぇぞこら
ーーー《元々の存在価値が底辺ですから未だ優しい方ですね》
ーーー嘘だよね!?
「はいはい……で、どうしましょうか」
乱れてきた空気を、セラが仕切り直す。
「先ず優先なのが、この娘をどう対処するかね」
「そうですね……」
審判とセラが、異例の事態に真剣な表情をして話し合う。
「審判として貴女はどう思う?」
「私は……試合を仕切り直すのがよろしいかと」
「なぜ?」
「試合は戦う前から始まっている。その事を先程まで忘れていました。私も、ツダ君も、皆さんも」
「つまり、ミエさんの責任が全てではないと」
コクリと審判は頷く。
「んまぁ、当たり前よね。寧ろミエさんに非は一切無いわ。どちらかと言うと試合を中断まで持ち込んだクソガ……ツダ君に非がありそうにも思えるわね」
「俺!?」
「そりゃそうでしょう? 突然試合を中断させて何かと思えば、選手が居ないからなんて……馬鹿みたいな発言ね」
反論を口にしようとするが、全く言葉が出てこない。
「ぐっ……」
「ふっ、まぁいいでしょう。取り敢えず試合は仕切り直しにしましょう、審判がそう下したのだから」
セラのざまぁwwww といった表情がここ最近で断トツにムカついたが、切り替えるしかない。
何故なら、本当の決勝戦がここから始まろうとしているから。
いつも読んでいただきありがとうございます!