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妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
神の戦争と巻き込まれる世界
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54 ミノタウロスの住む町 その2

その2です。

 町の滞在期間を延ばし、途端に暇を持て余したペスカの企みは、そこから始まる。先ずペスカは、空と翔一に魔法の指導を行った。

 

「イメージの具現化って意外と難しいね」

「チッ。爽やかな笑顔で謙遜すんな、頭脳系イケメン」

 

 大抵の事は卒なくこなす翔一は、教えているペスカが舌打ちして悔しがる程、魔法の習得が早かった。

 大抵の国の兵士には、魔法の習得が必須で有る。兵士の中でも特に魔法に秀でた者は、近衛隊や騎士隊に所属を許される事が多い。しかし彼らは、幼少の頃から誰もが並々ならぬ努力をしている。


 魔法を習得する際に難しいのは、イメージの具現化である。例えば、炎を起こすイメージや風を起こすイメージである。仮に日ごろ目にしているものであっても、それがどういった原理で起きる現象なのかまでは知り得ない。

 ただ日本人の場合は、義務教育時に自然科学の基礎を学び、実験でより具体的な知識の習得をする。

 この教育課程による、違いは大きいだろう。原理を知ると、イメージがより鮮明になる。また、応用が利く様になる。それは、一つの形に止まらず、様々な現象を引き起こす事も可能になる。

 たった数日で、近衛隊に匹敵する魔法の使い手になった翔一を、嫉妬する兵士は多い事だろう。

 

 空に対してペスカは、防御系と回復系を限定して魔法教えていた。


「ペスカ、空ちゃんには、色々教えてあげないのか?」

「良いんだよ。マナの扱い方はもう教えて有るし、それに魔法で攻撃する大和撫子を見たいと思う?」

「いや、見たくねえな」

「それに、空ちゃんのオートキャンセルって、下手な魔法よりよっぽど無敵だよ。鍛えればお兄ちゃんの神剣も、打ち消すんじゃない? オートキャンセルを利用した結界なら、多分どんな魔法も通用しないね」


 ペスカと話をしながら、冬也が魔法の訓練をしている空に目をやると、視線に気が付いた空はポツリと呟く。


「私、冬也さんの援護が出来るなら嬉しいです。高尾ではほとんど何も出来ませんでした。今度は役に立って見せます」


 顔を少し赤らめながら、空は小さく拳を掲げた。


「俺も頑張らなきゃな」


 魔法の訓練に励む空と翔一を見て、冬也も意欲を燃やす。冬也は神気のコントロールと剣術や体術訓練に、時間を費やし始めた。    

 ある程度空達に魔法を教えると、今度はペスカに時間の余裕が出来る。ペスカは、余暇を使って日本伝統のレクリエーションツールである、将棋と囲碁を作り上げた。


 冬也や空達も、丸一日訓練をする訳ではない。休憩中に、将棋と囲碁で遊んでいた所が、たまたま訪れていたミノータルの国家元首の目に留まる。

 興味を持った国家元首は、ペスカ達に模擬試合を要求する。予想外の出来事だが、頼まれたペスカの瞳がキラリと光った。


「どうせなら、上手い人と下手な人で試合しよう! 翔一君とお兄ちゃん、出番だよ!」

「おう! 任せとけ。翔一、胸を貸してやるぜ」

「どう考えても、工藤先輩が上手いと思うんだけど」

「しー。空ちゃん、黙ってて。たまにはお兄ちゃんがコテンパンにされる所、見たくない?」

「あ~。それは見たいかも」

 

 勝つ気マンマンで、冬也は腕をまくる。冬也に聞こえない様に、コソコソと話すペスカと空を見て、翔一は苦笑いをする。結果は言わずもがな、翔一の圧勝である。

 冬也は国家元首の眼前にも拘わらず、悔しがり何度も勝負を挑む。将棋に囲碁と冬也と翔一の勝負は続き、ペスカは国家元首を始めとしたギャラリー達にルールの説明を行う。

 二人の勝負を見てギャラリー達は唸り、声を漏らした。


「う~ん。これは思ったより難しいな」

「そうか、数手先まで読む事が必要になるのか、それをしないから彼は負け続けるのだな」

「これはただの遊具では有りませんぞ。知恵をつける良い教材になるやも知れません」


 そして、ペスカと空は微笑みながら冬也を見ていた。


「むきになってるお兄ちゃん、可愛い!」

「確かに、冬也さん可愛い。でもそろそろ止めなくて良いのペスカちゃん?」


 熱くなり始めている冬也を宥め、模範試合を終わらせる。熱心に観覧していた国家元首は、唐突にペスカへ頭を下げた。


「ペスカ殿。どうか、これを我が国で作らせては頂けないか?」

「構いませんけど、これを作って売るんですか?」

「いいや、これは知育に優れた遊具だ。我が国の教育に大きな一助となろう。我が国だけで独占するのは、勿体ない。必要が有れば、他国へ知識の伝達がしたい」


 その言葉には、流石のペスカも目を見開いた。知識の独占を行わない等、とても国家元首の言葉とは思えない。生まれながらのお人好し種族なんだと、微笑ましくさえ感じた。


「幾らかなら融通が出来る。二つの遊具を合わせて、これ位なら如何か?」


 国家元首が提示したのは、アンドロケイン大陸だけでなく、ラフィスフィア大陸のどの国でも、数年は遊んで暮らせる大金だろう。

 だが、ペスカはその提示額に対し、首を横に振る。


「いいですよ。でも、欲しいのはお金じゃないんですよ」

「では何を所望されるのです?」

「情報と移動手段。それと、アンドロケイン大陸における、身分の証明ですね」

「そんなもので良いんですか? 馬車なら直ぐに用意しましょう。身分の証明は首都に行けば手に入る。私から、とりなしておきます。それで情報とは、どの様なものでしょう?」

「ラフィスフィア大陸へ渡る方法です」

「地理的に、ラフィスフィア大陸に近いのは我らの国です。しかし、我らは航行技術を失っている。もしかすると、キャトロールを抜けて、マールローネへ目指すのが良いかもしれない。マールローネは魚人の国で漁業が盛んです。しかし、現実的とは言えるかどうか」

「どうして?」

「我らの祖先は、大型船で海を渡ったと聞いてます。マールローネにその様な船が有るとは、聞いた覚えが無い」

「そっか。でも、一番可能性は高いって事だよね」

「その通りです。私にもあの国の詳細はわかりません。取り敢えず首都に行くのなら、図書館が有ります。そこには、過去の記述や航海日誌も残されてます。先ずは、色々調べてみては如何でしょう?」

「わかったよ。ありがとう」

「でも、こんなもので対価になるんですか? 道中で、金は必要でしょう?」

「う~ん、いいよ。困った時に、助けて貰えれば」

「それならば、お任せ下さい。我が国の恩人達を、無下にする事は決してない!」

「ありがとう。助かるよ」


 その後、気をよくしたペスカが、農園管理や野菜の育成についてのアドバイスをする。国家元首を始めミノタウロス達が大喜びしたのは言うまでも無い。

 国家元首や各町の要人達が去ると、町に平穏が訪れる。荷馬車を手にしたペスカ達は、出立の準備を始めた。


「いつまでも、いて下さって良いんですよ。あなた方はこの国の恩人なのですから」


 優しくメイリーが語りかける。出立準備は町中の住民達が協力をし、多くの保存食を譲ってくれた。そして出発の日は、町中揃っての見送りとなった。

 

「出立なさるのですね。あなた方には本当にお世話になりました」


 町長が代表して挨拶をすると、ペスカ達は揃って頭を下げた。


「ここから街道を南に向かえば、首都に辿り着きます。そこで通行許可証を受け取って下さい。首都から一日ほどで、キャットピープルの国に着くはずです。キャトロールを抜ければ、マールローネです」

「何から何まで有難うございます」

「お気をつけて~!」 


 ペスカが代表して町長に答え、住民達の声援に見送られて出発する。


「最初はどうなるかと思ったけど、すげぇいい奴らだったな」

「そうですね、冬也さん。色々貰って、助かったのは私達ですね」

「まぁ、取り合えず必要な物は手に入ったからね。ラフィスフィアへ帰る方法を考えないとね」  


 荷馬車の御者席には冬也の姿が有り、幌の中から空とペスカの声が聞こえた。ガタゴトと揺れる荷馬車の音は、穏やかな平和を世界を彷彿とさせる。

 世界の裏側で進行中の事態を、ペスカ達は未だ知らない。

旅はまだ始まったばかりです。

次回もお楽しみに。


2019.5.6校正。



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