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50 戦う者、守る者、そして助ける者

ご閲覧ありがとうございます。

楽しんで頂けたら、幸いです。

 高尾山口から、ペスカ達四は山を駆け上がっていく。冬也が先頭を切り、ペスカ、翔一、空の順で進んでいく。既に避難が完了している様で、登山道には人影が見当たらない。

 しかし、やみくもに先頭をひた走る冬也へ、ペスカが待ったをかけた。


「お兄ちゃん。ロメリアの居場所はわかってんの?」

「いや、しらねぇ。だけど、近づけば何となくわかるだろ?」


 冬也の意気込みは、車内の様子からも痛い程に伝わってくる。しかし、少し肩に力が入り過ぎてやしないだろうか。冬也の答えを聞いた翔一が、ため息交じりに話しかけた。


「冬也、一旦止まれ! 僕が場所を調べる。それによく見ろ! 空ちゃんが息切れしてる」


 冬也が後ろを見ると、自分と空の間には、既に二十メートル近くの距離が離れていた。場所は、登り始めた一号路の途中である。冬也やペスカならば、息を切らす事はない。しかし、運動の苦手な空は違う。いつもの冬也であれば、当たり前の様に行っている配慮が出来ていない。それが問題だと、翔一は指摘をしたかった。


 冬也は慌てて足を止める。そして翔一が、目を瞑り精神集中する。息を切らした空が、冬也まで追いつく頃に、翔一が目を開く。ただ冬也は急かす様に、翔一の肩を揺さぶった。


「翔一。居場所は? どこだ居場所!」


 翔一は冬也を落ち着かせる様に、ゆっくりと説明した。


「冬也。異界の神は、この山中にはいない。隔離された空間に隠れてる!」

「意味がわかんねぇよ。早く居場所を教えろよ」

「落ち着け。急いては事を仕損じる。お前はただ無心で、空間を切り裂け」


 興奮する冬也を、翔一は諫める。しかし冬也は、翔一の言葉を理解出来ずに苛立ちを見せた。


「もっとわかりやすく言えよ、翔一。それに、お前と空ちゃんを連れて行く事は、許してねぇぞ!」


 冬也は声を荒げる。そんな冬也を、ペスカは勢いよく叩いた。山中に乾いた音が響き渡る。頬から伝わる痛みは、高ぶる冬也の心を一瞬にして鎮めた。


 邪神ロメリアとの再戦を前に、冬也の気持ちが高ぶっていたのは事実である。しかし戦いの記憶は、冬也の心から平常心を奪っていた。それは頑なに拒み続けた、翔一と空の同行にも表れていたのだろう。

 神に抗う事は許されない。それだけ力の差が有るのだ。シグルドがあの場所に立つ事が出来たのは、常人を超える実力者であったから。そのシグルドでさえ、洗脳されかけたのだ。

 果たして、空と翔一を守り切れるのか。それは、冬也にプレッシャーとなって圧し掛かっていた。


「落ち着いてよ、それじゃあ、またロメリアにやられるよ」

「私だって守る事くらいは出来ます。土地神様から御力を頂きましたし」

「僕がいなくて、冬也はどうやって、異界の神の場所を見つけるの?」

「そうだな、みんな悪い」


 皆が冬也を想い、声をかける。そして、冬也は深々と頭を下げた。そして冬也は、空と翔一を見つめる。決意の籠った表情を浮かべた二人に、冬也は少し表情緩ませる。


 四人で力を合わせ、五人の能力者を救ったばかりではないか。不安を感じる必要すらなかった。自分が守るなんて、おこがましい事だ。守られているのは、自分なのだから。

 

「二人共悪かった。どうか力を貸してくれ」


 冬也が二人に向かい再び頭を下げた所で、ペスカが話を始める。


「突っ走るお兄ちゃんのせいで、作戦を伝えられなかったでしょ!」


 ペスカは冬也を軽く睨んで文句を言うと、話しを続けた。


「攻撃は私とお兄ちゃんでやる。お兄ちゃんが空間を割いたら、ロメリアが出て来るだろうから、空ちゃんは翔一君を守ってね」

「おう」

「うん」

「わかったよ」


 ペスカの言葉に、冬也、空、翔一が頷く。ペスカと冬也が身構えると、空は翔一を庇う様に構えた。

 ペスカの指示は、作戦と呼べる程の代物ではない。ただその要となるのは、攻撃の二人ではなく、空だとペスカは考えていた。神の意志を寄せ付けない空の能力は、大きなアドバンテージとなる。それを活かせる機会は、必ず訪れる。空に関しては、その為の後方待機である。 


「準備が良ければ、やっちゃえ~、おに~ちゃん」

 

 翔一が冬也に、切り裂く空間の場所を指定する。冬也が精神集中をし、何もない空間に手刀で振り下ろす。手刀を振りぬいた所から、空間が裂ける様にひび割れて行った。

 ひび割れた中からは、憎悪、狂気、恐怖、これ等が混じり合った、悍ましい気配が溢れて来る。禍々しく淀んだ黒いマナが流れ、山の木々を朽ちさせ、山肌を晒させた。


 空は翔一を守る様に、精神を統一させ続ける。冬也は既に臨戦態勢で構えており、ペスカがひび割れに向かい大声を上げた。


「神様のくせに隠れてるのは、流石にみっともないと思うけど! 早く出てきなよ糞ロメ!」


 ペスカの挑発で、禍々しい気配が更に増す。ひび割れの先から姿を現したのは、淀んだ黒い塊だった。黒い塊は、スライムの様にうねらせながら、ひび割れから這い出して来る。黒い塊が通り過ぎた山肌は、腐り汚泥の様な異臭を放つ。周囲は異臭と悍ましい気配で、宛ら地獄のような様相を呈していた。


「力を使い過ぎて人型を保てない程、弱ってるって事かな? いい気味だよ」


 ペスカの言葉に、黒い塊が反応を見せる。

 女神フィアーナが、あと一息だったと語ったのは、真実であった。邪神ロメリアは、力を振り絞ってゲートを開き、ペスカと冬也を日本へ飛ばした。そして追う様にゲートを潜ったが、神気のほとんどを失った邪神ロメリアは、人型を保つ事すら出来なくなっていた。

 地球は異世界と異なり、マナの濃度が薄い。その為、回復もままならなかったのだろう。だから能力者という、恐怖を撒き散らす存在を作り上げ、人々から悪意を吸収していたのだ。


 悪意を吸収した黒い塊こそ、今の邪神ロメリアである。如何に弱まったとは言え、相手は全ての悪意を司る神である。例え、その姿が人の形を成しておらずとも、禍々しい邪気は地表の形を一瞬で変えていく。

 決して気を抜ける相手ではない。そして、四人の頭に直接響き渡る様に、おどろおどろしい声が聞こえた。


「貴様ら、貴様ら、貴様らぁ! 何処までも邪魔をするか! 人間如きに僕が、この僕がぁ! 殺して、殺して、殺して、殺しぬいてやる!」

 

 憎悪に満ちた声と共に黒い塊から、淀んだマナが膨れ上がる。山中の木々が朽ち果て、山全体がみるみる内に腐り始める。山を囲む様に張られた結界が揺らめき出し、所々に綻びを生じさせた。

 ただ、悍ましい空気に必死に耐えて、自分と翔一を守る空の周囲には、邪神の影響が未だ及んでいない。空と翔一の様子を横目で確認した、ペスカは呪文を唱えた。


「天より来たり、邪を滅せよ。その魂を永劫に消し去れ! 破邪顕正」  

 

 ペスカは呪文を唱えると同時に、両手を合わせる様に柏手を行う。ペスカの周囲から清浄な光が広がり、悍ましい気配が消えていく。邪神はその黒い塊の身体を歪ませて、呻き声を上げた。

 邪神は光に抗う様に、黒いマナを噴き出して行く。黒いマナとペスカが放った光は拮抗し、周囲の空間を歪ませた。


 ペスカが邪神と相対している間、冬也は静かに瞑想をしていた。冬也は自らに宿る神気を感じ取り、それを形作る事に集中する。冬也が瞑想を終えた時、その手には虹色に輝く剣が有った。

 冬也は剣を片手に邪神に迫る。

 

「これで終いにしてやるよ! こいつは邪悪を切り裂く神の力だ! てめぇの存在を、丸ごと消し飛ばしてやる!」

    

 冬也の身体からは、神々しい力が満ちている。

 人の悪意や憎悪、そこから生まれる狂気や恐怖、それらを糧にして来た邪神。人々を操り争いを起こし続けたのは、悪意や憎悪等を司る神としての所以である。今まで恐怖は喰らう物であって、感じた事は無い。それが今、自らの消滅を感じ、異界の地で神として誕生して以来、邪神は初めて恐怖していた。


「来るな、来るな、来るな、来るな、来るな、来るな、来るな、来るな、来るなぁ!」


 邪神は怯えながら、裂け目へ戻ろうと身体を蠢かせる。身体を動かす事に集中すると、ペスカの放った光が邪神の身体を焼き始める。


「止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろぉ!」


 身体を清浄の光に焼かれながら、邪神は空間の裂けめに向かって這う。冬也が邪神に向かい、虹色の剣を振りかざして飛びかかる。

 邪神は冬也に向けて、最大級の黒いマナを放った。冬也は邪神から放たれた黒いマナを、意図も簡単に切り裂き消滅させる。冬也が振るった剣から、眩い光が放たれる。その光は、邪神の身体を掠めて、その一部を消滅させる。


「グギャ~。痛い、痛いよ~。死にたくない、死にたくない。助けて、助けて、助けてぇ!」


 邪神は冬也に黒いマナを放ち続けながら、逃げる様に体を蠢かせる。冬也は、邪神が放つ黒いマナを尽く切り裂き消滅させる。同時に、ペスカの放つ光は勢いを増し、山を清浄化させ邪神の身を焦がして行く。


「助けて、嫌だ、助けて、嫌だ、お願いだから助けてぇ!」


 怯えて逃げ続ける邪神の黒い塊は、冬也の剣とペスカの放つ光の影響で、段々と小さくなり拳大のサイズになっていた。


「終わりだ!」


 冬也は邪神に剣を振り下ろす。長かった戦いに、ようやく終止符が訪れる。その時であった。

 邪神の近くに有る歪んだ空間から、何かが飛び出す。それは冬也に激しくぶつかる。そして冬也の剣は、邪神へ届かない。

 冬也は衝撃に耐えるが、勢いを殺しきれず吹き飛ばされる。冬也は素早く体を起こして、邪神を見やる。邪神の近くにいるのは、全身を真っ黒に染めた女の形をしている何かである。それが、空間から飛び出してきたのだろう。


「あぁ、愛しき君。こんなになってしまって。あぁ、何て事を」


 女性型の何かは、邪神に近づき手のひらで優しく包む様に、邪神を持ち上げ頬ずりをした。すると、冬也が振るった剣の余波で、消えかけ薄くなった邪神が、やや黒さを取り戻して行く。

 そして女性型の何かは、ペスカと冬也に向かい恐ろしい形相で睨め付けた。


「下賤の輩が、よくも我が愛しの君を。消えるがよい」


 女性の形をしている何かが、吐き捨てる様に呟く。すると圧倒的な神気が放たれ、ペスカの放っていた光は霧消する。ペスカは神気にあてられ、顔を歪ませる。空と翔一は膝を突き、辛うじて意識を保っていた。

 冬也は内なる神気を高め、立ち向かう様に言い放った。


「てめぇ何してやがる! 誰だか知らねぇけど、邪魔すんじゃねぇ!」

「混血風情が、神に向かって何をほざく! 立場を弁えよ! 我が名はメイロード。愛しの君を傷つけた罪は、身を持って知るが良い」


 メイロードが神気を高めると、台地が激しく揺さぶられる。殺意の籠った神気は、容赦なくペスカ達の身体を痛めつける。それでもペスカは耐えて、空と翔一を守る様に結界を張る。そして、冬也はメイロードに向かい飛びかかった。


 冬也が剣を振り下ろすと、メイロードは邪神を庇う様にして避ける。だがそんな避け方では、冬也の剣は躱しきれない。肩口が少し切れ、メイロードは苦悶の表情を浮かべた。


「混血如きが良い気になりおって。許さんぞ!」


 メイロードは冬也に向かい声を荒げる。そして全身から光が溢れる。メイロードを中心に爆発が起こり、山を囲んだ結界は全て消し飛ばされた。


 山を中心に爆発は数キロ先まで起こり、周辺は一瞬で焼け野原になった。この日、日本から一つの山が姿を消した。そして、邪神ロメリアとメイロードを始め、ペスカ、冬也、空、翔一の四人も日本から存在を消失させた。

次回、東京騒乱編終了です。

次回もお楽しみに。


2019.5.2校正。

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