47 母校炎上 その1
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ペスカ達は母校に向かって走っていた。しかし住宅街を駆け抜ける頃には、空の体力に限界が訪れていた。
短距離走と長距離走共に、運動部を置き去りして学年一位を取る冬也。学業だけでなく運動も万能なペスカ。何でも卒なくこなす万能のイケメン翔一。それに比べ空は、図書館でひっそりと本を読む文芸少女で、運動は大の苦手。宇宙の彼方から来た、某変身ヒーローの様に三分で限界が訪れ、息も絶え絶えになっている。
冬也は独りで先に母校へ向かう事も考えた。しかしペスカ達が、自分のいない間に、突発的な能力者事件に巻き込まれる事を危惧し、タクシーを拾う事にした。運良くタクシーを拾えた一行は、母校へ向かう。
母校の周囲は、既にバリケードテープで閉鎖されていた。登校中の生徒もいたのだろう、バリケードの周りは多くの生徒で囲まれていた。一行は、バリケード手前でタクシーを降りる。
ペスカ達が生徒の囲いを潜り抜け、警察官が止めるのを無視しバリケードを超える。
バリケードの先は、消防車を始め救急車やパトカーが数台止まっている。その周囲には、ジャージやユニフォームを着た、生徒達が集合していた。生徒の数名は怪我を負った様で救急車に運ばれ、未だ校門からは警官や教師に誘導され、制服を着た生徒が避難をしている。
校舎では火災が発生し、全体に燃え広がりつつある。消防隊員達が、声を荒げて鎮火作業を行っていた。
避難をした生徒達は、一様に怯えており、泣いている女生徒も見受けられる。駆け付ける前に連絡をした時は、生徒の一人が暴れている様子が伝わって来た。現状では校舎に火災が広がっている。
状況を把握する為、翔一が教師の一人を捕らえて状況を聞き出す。運良く一部始終を見ていた教師から話が聞けた。
練習で早くに登校していた生徒の内、五人が当然に暴れ出した。練習中の運動部員に向け能力を使い傷つけた後、校舎内に入り暴れ続けた。校舎を破壊しつづける能力者五人に対し、何も能力を持って無い教師が暴動を鎮圧出来る訳も無い。警察に連絡を入れた後は、登校している生徒達の避難を優先させた。幸いだったのは早朝だった為、登校していた生徒が少なかった事である。
しかし、生徒の負った怪我は酷く、迅速な手当てを必要としていた。また犠牲が増える前に、生徒達の避難を迅速に行わなければならない。
怪我を負った生徒の応急処置、生徒の避難と、教師達は校内を駆けずり回る。丁度その頃、校舎の一部から火災が発生し燃え広がって行った。
説明を聞き終えた冬也が、教師に確認を行う。
「逃げ遅れている生徒はいるのか?」
「全員避難したはずだ。中にはいるのは、暴れている生徒だ」
「馬鹿野郎! その暴れている奴らも、生徒じゃねぇのか!」
冬也が激高し走り出そうとするが、教師は腕を掴んで引き留める。せっかく避難が完了したのだ。そもそも危険な場所に、関係の無い者を行かせる訳にはいかない。
「止めるんだ君! 一般人は立ち入り禁止だ! 校舎には火災が発生している。今は警察と消防が対処している。何をしたいのかわからんが、彼らに任せるんだ」
「ふざけんな! 能力者の救出は二の次か? 火に巻き込まれてそいつ等が死んだら、どう責任取るつもりだ!」
教師は、冬也に返す言葉を持たなかった。既に避難と鎮火は警察と消防に任せてあり、進捗はわからない。普通なら、専門家に任せろと断言が出来た。しかし、身を持って味わっている。能力者が暴走とした時の恐ろしさを。だから簡単には言えない、警察と消防が必ず、五人の能力者を助けてくれるとは。
自分の腕を掴み、押し黙る教師を見て、冬也は優しく語りかける。
「あんた、思ったより良い先生だな」
そして冬也は、教師の拘束を強引に振りほどき、ペスカ達に向かい指示を出した。
「空ちゃん。ここで待機していてくれ。暴走した五人は俺が連れ帰る。元に戻してやってくれ」
「わかりました。冬也さん、くれぐれも気を付けて」
空は憂慮に絶えず、不安げな表示を露にし、冬也に答える。続いて冬也は翔一に顔を向ける。
「翔一。スマホで能力者の位置を、逐一教えてくれ」
「あぁ、任せろ。でもお前が怪我をする事は、許さないからな」
翔一が苦い表情になり頷くと、最後に冬也はペスカに顔を向ける。
「お兄ちゃん。私は?」
「お前は、俺の無事を祈っててくれ。お前の祈りが、俺を守ってくれる気がする」
「うん。お兄ちゃんが無事に帰って来れる様に、全力で祈るよ」
ペスカはそう言うと、背伸びをして冬也の頬に口づけをした。
「これはお守り。お兄ちゃんなら大丈夫。無事に助け出して帰って来てね」
冬也は頷くと、校舎に向かい走り出した。教師の言葉は、もう冬也には届かない。途中で警察官や消防隊員に止められるも、振り切って燃え盛る校舎に突入する。
校舎内は煙で充満し完全に視界が遮られている。通常であれば一酸化炭素中毒で死の危険性を伴う。冬也は集中し、自らの手を始め全身に力を籠める。
「俺の体は、全てを切り裂く刃。火も風も台地も、意思無き物は全て切り裂く」
冬也が呟くと全身が光り始める。実のところ、冬也が異能力だと思い込んでいるものは、身体強化の魔法である。自分と自分の武器にマナを満たし、絶大な効果を得る魔法。かつて、冬也が戦いの中で多用していたものである。
校舎に足を踏み入れると、充満する煙は冬也の体を避ける様に割れていく。そして冬也は、ハンズフリーモードにしたスマートフォンから響く翔一の指示に従い、校舎の中を走り始めた。
「一番近くは、東校舎一階の教室。昇降口から入って二番目の教室だ」
煙を割きながら冬也が一階の教室へ進むと、教室内では一人の男子生徒が、虚ろな目で電撃を放ち暴れていた。侵入者に気が付いた男子生徒は、冬也に向かい電撃を放つ。しかし冬也は電撃を避けずに、真正面から男子生徒に向かって走る。電撃は、冬也に当たる事なく手前で割ける。男子生徒の眼前まで近づいた冬也は、掌底を鳩尾に一発入れて気絶させた。
「翔一、一人無力化させた。消防へ伝えてくれ。廊下の窓から受け渡す。それと、何人か消防隊員を寄こす様に頼んでくれ」
翔一が消防隊員にその委細を伝える。消防隊員が一階の廊下に駆け寄り、気絶した男子生徒の受け渡しが行われる。同時に複数の消防隊員が校舎内に突入し、冬也と合流した。
「悪いがあんた等、俺の後に着いてきてくれ。暴走した生徒を救出する」
消防隊員は、無理にでも引き留めようとする。しかし、煙を切り裂く様に走る冬也に、一縷の望みを託して後へ続いた。
「冬也、次は西校舎の一階。職員室に二人だ。やばいぞ、一人は今動きを止めた」
冬也が職員室に入ると、机や椅子が吹き飛んでいた。
中には男子生徒が二人。一人は気を失って倒れている。能力者同士が争っていたのだろうか。倒れている能力者の体には、至る所に打撲の跡が有り、血だらけである。更には、酷い火傷を負っている。
二人目は意識は有るものの、体をふらつかせながら、風を巻き起こしていた。
冬也は消防隊員に、合図をするまで待機する様、指示をする。そして男子生徒に向かい走り出す。
男子生徒が滅茶苦茶に放つ暴風を、冬也は物ともせず切り裂きながら近づく。男子生徒を掌底で無効化した冬也は、消防隊員を呼び運び出す様に指示をした。
「職員室は制圧した。次は何処だ?」
「東校舎二階の教室。気をつけろ、どんどん火の手が強まってる!」
冬也は残った消防隊員に、視線を送る。そして職員室を出ると、階段を三段抜かしで駆け上がり、二階廊下を走り抜けた。
一方、生徒を運びだした消防隊員達に、空とペスカは走り寄る。担架に近寄ると、空は男子生徒に手を伸ばす。空が手を触れると、パキリと音がした。次に運ばれてくる二人の男子生徒も、空は同様に触れる。やはりパキリとはっきりした音が響いた。
「ペスカちゃん、成功したのかな?」
「病院で意識を取り戻した時に、暴れ出さなければ成功だよ。不安ならその辺の先生を触ってみなよ」
ペスカの言葉に従い、一人の体育教師を捉まえ空が触れる。触れた瞬間パキリと音がする。教師は何が起きたのかと目を丸くし、ペスカと空を見つめる。
「先生。私の名前言ってみて」
「何言ってんだ東郷。休学って聞いてたけど、そろそろ復学するのか?」
教師の反応に、二人は笑顔でハイタッチをする。成功に気を良くしたペスカと空は、運動部系の集団の全員を触りまくった。空が触れる前は、ペスカを憶えていない。しかし空が触れ音がすると、途端にペスカを思い出した。
「やるね~空ちゃん。これって無敵能力だよね~」
「ペスカちゃん。呑気な事言わないで」
そう、呑気な会話をしている場合ではない。放水車がどれだけ、鎮火を行おうが、火の手は全く衰えない。それどころか、益々勢いを増している。そして突然に、西校舎三階廊下の窓が爆発し、暴風と共に火が噴き出した。
辺りは騒然とする。空は青ざめて、悲鳴めいた叫び声を上げる。ペスカは、恐怖に駆り立てられ叫んだ。
「きゃ~!」
「おに~ちゃん!」
ペスカが冬也を身を心の底から案じ叫んだ瞬間、自身の中に力の奔流の様な物を感じた。そして不思議とその力の使い方は、記憶の底から蘇って来る。
「なんだ。ふふっ。思い出したよ。全部」
ペスカは、笑みを浮かべて呟くと、意識を集中させる。
「大気に浮かぶ水よ集え。大きく、大きく、もっと大きく。一つになり降り注げ」
ペスカが言葉を唱え始めると、ペスカの体内からマナが外に放たれ、大気中の水分を一気に集め始めた。
思ったより長くなったので、分割しました。
次回もお楽しみに。
2019.5.1校正。




