44 冬也と親友の動き出す時間
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一致団結を見せ会議が終了する。だが、遼太郎の帰宅までは時間が有る。
暇を持て余した冬也と空は、ソファで寛ぎ会話を楽しんでいる。空にとっては、久しぶりの冬也との時間である。会話は弾み、空の明るい声がリビングに響く。そんな中、唯一ペスカだけが、考え事をする様に腕を組んでいた。
見かねた冬也がペスカに声を掛ける。
「なぁペスカ。みんなでゲームでもするか?」
ゲームというキーワードに、いの一番に反応を見せるはずのペスカが、押し黙っている。ガタっと椅子を鳴らし冬也は立ち上がる。そして空も目を丸くし、ペスカを見つめていた。
「ペスカちゃんが、ゲームに反応しないなんて!」
「ゲームだぞペスカ! ゲーム!」
「何言ってんのよ! 二人共呑気か!」
「何が?」
「何がだ?」
「声を合わせないでよ! 仲良しさんか!」
冬也が視線を向けると、空は顔を真っ赤にして俯いていた。二人の姿を見たペスカは、地団駄を踏む。そんなペスカを宥めようと、冬也が話しかける。
「何を考えてたんだよ。親父が帰って来てから、話しを聞こうって事になったろ?」
「パパリンが帰って来る前に、やれる事は有るでしょ?」
「確かに、ペスカちゃんの言う通りだね」
「何をだよ?」
ペスカの言葉に首を傾げる冬也を見て、ペスカだけで無く空も溜息をついた。
「はぁ~。これだからお兄ちゃんのテストはいつも赤点なんだよ」
「確かに。冬也さんは鈍いと言うか鈍感と言うか」
「そうそう。可愛い妹の猛アプローチを平気で無視するし」
「そうそう。可愛い幼馴染のアプローチも無視するし」
「お前らやっぱり仲良しだな。話が進まねぇから、俺を弄るのは止めろ!」
冬也はいたたまれず二人から視線を反らし、美少女二人から笑いが零れた。
「あのね、お兄ちゃん。空ちゃんも聞いて。多分空ちゃんの能力は、神をも欺くチート能力なんだよ。わかる? これまでの異常現象が全部異界の神の仕業なら、その干渉を撥ね退ける空ちゃんの力は、切り札になるかもしれないんだよ!」
冬也はペスカの言葉を聞いても、全く理解出来ていない様で、キョトンとしていた。
「わかんねぇよ、ペスカ。空ちゃんの能力が、変な神様の仕業だとしたら、何で自分の力を撥ね退ける力を与えたんだ?」
「お兄ちゃんにしては、良い所ついてるね。確かに不自然だと思うけど、不自然なのはそれだけ?」
「それだけって言うと?」
「ペスカちゃん。それだけって何?」
「だから仲良しさんかって、いいや。記憶は消されてるけど、記録は残ってるのは何でだと思う?」
「さぁな!」
「さあ?」
「仲良しアピールか! 狙ってんのか! 教えてあげないぞ!」
冬也と空はまあまあと、ペスカを宥める。二人から宥められるペスカは、益々剝れてテーブルから背を向けた。冬也は慌てて、ペスカの頭を優しく撫でて褒めそやす。ペスカの機嫌が直った所で、説明が再開された。
「念の為に聞くけど、能力者の発生と事件は何処で起こってるの?」
「今の所は東京都だけだよ」
「都民全員が能力を発生させてる?」
「一部の人だけだよ」
空の答えを聞いた、ペスカはキラリと目を光らせ話し始める。
「早く手を打てば、これ以上の事件拡大を阻止出来ると思うよ」
「回りくどいよ、ペスカちゃん」
「そうだ、兄ちゃんはとっくに理解の限界だ!」
冬也を見てく溜息をつくと、ペスカは話を続ける。
ペスカは異界の神を、地球とは別の次元にある星の神と仮定した。この場合、神は次元を超えて地球にやって来た事になる。そんな科学を超える、神秘の力を発揮できるなら、なぜ記憶の改ざんだけに留めたのか。記録の改ざんだって、容易に出来たはず。加えて能力者の発生も、東京に限定している。
言うならば、今の状態は中途半端なのだ。ペスカ達を存在しない事にしたいなら、記録まで抹消すべきである。そして、ペスカ達の記憶を持つ者も、排除すべきであったろう。
また何かの意図が有って、能力者を作り出したと仮定する。ならば地域を限定した上で、一部の人間だけ能力者を発生させる事に、重要な意味は無い様と感じる。仮に私兵が欲しいなら、多い方が良いだろう。もっとも、異界の神の目的がわからなければ、この推論に意味を持たせる事は出来ないが。
なぜその異界の神は、中途半端な状態を作り出したのか。一つには、本来の力を充分に発揮出来る状態では無い事が考えられる。
元々東京は、結界で守られた土地である。結界の効果が発揮している可能性はある。それより、異界の神が地球に来る事だけで、力を消耗しきった可能性が高いだろう。
「ペスカちゃん。能力の発生は、個人差によるものでは無いの?」
「空ちゃん。個人差による能力の発症は、一因でしか無いと思うよ」
「その神様が弱ってるから、変な誤差が生じてるの?」
「多分ね。全てに干渉出来てないんだよ。空ちゃんの場合は、予期せぬエラーかも知れない。だけど直ぐに対応しないって事は、軽微なミスと捉えてるか、弱ってそれどころじゃないかだね」
「要するに何だ? 俺達に嫌がらせしようとしたけど、手を抜いてるって事か? その変な神様は、舐めてんのか?」
「ざっくりし過ぎだけど、大体お兄ちゃんの言ってる通りだと思うよ」
「冬也さん。神様だし、多少力を抜いても、人間が太刀打ち出来る相手ではないですよ」
「空ちゃんの言い分も尤もだよ。この辺はお父さんが帰って来てから裏付けを取ろう」
説明が終わると、空が尊敬の眼差しで、ペスカを見つめている。難しい説明についていけずに、船を漕いでいた冬也は、途中でペスカから肘鉄を食らっていた。
「で、ペスカ。これからどうするんだ? 親父を待つだけか?」
「そうそう。状況は推測出来たけど、具体的にどうするの?」
ペスカは二人を見て、鼻を膨らませて言い放つ。
「異世界の神に対する、切り札になり得る空ちゃんの能力! これの実証実験だよ!」
「それは、さっきやったろ?」
「あれだけでは、完全と言えないよ。他の例も試してみないと」
「う~ん確かに。ペスカちゃんの言う通りね。でもどうするの?」
「ふふん。こんな時に役立つ人がいるじゃない!」
「そんな奴いたか? いや、翔一か?」
「そう! お兄ちゃんの親友にして、頼れるイケメン翔一君! お兄ちゃんのピンチには、必ず駆けつけるお得な人!」
「お得って言うな! まぁお人好しでは有るけどな。でも翔一も、俺たちの事を忘れてるんじゃ無いのか?」
「だから、空ちゃんが直ぐに来る様に連絡して」
空は頷くと、直ぐに翔一のスマートフォンへ連絡を入れる。
「工藤先輩、直ぐに来てくれるって」
「流石翔一君、なかなかのイケメンパワーだね」
「工藤先輩は、冬也さんを探してくれたんだよ」
「あの人の行動原理は、お兄ちゃん絡みでしょ? BL疑惑は嘘じゃ無かったりして」
「ペスカちゃん。怖い事言わないで。学校中の女子で戦争が起きるよ」
「いやいや、彼女を作らずにお兄ちゃんにべったりの翔一君が悪いよ」
「止めてってば。工藤先輩のファンとBLファンの間で春先に喧嘩になったでしょ! 今度は戦争だよ。血の雨が降るよ!」
「それを颯爽と止めるお兄ちゃん! いや~かっこよかったな~!」
「そうそう。それにあの時工藤先輩が、冬也さんをうっとりと見て」
止まる事の無い女子の会話に、「ほどほどにしとけ」とだけ言い残して、冬也は席を立ち自分の部屋へと向かう。
ペスカの話しを全く理解出来なかった冬也は、スマートフォンで父にメールを打つ。父からは早めに帰るから待ってろと、返信が来るだけだった。
理解出来ない事は頭の片隅に追いやり、冬也はベッドに身を預ける。しかし、自分の気持ちを整理出来ないでいた。
冬也は決して、喧嘩っ早い訳では無い。自ら進んで暴力を振るったり、人を脅す事も無い。人に優しくを心掛けているつもりだ。例え不良に絡まれ様とも、ペスカが係わらない限りは、出来るだけ喧嘩にならない様に回避している。喧嘩になり暴力を振るうのは、巻き込まれた結果、自衛の為に仕方ない場合が多い。
しかし神社では、自ら進んで土地神を脅した。なぜあの時、あんなに腹が立ったのだろう。冬也はベッドの上で悶々と考えていた。
いくら考えても、簡単に答えが出る事は無い。数分を置いて玄関のチャイムが鳴る。冬也は慌ててベッドから飛び起き、急いで玄関に向かい戸を開ける。そこには友人の工藤翔一が、汗をかきながら立っていた。
「わりいな翔一。呼びつけちゃってさ」
「あれ? えっと工藤と言います。新島さんから、ここに来る様に言われたんですけど」
「そっか、忘れちまってるのか.....」
冬也を見た時に、既視感を覚えた。直ぐに翔一は、それを頭の片隅に追いやった。初対面の様に話す翔一に対し、冬也は目を伏せる。予想していたとはいえ、親友に忘れられるのが、どれだけ切ない事だろうか。冬也はそのまま黙って、翔一を自宅に上げてリビングに連れていった。
対して翔一は、初対面と思える人物から名前で呼ばれる事に、全く違和感を感じ無かった。馴れ馴れしいという不快感より、喉に小骨が引っかかった様な、もどかしさを感じていた。
リビングに通された翔一は、暫く学校に来なかった空の安否を確認する。そしてペスカを見ると、再び既視感を感じて考え込む様な仕草を取る
押し黙る冬也、考え込む翔一。神妙な雰囲気に包まれるリビングで、ペスカは音頭を取る様に手を叩いた。
「さて、実験開始! 翔一君そこに立って。空ちゃんは、意識を集中させて」
「わかったよ」
ペスカが自分を君づけで呼ぶ事に、すんなり受け止めている。翔一は再び、もどかしさを感じる。しかし今は、余計な事を考えている状況ではないのだろう。
翔一はペスカの指示に従う。空は翔一の前に立つと、ペスカに問いかける。
「それで、どうすれば良いの?」
「とにかく集中して! 翔一君に纏わりつく邪気を払うように、イメージするの!」
「やってみる!」
空はペスカの指示に従い目を瞑り集中する。そして邪気を払うイメージで、翔一の体の前で手を振りかざす。しかし何も起こらない。翔一は飽きれた表情になり、ペスカ達に向かい呟く。
「授業を抜け出して駆け付けたのに、君達は何がしたいの?」
「翔一君、ちょっと待ってて。空ちゃん、翔一君に直接触って!」
「え~! ってわかったよ」
空は少し動揺する。しかしペスカの迫力に負け、覚悟を決めて翔一に触れる。空が翔一に触れた瞬間、パキリと音が鳴り響く。音と共に翔一は、目を丸くさせ周囲を見渡した。
「冬也! それにペスカちゃん! 今まで何処に行ってたんだよ! 散々心配させて。何してたんだ! 空ちゃんも凄く心配してたんだぞ!」
突然と捲し立てる様に話し出す翔一を見て、ペスカ達はガッツポーズと一緒に歓声を上げた。ペスカ達の様子に訳が分からず佇む翔一に、冬也が慌てて一連の話しをする。しかし冬也の稚拙な説明では、理解が出来ない。翔一には、ペスカが委細を説明し直した。
「はぁ~。何だか理解出来ない所も有るけど、事情は少し理解したよ」
ほっとした様に翔一を見る冬也。翔一は冬也に視線を見つめ返し微笑む。
「お帰り、翔一」
「冬也もお帰り。心配させやがって」
「二人共、男同士で見つめ合ってるからBLって噂されるんだよ」
ペスカの言葉に慌てて冬也から目を逸らす翔一。冬也はBLが何を意味しているのか理解しておらず、キョトンとしていた。
「ところで、翔一君も能力を持ってるの?」
「あぁ。僕の能力は、能力者を探知出来る能力だね。能力者が力を使った事も判るよ! と言っても半径一キロ位だけど」
「非戦闘系のチート系が出てきたね! 戦力アップだよ、お兄ちゃん」
ペスカ達がハイタッチをしながら喜んでる所を見て、翔一が呟く。
「冬也達は、ここ一か月の事を忘れてるんだよね? 僕にしてくれた様に、空ちゃんが何とか出来ないのかな?」
「おぉ! 流石頭脳系イケメン! お兄ちゃんとは頭の冴えが違う!」
「おぉ、流石翔一! 学年一位の成績は伊達じゃねぇな!」
「冬也さんに、この半分でも知能が有ったら」
翔一の提案で、盛り上がり始める。そんな一同に対し、ペスカは人差し指を突き出した。
「さぁ、ここでお兄ちゃんに質問です。空ちゃんをおんぶした時、何か思い出したのでしょうか?」
「さっぱりだな」
「いやいや、冬也さん。あの時、私は気を失ってたも同然だったし」
「目を覚ましてたじゃない!」
翔一の提案は、既に失敗しているのである。盛り上がりかけた空気が、一気に冷ややかになる。ただ実験対象は、一人ではない。ペスカは空に向かうと、手招きをした。
「つまり、実験だね! おいで空ちゃん!」
「ペスカちゃんより、冬也さんと実験したい」
「うっさい。そう易々とお兄ちゃんにくっつけると思うな! 早く実験するよ」
空はペスカに触れるが何も起きない。集中し念じる様に触れても、結果は同様である。抱き着いても、叩いても、何も変化は起きなかった。繰り返し挑戦は続くが、ペスカが何かを思い出す事は無かった。三十分程繰り返し、体力の無い空は肩で息をしていた。
「ここまでやっても駄目なの?」
「何か条件みたいなのが有るのかもね」
「取り敢えず、今日は終わりにしよう。俺は夕飯を作る。翔一、お前も手伝え」
疲れた空はテーブルに突っ伏している。ペスカは飽きた様にTVを見始め、冬也は夕食の支度を開始する。翔一は友人の所に泊まると連絡をし、冬也の手伝いを始める。
冬也と楽しそうに話をする翔一を見て、ペスカは空に話しかける。
「見てごらん、あれがBLだよ。私達が倒すのは神じゃない。あのイケメンだよ」
「ペスカちゃんが言うと、イケメンって言葉が悪口に聞こえるね」
「そうだよ。男のくせにお兄ちゃんを独占するのは、百年早いんだよ。生まれ変わって出直して来いって感じだよ」
「ペスカちゃんのブラコンも大概だよね。面倒くさい小姑ナンバーワンだね」
大声で叫ぶペスカの言葉は、台所で作業中の冬也たちにも聞こえている。
「ほっとけ。後で泣くほどお仕置きしてやるから」
「冬也、ほどほどにね。悪気が有る訳じゃ無いと思うし」
「馬鹿じゃねぇの。悪気が無くて暴言吐いたら、余計に質が悪いだろ!」
男女それぞれが、他愛もない話で盛り上がり時間があっと言う間に過ぎる。日が落ちて夕食の準備が整った頃、玄関の鍵を開ける音がし、冬也とペスカの父、遼太郎が帰宅する。
遼太郎の帰宅に奇声を上げて歓迎するペスカだが、遼太郎の広げた腕の中には飛び込んで行かなかった。
空と翔一はそれぞれ、遼太郎に挨拶をする。
「よろしくな。でも話しは、飯を食ってからだ。出来てんだろ冬也。二人も今日は、食ってくんだろ?」
一同は遼太郎に従う。そして、皆でガヤガヤと食事を取る。食事が終わり片付け終えると、再びテーブルに着く。
遼太郎は、全員の顔を見渡して、静かに語り始めた。
説明回に、ラブコメや友情的な要素を加えたら、長くなりました。
後半の四人でわちゃわちゃするシーンは、個人的に気に入ってるんです。
次回もお楽しみに。
2019.4.30校正。