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381 第三次世界大戦 ~管理者の終焉~

これにて第三次世界大戦編、終了です。

 ブルと美咲が中心になって、戦闘準備を急いでいた時の事だった。倒れたまま意識を失っている三島に、ペスカは近づいた。

 ペスカは三島の頭に手をやり、記憶を読み取る。そして記憶の中に有る、ミストルティンの拠点を探す。暫く拠点には戻っていないのだろうか、直近の記憶が流れ込んで来る。遼太郎との関係や、特霊局に関する情報は、今は必要が無い。

 

 三島の記憶から、拠点の場所を探し出すと、ペスカは大地に手を翳す。暫くそのまま大地に触れた後、ゲートの魔法を行使した。

 場所さえわかれば、行き先にゲートを作る事は可能である。そして今回は、片道だけで消えるゲートではなく、往復が出来る様に両方の入り口を固定した。


「じゃあ、いっちょお仕置きしてくるね」


 皆に向かって軽く手を振り、ペスカはゲートを潜る。

 ペスカが指定した転移場所は、拠点の中心地でもある会議場。そして、四つの席は埋まり、話し合いが行われている最中であった。

 ミストルティンのメンバーは、少し驚いたように目を見開いていたが、直ぐに冷静を取り戻す。


 誰にも知られるはずが無い拠点に、第三者が侵入した。これだけでも異常事態だ。しかも、手品の様に突然に表れたのだ。

 普通なら慌てて、排除を試みるであろう。しかし、ミストルティンのメンバーは、落ち着きを払っている。


 たかが小娘一人に、動揺する訳にはいかない。

 それは長きに渡り、世界をコントロールして来たプライド故か? 否、ミストルティンのメンバーを支えているのは、それだけでは無い。


 ミストルティンは、世界の始まりから、存在していた訳では無い。

 遥か古代、人間が文明を育み始めた頃である。当時の人間は、世界の外から来た高度な文明を持つ者達の奴隷であった。圧制者達は、人々に文明を齎し進化を促した。


 そして、いつしか人間達は知恵をつける。知恵をつけた人間達は、反乱を起こした。何千光年も旅をし、この星に辿り着いた圧制者達が、新天地を探す為に生み出した技術。それこそが、肉体を入れ替え生き続ける技術である。そして圧制者達は、他にも様々な高度な技術を有していた。


 反乱を起こし、技術を奪い取った者達もまた、圧制者となる。そして力の無い者は、変わらず奴隷の様に扱われる。それに異を唱え、圧制者を倒し技術を奪ったのが、ミストルティンの母体となる。

 

 ミストルティンの母体となった集団は、高度な技術を正しい事に使う事を決める。そして、人類の進化と共に歩んで来た。

 しかし多くの仲間は、体の乗り換えに失敗した。だが正確には、失敗ではない。自ら望んで、乗り換えを拒否したのだ。言い換えるならば、長い生に耐えきれずに、死を選んだ。当然だ、不老不死など悪夢でしかない。


 そして残った者達は、すこしずつ変わっていった。

 まるで世界が、自分達の為だけに存在していると、思う様になっていた。自分達は、神そのものであると、過信する様になっていた。それが傲慢だと気がつきもしなかった。

 一部の英雄と呼ばれる存在に知恵を貸し、歴史を動かして来たのだ。傲慢にもなるだろう。


 彼らを変えたのは、それだけではない。人間という存在自体だ。

 欲に目が眩み、他者を蹴落とす事を平気で行う。他者から奪うなど、日常茶飯事である。

 衣食足りて礼節を知るなど、言い得て妙だ。ただ、人間の欲望には際限がない。衣食足りても、更に求める。寧ろこう言い換えた方が、正解に近いだろう。


 そんな人間達を長らく見て来たのだ。だから、どれだけ高潔であろうと、少しずつ変わっていく。いや、変わらざるを得なかったのかも知れない。

 自分達が導かねば、人間社会には簡単に終焉が訪れると、悟ってしまったのだから。

 

 そして多くの人間を見て来たからわかる。どれだけ繕っても、目の前の少女が作り笑いをしている事が。その内面には、怒りが満ちている事が。しかしそれだけの事。自分達の前では、何も出来やしない。

 どれだけ人間社会が進歩しても、未だ辿り着かない技術を有している。それこそが、ミストルティンを支えている自信の表れである。


「何の用だね。東郷遼太郎の娘、ペスカ。異界からの来訪者と呼んだ方がいいのかな?」

「私の事を知ってるんだ」

「何を当たり前の事を。我々を何だと思っている?」

「ただの人間でしょ? それも、長く行き過ぎて狂った害悪」

「生意気な。この世界を統べる神に向かって、暴言を吐く事。それが大きな罪だと知れ! そもそも、お前はここに居ていい存在ではない」


 ミストルティンの一人が指を鳴らすと、ペスカの立つ床が光る。そしてペスカの体に、地上では感じない激しい負荷がかかる。重力を制御する技術でも持っているのだろう。

 しかし、ペスカには通じない。


「何かした? あぁ、重力を制御したのか。すごいすごい。でも、本当はこうやるんだよ」


 ペスカは嘲る様に言い放つと、口角が吊り上げる。次の瞬間、ミストルティンのメンバーは揃って、円卓の上に突っ伏した。

 重力を異常を感じる訳ではない。しかし、椅子から離れられない、足も動かせない、腕も同じだ。そして上半身は、円卓に縛り付けられている。当然、口を開く事も出来ない。


「私は、あんた等の言い訳を聞きに来た訳じゃないんだ。お仕置きをしに来たんだ。まぁ、お仕置きと言っても、心が壊れるだけで、死にはしないよ。あんた等なら、こう言うでしょ? 神に刃を向けた罰を受けよってさ。そうやって、玩具にされてきた人間達の苦しみを、少しは理解させてあげるよ」


 ペスカの言葉が終わると、ミストルティンのメンバー達の体が光り始める。

 ペスカは、三島の記憶を読み取った後、星の記憶にリンクした。そして、様々な情報を読み取っていた。それは、現実に起きている惨劇から、過去の悲しい出来事まで。

 そしてペスカは、彼らに幾つもの死を、苦しみを疑似体験させる。


 生まれた瞬間、息を引き取る子供。飢餓の為、母乳すら与えられずに死んでいく子供。まだ自我が芽生えてないから、何も感じないのかもしれない。それ以前に、何も感じる暇も与えられずに、死んでいくのだ。

 もし、自我が有ったとすれば、何を感じるだろう。やるせない怒りであろうか、悲愴感であろうか。


 仮に育ったとしても、常に腹を減らしている。雨が降る土地に住むなら、喉の渇き位は多少癒せるだろう。しかし、その雨さえも降らないならどうする。

 我慢するしか無かろう。どれだけ腹が減っても、耐えるしか無かろう。子供の力では何も出来ない。寧ろ、体を動かす事すら叶わない。そして、朽ちていくのだ。


「わかる? これが飢餓の苦しみだよ。飽食の裏で起きている現実だ。あんた等が、本当に世界の管理者なら、こんな悲しい子供を何で作り出す。あんた等が気まぐれに起こした内戦が、きっかけになったんだ」


 どれだけ言葉を尽くしても、飢える事の無い者には、その苦しみは理解出来まい。ペスカは、飢餓による死を何度も追体験させた。

 そして、シーンは変わる。


 爆弾を積んだ戦闘機を操る少年兵。遠い空の下、残して来た両親を想い、戦艦に突撃をする。それが、両親を守る事に繋がると、ひたすらに信じて。そして、目的を果たす事すら出来ずに、撃ち落される。

 機体が爆発する中で、少年兵は何を思う。


 圧政に苦しみ、反旗を翻した。そして続くのは、いつ終わるかわからない、長い戦いの日々。緊張を強いられ、碌に休む事も出来ず、ひたすらに銃を撃ち続ける。

 仲間達は、銃弾を受けて倒れていく。いつかは自分も同じ道を辿る。そう思うと逃げ出したくなる。しかし、逃げ出せば殺される。立ち向かっても殺される。

 次第に何の為に戦うのかわからなくなっていく。それでも信じるしかない、この道こそが正義なのだと。


 空爆を受けて奇跡的に助かった。しかし、四肢を失う事になった。それでも、生きて戦場から返って来た事が、幸せなのだと誰もが言う。本当にそうなのだろうか。

 自分の力では何一つだって出来ない。食事すら、他人の力を借りなければいけない。

 多くの敵を倒した英雄と呼ばれ、生きる事を強制させられる。何も出来ずに、漫然と日々を過ごし、やがて心は荒んでいく。

 これを本当に、生きていると言えるのか。


 爆弾が投下されて、一瞬で焼かれて死ぬ。生き残れば、更に辛い苦しみが待っている。焼け爛れた皮膚、全身に感じる痛み、そして渇き。苦しみ抜いた挙句に、死んでいく。

 その苦しみは、死ぬことよりも辛かろう。

 

 ペスカは、戦争による死だけではなく、付随する苦しみも追体験させた。当然、被害者の苦しみも。

 戦争による死、そして遺族の悲しみ。どれだけ戦争が悲惨なものか、それは管理者然として戦争を操る者にこそ、わからせるべきだろう。

 

「どんな想いで、戦うのかわかる? 殺し合う恐怖がわかる? 殺される痛みがわかる? 誇りを踏みにじられる悔しさがわかる? 全てはあんた等が仕組んだ事だよ」 


 更にシーンは変わる。

 男は、昼夜問わず働き続けた。それこそ寝る間も惜しんで、食事もそこそこに。その結果、倒れて病院に運ばれた。自律神経を壊した男は、働く事が出来なくなり、同時に感情も失った。

 心の病気と、医者は簡単に言う。だが心を無くし、生きる意欲を失い、ただ息をするだけ。それは死んでいるのと何が違う。

 

 夫は浪費家であった。その為、いつも生活はギリギリだった。だから、自分も働いた。家族の為に働き、子供達の為に家事も熟した。夫は家庭を顧みず、遊び歩き家にも寄り付かない。

 やがて夫が倒れる。そして、初めて明かされたのは、多額の借金。倒れた夫の世話、加えて借金を返す為に仕事を増やさねばならない。

 体がボロボロになっても、子供の為にと気を吐いた。しかし、まだ幼い子供を残して、妻は倒れる。 


 余命一年と診断された。だが、もし最新鋭の設備で治療を受ける事が出来れば、治るかもしれないと言われた。しかし、負担額すら払う事が出来ない、ギリギリの生活。当然、民間の医療保険など入る余力も無い。

 最新鋭の治療を諦め、余命を過ごす。一日過ぎる毎に、思い出を整理する様に。

 

 ペスカは現代社会で起きている、苦しみを伝えた。一見した豊かさの裏に、歪となっている物が有る。それが何なのか。

 全てがミストルティンのせいではない。しかし、少なくとも彼らの下には、資産家で作られた組織が有るのだ。経済をコントール出来る人間達、その一部の人間だけが、真の豊かさを得る。

 この歪みを正そうと立ち上がった者達を、ミストルティンは利用したのだ。全く関係が無いとは言わせない。


「これが現代社会の縮図だよ。あんた等が理想とした社会は、多くの奴隷によって支えられているんだ」


 そして最後にペスカは、邪神ロメリアがロイスマリアで何をしたかを見せた。

 モンスターが平然と人を襲い喰らう。戦いが蔓延し、狂気が満ちる。更には死んで尚、死体だけが闊歩する。

 その地獄を見ても、まだ邪神の誕生を望むのなら、狂っているとしか言いようがない。


 全ての追体験を終えた後、ペスカは魔法を解き、ミストルティンのメンバーを解放した。しかし、誰一人して身動き一つする者はいなかった。

 何度も死を体験し、世界に蔓延る苦しみを体験したのだ。もう、心は壊れているのだろう。


 そして、ペスカはメンバーの一人に近寄ると、頭に手を添える。そして神気を流すと強制的に動かした。

 ペスカの神気を流されたメンバーの一人は、直ぐに各国の首脳へと国連事務総長へ連絡をする。

 戦争を止める様に。直ちに、戦争終結の宣言を行う様にと。


 ミストルティンの命を受け、各国は戦争終結へと動き出す。しかし、既に悪意は世界に充満している。そして、一人の男の中に吸収されていく。そして臨界点を突破し、種子は芽吹き花を咲かせる。

 それは世界の終焉を齎す、邪悪の誕生。閉ざされた未来の始まりであった。

まぁね。第三次世界大戦を、本気で描くなら、一作品にしないと収まりませんね。


今回は、それがテーマではないので、なるべくダラダラとしない様に、縮めたつもりです。

なので、テンポはそのままで、少し重さが表現出来たかなと思っております。


次からは、東京編のクライマックスになります。

そして、あいつが復活します。


次回は、9/19の投稿予定です。

お楽しみに。


この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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