260 神々との対話、そして未来へ
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ペスカ達は、邪神を消滅させた。しかし、これで全てが終わった訳ではない。
破壊されたものは、二度と元に戻らない。ならば、荒廃した世界は、新たな道を模索しなければならない。
ペスカは、人間や亜人等、各種族の一部を集め、話し合いを行う事にした。集まる場所は、ラフィスフィア大陸の北部。かつて魔道大国メルドマリューネが存在した場所である。
魔獣の代表としてズマ、亜人の代表としてエレナが呼ばれた。人間の代表として、エルラフィア王にシリウス、サムウェル等三将も呼ばれている。
また、エンシェントドラゴンのノーヴェ、冬也の眷属であるスールとミューモ、ブルにアルキエルも揃っている。
当然ながら、大地母神の三柱も呼ばれていた。
エレナやブル、そしてズマといった、共に苦境を乗り越えた者達の再会は、感動を誘う。緩やかな空気に包まれる中、女神は溜息をついた。
「はぁ・・・。これは、何て言うか凄いわね」
「言いたい事はわかるわ、ラアルフィーネ。冬也君の眷属だけで、一大勢力だもの」
顔を見合わす二柱の女神。しかし、女神ミュールだけは違った。
「あんた等、何を呑気な事を言ってるんだい! アルキエルが無事ってのは、どういう事だい! ふざけるんじゃないわよ!」
「あぁ? あんた、俺の眷属に何か文句でも有んのか?」
「眷属? ふざけんな! こいつがどれだけの事をしたと思ってんだい!」
「なら、言うが。あんた等が反フィアーナ派を嵌めようとしたのは、罪にならねぇのか? 世界を放り出して、崩壊寸前まで追い込んだ事は、罪にならねぇのか? 言ってみろ、ミュール!」
「それとこれとは別だよ!」
「どう別だって言うんだ! それはあんたの個人的な恨みだろうが! ふざけんじゃねぇぞミュール! その驕った考えが、世界を滅ぼすんだ! てめぇは、何も学んでねぇのか? アルキエルに手を出す奴は、俺が許さねぇ! アルキエルは、俺の下で罪を償い続ける。俺の決定に意見が有る奴は、力づくで来い!」
冬也が周囲を威圧する。この場で、冬也に面と向かい意見が出来る者は、ペスカや冬也の眷属くらいであろう。
強烈な神気が、女神ミュールを締め上げる。
女神ミュールは、ペスカに諭され、理解したつもりであった。しかし、実際アルキエルを目の前にし、怒りが蘇った。
冬也に言われた通り、完全に利己的な怒りであった。奇しくも冬也の強烈な神気が、女神ミュールに冷静さを取り戻させる。
「悪かったよ冬也。だから、神気を弱めな」
冬也の神気は、女神ミュールにのみ向かっており、ここに居る誰をも害していない。それだけに、神気を感じ取れない一部の者は、苦しむ女神ミュールの姿を、呆気にとられて傍観していた。
当のミュールは、思わず首を垂れたくなる程の、威圧感を感じていた事は間違いない。
「蘇ったら、冬也が益々怖くなってたニャ。ミューモ、冬也が怒ったら、お前が私を守るニャ!」
「馬鹿を言うな。お前が悪さをしなければ、冬也様はお怒りにならん。冬也様がお怒りになる状況で、お前を庇うものか!」
ぼそぼそと話をする、エレナとミューモに怒声が飛ぶ。
「うっせぇぞ、糞猫! 黙らねぇとぶっ飛ばすぞ!」
「怒られたニャ。怖いニャ。黙るニャ」
瞳に涙をいっぱいに溜め、エレナは口を閉じる。
エレナは、今や三将に並ぶ実力者になった。強くなったからこそ理解が出来るのだろう、冬也の怖さが。
そして、冬也は周囲を見渡すと、徐に口を開く。
「集まって貰ったのは、各大陸の代表者と、神の代表だ。俺とペスカから、これからの世界について、言いたい事が有る。ちゃんと聞いてくれ。みんなで話し合おう」
横柄な態度から打って変わり、冬也は深々と頭を下げる。初めて見る真摯な冬也の姿に、一同が目を見張った。
「俺からは幾つか提案だ。先ず三つの大陸には、守護者を置く。俺が信頼する奴だ、間違いはない。再び邪神が誕生した混乱時には、守護者が率先して動く。アンドロケインは、ミューモが守護する。ラフィスフィア大陸は、スールが守護する。ドラグスメリア大陸は、ノーヴェが守護をする。反対の有る奴は居るか?」
冬也が周囲を見渡す。地上の者達からは、反対意見が無い。
エンシェントドラゴンが守護者として存在する事は、何よりも心強いのだ。
「名前が挙がった奴らは、皆あんたの傘下じゃないのかい? 三つの大陸を手中に収めて、何かしようって腹積もりは無いだろうね、冬也」
三つの大陸を、冬也が支配する構造に見えても、おかしくはないだろう。
女神ミュールの指摘は、当然とも言える。
「当たり前だ。守護の任と俺の眷属である事は、切り離して考えてくれ。皆の承認を貰えれば、皆から選ばれた守護の任となる。守護の任に関して、俺は一切の干渉をしない。この件に対する回答は、後日で良い。良く考えておいてくれ」
冬也の言葉は、あくまでも提案なのだ。
決定やその後の運用に関して、一切の干渉をしない。ましてや検討する余地すら残している。誰も不満を持たないだろう。
指摘した女神ミュールを始め、一同が頷く。そして、冬也は話しを続けた。
「続いてだが、旧帝国あたりは、暫くブルの物にしてやってくれ」
「冬也君。どうして?」
続く冬也の提案に、女神フィアーナが質問を投げた。
「こいつは、既に人間と上手くやってる。俺は旧帝国一帯を、農産業の一大拠点にしたいと考えてる。ブルは力と技術を持ってる。だけど、知識がねぇ。人間や亜人達が知識を与えてくれれば、あの場所は三つの大陸を支える拠点にもなり得る」
「冬也殿。概ね不満は無い。しかし、進め方等は詰める必要があるだろう。それは、我らにお任せ頂けるのか?」
「エルラフィア王、当然だ。生産計画みたいな物は、詳しい奴が考えてくれ。ただ、関連する産業の育成も視野に入れねぇと、後々困る事になるぞ。それに関しては、人間だけじゃなくて、ミノタウロスやエルフの知恵も活きるだろ? お袋も知恵を貸してやってくれ。出来れば農業関連の知識は、ブルに共有してくれ。こいつは、俺の何倍も賢いんだ」
「わかったわ、冬也君」
女神フィアーナが頷くと共に、皆から一応の賛同を得る。冬也の隣にいたブルは、嬉しそうに目を輝かせていた。
冬也は、柔らかな眼差しをブルに向けた後、次の話題に話を進める。
「最後だが。アルキエル、あそこの奴らに稽古をつけろ」
冬也が指を差したのは、サムウェル、モーリス、ケーリア、エレナの四人と、魔獣のズマであった。
「おい冬也。てめぇ」
「文句は無しだ、アルキエル。お前の技術をあいつらに伝えろ。そして、お前はあいつらから学べ。これが贖罪の始まりだ、アルキエル。他者を傷付ける事よりも、己に勝つ道を知れ」
アルキエルは、渋々といった表情で頷く。神から指導を受ける幸運など、探しても見つかるものではない。
エレナを除く者達は、目を輝かせて頷いた。
「あいつ嫌いニャ。ペスカと冬也を殺したニャ」
「糞猫。一旦、それは忘れろ」
「無理ニャ!」
「なら、てめぇだけ俺と稽古するか?」
「もっと嫌ニャ! アルキエルと稽古するニャ」
エレナの言葉は、一同の笑いを誘う。そして、全ての提案をした冬也は、場の中心をペスカに譲った。
「私からは一つだけ。神と地上の生物が共に歩む世界を創る為に、決まり事を作ろう! これから定期的に会議をするよ。それで細則を決めるの。ちゃんと周知も忘れない事! 特に亜人は種族が違えば生活環境が、がらっと変わるからね。それぞれの意見もちゃんと聞き入れようね」
「ペスカちゃん。決まり事と言っても、基本的な理念は有るの?」
「有りますよ、ラアルフィーネ様」
女神ラアルフィーネの言葉に、ペスカは軽く頷く。そして、少し息を整えると徐に話し始めた。
「一つ、神と地上の生物は同等である。一方が他方を強制をしてはならない、また互いに敬意を払わねばならない」
最初の言葉から、女神達を驚かせた。
確かに、同格でなければ一方的な支配となり、今までとなんら変わりは無い。神と地上の生物が、共に世界を創る事は、不可能であろう。
常識を覆す事柄は、果たして神だけでなく、地上に生きる者達に受け入れられるのだろうか?
そして、女神達を不安にさせる言葉は、更に続く。
「一つ、神は地上を守る事を旨とする。地上に生きる者達は、その恩恵に預かる事に感謝を忘れてはならない。ただし、神は地上で無用に力を振るい、地上に生きる者を害してはならない」
更にペスカの言葉は続く。
「一つ、神は互いが尊重し合い全ての模範であるべし。同じ神の中で卑賤があってはならない。地上に生きる者達は神に倣い、種族の垣根を超え優和であるべし」
そして何よりも、女神を不安がらせたのは、次の言葉であった。
「一つ、神は地上の文化を無暗に壊してはならない。成長を阻害してはならない。神は地上に生きる者を指導すべきであり、断罪する権限を持たない」
女神達は動揺した。
自らの存在価値を著しく制限するだけではなく、地上で問題が発生しても断罪する事が出来なくなる。
特に断罪については深刻である。仮に地上で争いが起きても、神の役割は争いを止めるだけに留まる事を意味していた。
「一つ、問題は神と地上で生きる者が、話し合いで解決すべき。それぞれの立場から選出された、数名の参加者から成る議会で、解決案を模索すべき。議会の参加者は、ロイスマリア全ての為に行動する事を念頭に置き、恣意的であってはならない。また、議会で承認された決議が、絶対であってもならない。客観的立場から、決議の是非を問う機関も、同時に存在しなければならない」
ペスカの言葉は、女神だけではなく人間や亜人達をも驚かせた。
ペスカは、ロイスマリアに地球の現代社会における、法治主義を持ち込もうとしていた。
そもそも神と地上の生物、また地上に住む多くの種族が、何の制限も無く共に手を取り合う事など、出来る筈がない。
それならば、一定の法の下に順守させる方が、効果的であろう。
「基本的理念は以上だよ。さてみんな、それぞれの場所に持ち帰って、話し合いの開始ね。一か月後に集まって、細則の概要だけでも作るよ! 一か月後に、何も提案出来なかった陣営は、お兄ちゃんの超痛いデコピンが待ってるから、覚悟してね」
ペスカは、笑顔で全員を見渡す。その隣で、冬也は指を鳴らす。
二人の静かな威圧に、周囲の表情は青ざめていた。
「ちょっと待つニャ、ペスカ。亜人の代表は私ニャ? 一人しか居ないニャ! 魔獣の代表も一緒ニャ、ズマしか居ないニャ。無茶だニャ!」
「エレナ。こんな時にエルフの知恵を使わないでどうするの? 魔獣側にも頭が良いのは居るでしょ? それに不安なら、次回はテュホンとユミル辺りを連れてくると良いよ。ミューモとノーヴェも力を貸してくれるはずだよ」
ペスカの言葉に、ミューモとノーヴェが深々と頷く。エレナは逃げ道を塞がれ、首を横に振る事が出来なかった。
「エレナ。亜人の代表なんて大出世じゃない。頑張りどころだよ」
「こんな出世は、欲しくなかったニャ」
弱々しく肩を落とすエレナ。ただ、困惑するのはエレナだけではない。
皆が困惑する中、一同は解散となった。
それから一か月の間、ペスカは大陸中を駆け回り、助言を続けた。
法律という概念の無い亜人達への指導に始まり、種族間抗争を止める為の法的拘束措置の助言、そして元より次元の違う存在である神と対等である為には、どうすれば良いのか。
忙しく駆け回り、共に考える。そして、意見をまとめる。
ペスカのフォローは、地上の生物に留まらず、神にも及ぶ。
地上の生物と対等である為には、神の権限を著しく制限しなければならない。それは威厳の喪失に留まらない。存在意義の放棄は、文字通り神としての生命線である。
しかしペスカは、神々に新たな道を示した。
簡単な事ではない。だが、己の司る定義によって縛られるより、新たな道を模索した方が、良い可能性にもつながるだろう。
それに先の戦いで、多くの神を失った。今後は地上を維持するにも、困難な事が訪れるだろう。
先々の事を考えれば、失った神の再来を待つよりも、生物を神に至るまで導いた方が混乱は起き辛い。
神々が弟子を取り、地上の者を導く事も視野に入れれば、相乗的に神々の意思が地上へと伝わるだろう。
制限するだけが、方法ではない。
禁止しや破壊よりも、共に考え新たな道を模索する。それが、新たな世界を創る。
そして一か月後、新たに参加者を増やし、旧メルドマリューネの地で二回目の会議が行われた。
未来の世界を、皆で共に創る。
その意思を持ち、参加者は意見を出し合う。新たな世界は、その骨組みが作られ様としていた。
「好きです。つきあって下さい」
「ごめんなさい」
朝の登校中、しかも昇降口の近くで告白をすれば、否が応でも目立つだろう。
しかし、皆が整然と通り過ぎる。何故ならこれは、毎朝の日課の様なものだからだ。
告白タイムが終わると、僕らは揃って下駄箱へ向かう。
「少しはさぁ、告白のセリフを考えたら? なんか、飽きられてる感じだよ」
「それ以前の問題だと思うけど」
「何が?」
「昨日は、君が告白して僕が断った。一昨日は逆だし。結局、何の意味が有るの?」
「言ったじゃない、記憶させるのよ。この世界に、自分達が居るって事を」
「自己主張ってやつ? それなら充分だと思うよ。僕らは揃って、変人扱いだから」
「はぁ、わかってない。いい? 明日もあんたが、告白だからね。セリフを捻って来なさいよ」
クラスが一緒になった事がない。声をかけられなければ、存在自体も知らないままだった。
そんな、彼女から声をかけられ始めたのが、毎朝の告白。
何の意味が有るかわからない。説明されたけど、理解が出来ない。でも、こうして彼女に付き合うのは、僕が彼女を好きだからではない。
単純に怖かったからだ。
「いい。認識して初めて、存在が確定するの」
「何それ、科学的な何か? それとも、オタク的な何か?」
「どっちも違う! あんたは、さっき私を認識した。だから、私という存在が確定した」
「でも、僕に話しかけて来なかったら、江藤さんを知る事は無かったよ。その場合、江藤さんは存在しないって事になるの? おかしくない? 江藤さんはこの高校に通ってるよね。在学の証明なら、先生がしてくれるはずだよ」
「現実的には、それでいいのよ。でも違う。あのね、私が声をかけなかったら、あんたの中に私が存在しなかったって事、わかる?」
「わかるような。わからないような。どっちでもいいけど、もしかしてこれ。告白か何か?」
「違うわよ! なんであんたに告白しなきゃなんないの?」
「じゃあ、どういう意味?」
「他人に存在を認識されなければ、私は死ぬの。それとあんたも」
「それって何? 電波系?」
「違う! その内、あんたにもわかるわよ。この世界の真実ってやつがね」
「江藤さんて、宗教の人?」
「違う! 明日の朝、あんたは私に告白するの! わかった?」
「やだよ。僕、江藤さんみたいな人、苦手だし」
「好き嫌いじゃないのよ! いいからやる! 死にたくなければね」
半ば脅される様にして始まった、毎朝の告白。最初は、江藤さんが僕をからかってるんだと思ってた。でも、江藤さんはいたって真面目だった。
そして当時の僕は、まだ知らなかったんだ。これにどんな意味が有るのかを。やがて僕は知る事になる。
この世界は。
☆ ☆ ☆
珠さんの、適当に書いた冒頭シリーズ。
今回でラストにします。
ラストがこんなんで良いのか珠って感じですけどね。
学園ファンタジーとか、学園サスペンスでいいのかな?
まぁ、これも続きを書く事はないです。
続きを書きたい方は、ご一報ください。
次回もお楽しみに。
2019.11.4校正。




