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244 大地の復興へ その1

ご閲覧ありがとうございます。

楽しんで頂けたら、幸いです。

 演説を終えたペスカは、通信機を切ると大きく息を吐いた。

 へたり込みそうなペスカを、冬也は直ぐに立ち上がり優しく支える。そして冬也は、優しくペスカの頭を撫でる。

 冬也の温もりを感じながら、はにかむ様にペスカは微笑んだ。


「お疲れさん。取り合えずって所だな」

「ありがと、お兄ちゃん。ちょ~緊張したよ! 私の可愛いハートが、ドキバクだよ!」


 大陸中の人間に対し自分の声を届ける、それが如何に大変な事か。いくらペスカが英雄と呼ばれていても、非常事態に人の心を動かすなんて、出来るはずがない。

 しかし、ペスカと冬也は感じ取っていた。この大陸から悪意が薄れつつある事を。

 そして、二人は安堵の表情を浮かべた。


「素晴らしい演説だった。感動したぞペスカ殿」


 ソファーから立ち上がり、エルラフィア王が拍手をする。しかし、ペスカは喜ぶ訳でもなく、やや顔を顰めた。


「有難いお言葉ですが、陛下。これは、元々陛下のお仕事です。国の大事に民へ声明を届ける、その為に作った機械です。それが使われず、民は不安となり今に至る。陛下を始め、大臣方の失策では有りませんか? シリウス、あんたもだよ!」

 

 エルラフィア王とシリウスは、顔を曇らせた。

 確かにこれは、先ず自分達がやらなければならない事だった。現状を打開する事を優先したが故に、いつの間にか民を蔑ろにしていたのかもしれない。

 もしかしたら、もっと救えた命もあったかもしれない。暴挙に走る民を、少しでも止められたかもしれない。

 飢えに嘆き、心まで失う民を少しでも勇気づけられたかもしれない。まだやれる事があった、返す言葉はない。

 エルラフィア王とシリウスには、ペスカの言葉が重く響いた。


 沈黙が続き、重苦しい雰囲気となった執務室内。その沈黙を破る様に、マルスが静かに口を開く。


「ペスカよ。色々と聞きたいことは有るが、それよりもだ。少し物騒な事を言っていたな、邪悪な神がどうのと。あれがどういう事か、説明してくれないか?」

 

 スールから、多少の説明は聞いていた。しかしここに皆が、いま何が起きようとしているかを理解していない。

 状況を理解したい。世界に何が起きているのか、そしてこれから何が起きようとしているのかを知りたい。それは為政者として、当然の欲求であろう。

 何も知らなければ、対処すら出来ない可能性も有るのだから。


 ペスカの顔をじっと見つめるマルス。そして、執務室内に居たエルラフィア王やシリウス、トールまでもがペスカの言葉を待った。


 何をどこから話せばと、ペスカは少し逡巡した。しかし、重苦しい執務室を更に重くする様な言葉が、冬也から発せられる。


「邪神は生まれるぞ。いや、もう生まれてるかも知れねぇ。前のロメリアなんて、雑魚にしか思えねぇ程ヤバイのがな」

「ちょっ、お兄ちゃん」

「言わなきゃいけないなら、結論から言わねぇと駄目だろ。あんまり時間は残ってねぇんだ」

「だけど、言い方ってものがさ」


 慌てて冬也を止めようとするペスカであったが、放たれた言葉は止めようがない。

 そして冬也の言葉に、エルラフィア王達は顔を青ざめさせた。


 邪神ロメリアは、長年に渡りラフィスフィア大陸に混乱を起こして来た。

 そして大陸から、人間の半数以上を死に追いやった災厄である。今それ以上の混乱が起きれば、間違いなくこの大陸は終わる。

 神の再来を待たずして。

 

 誰もが肌を粟立たせ、震えていた。その様子を見て、ペスカは少しため息をつき、重い口を開いた。


「えっとね。世界から神様が居なくなったのは、一部の神様が原因ね。まぁ色々あって、世界から神様全員が姿を消したんだけど、一柱の神が原因で半数以上が消滅、残った神様もボロボロって訳」


 ペスカの説明は、冬也を除くその場の全員が理解出来なかった。ただ漠然と感じたのは、想像を遥かに超えて酷い現状だけ。


「まぁ世界から神様が居なくなったから、色々と綻びが出るよね。恩恵が失われて、大地や水が枯れたりなんてさ」


 ペスカはそこで言葉を辞め、質問をしたマルスと他の面々を見渡した。

 現状を少しでも理解しようと、皆が真剣な面持ちでペスカを見つめている。


 これから話すのは、最悪とも言える未来予想図。だがこの数か月、神の不在に際し、先頭で戦い続けて来た彼らなら耐えられるはず。

 そう信じて、ペスカは少し息を吐くと、言葉を続けた。


「でも、原因はそこじゃないんだよ。この世界には、悪意が満ちてるんだよ。ラフィスフィア大陸だけが問題じゃない、世界規模に問題が広がってる。亜人の大陸では、国同士で大きな戦争が起きているの。ましなのは、魔獣の大陸だけだね。だからさ、生まれるんだよ邪神は。邪神を生むのは、意志ある生物の悪感情。人々の悪意が大陸中に充満し、亜人の大陸では殺意に満ち溢れてる。わかるよね、もう手遅れなんだ」

 

 まくし立てる様に、ペスカは言葉を続けた。

 エルラフィア王を始めとした面々は、鎮痛な面持ちでペスカの言葉を聞いていた。

 理解出来ないどころか、信じたくない。そんな心境が、表情にも表れていた。


「いま出来るのは、少しでも世界に溢れる悪意を弱める事だけだよ。私が出来るのは、みんなに一歩を歩ませるだけ」


 これまでと異なり、元気よく言葉を紡ぐペスカであったが、皆の表情を和らげるには至らなかった。

 この数か月、どれだけの絶望に耐え、抗い続けたのか。そこに突き付けられた、死の宣告にも似た更なる絶望。

 皆が受け止めきれない現実に、打ちひしがれていた。見え始めた仄かな光明が消えていく、闇が覆い尽くしていく。


 エルラフィア王を始めとした面々は、誰もが力なく俯いていた。そして見かねた様に、冬也はやや眉をひそめて雄々しい声を発した。


「最初に言っておいたよな、期待すんなってよ。これじゃ何の為にペスカが体を張ったかわかんねぇぞ! あんた等まだ理解出来ねぇのか?」


 冬也は、エルラフィア王を始めとした面々を見渡す。絶望した人間を立ち上がらせるのは、優しさか厳しさか。

 そして冬也は、語気を強める。


「邪神が生まれても、神は戦う余裕がねぇどころか、世界を癒すのだって時間が掛かる状況なんだ。人間の事は人間で何とかしなくちゃなんねぇ! 神に頼るな! 世界は自分達の手でしか、変えられねぇんだ! こんな所でクヨクヨしている場合じゃねぇだろ! 立てよ馬鹿野郎共が! 今は邪神の力を弱める事が先決なんだ! その為にしなきゃいけない事は沢山あんだろ! 国を救え! 民を救え! それをやってくれるなら、俺が邪神をぶっ飛ばしてやる!」


 僅かに冬也から神気が漏れ出る。それは、他者を威圧するのではなく、優しく包み込む冬也の温かい力。

 執務室内が冬也の神気に包まれ、室内に居る面々に勇気が宿っていく。青白い表情に、赤みがさしていく。

 そんな彼らの姿を見届けると、冬也は部屋を後にしようと歩みを進めた。


「あぁそうだ王様。約束を忘れんなよ。東の連中にも声を掛けといてくれ」

「冬也殿。それはどういう?」


 少し振り向き、思い出した様にエルラフィア王へ声を掛ける冬也。次々と移る状況に、エルラフィア王は追い付けない様子であった。 


「帝国の領土は手付かずだよな。ちょっと借りるぜ」

「そうだが、何をしようと言うのだ?」

「決まってんだろ、開墾だよ! 勿論、育てた作物の一部は、皆に分けるぜ! その為に、力を貸してもらうんだ当然だろ」

「あぁ。それは助かるが、帝国は広いぞ。二百人程度では、大した事は出来まい」


 エルラフィア王は、少し首を傾げる。しかし構わず、冬也は言葉を続けた。


「あんた等の前に顔を出したろ、一つ目の巨人がな! ブルには、帝国は大して広くねぇ。聞いてるかどうかは知らねぇけど、俺とペスカは神だからな一応。俺達は直接手は貸さねぇけど、俺の家族なら力を貸せる。食料事情の改善だ、悪くねぇ話だろ?」

「あ、ああ・・・」

「まぁ楽しみにしてな。運搬やら道具やらは、あんた等に任せるぜ。ブルが使う道具も用意してくれよな! それと、念の為にもう一度言うが、あんた等に分ける食料は、あいつが食い残した一部だ。それでも、相当な量になるはずだぜ」


 楽し気な笑みを浮かべて、今度こそ冬也は執務室を後にした。

 

「一応ね、念押しするけど。一つ目の巨人はブルって名前なの、とってもいい子なの。それで、お兄ちゃんの眷属。邪険にしたら、お兄ちゃんすっごく怒るから気をつけてね。これから私達は、ブルと合流するから準備とか色々よろしくね~!」


 冬也の後に続き、ペスカも軽く手を振り、執務室を後にする。残された面々はただ頷き、言われた通りに動くしかなかった。

 だが、彼らは後で知る事になる。ブルの存在が、飢えに瀕したラフィスフィア大陸の食糧事情を、劇的に改善させる事を。

夢を見ている時に、意識が有る事は無いですか?

私はよく有ります。


それで、夢のストーリーに納得がいかないと、やり直しを要求してます。

動画を少し巻き戻して、リテイクみたいな感じです。

途中で目が覚めた場合でも、夢が途切れた個所を強く意識して、眠りにつくと続きが見られたりします。


夢は起きたら忘れると言いますが、意識が有る場合は記憶しています。

なので、人に語る事も出来たりします。


怖い夢の場合は、大体うなされて目が覚めます。

そして、忘れる様に努めます。


ただ私は、怖い夢じゃなくて、やばい夢を見る事がたまに有るんです。


夢の中で、酷く現実感の有る場所に立っています。

景色は見るたびに変わりますが、大抵は街中です。

その時、私の意識は、はっきりとしています。

そして、いま自分が居る場所が、夢でも現実でも無い場所だと、自覚しているんです。


何かに引き寄せられる様に、私はその街を歩きます。

そして有る場所で、立ち止まります。

その時、私は実感しているんです。


この先に進んだら、二度と戻れなくなると。


その先が、恐ろしく感じる時も有れば、行ってみたい欲求に駆られる時も有ります。

ですが、そこから先に進んだ事は一度も有りません。

もし、私がその先に進んでいたら、どうなっていたのでしょうね。


次回もお楽しみに。

2019.10.28校正。

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