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16 ペスカと冬也のマーレの休日

ご閲覧ありがとうございます。

楽しんで頂けたら、幸いです。

 混浴を企むペスカを、事前に冬也は阻止した。しかし冬也は、巧みに部屋のドアの鍵を開けて、ベッドへ侵入するペスカを阻止出来なかった。


「ったく。どうやって入って来たんだ。しかもこんなでかいベッドなのに、引っ付いて来やがって。仕方ねぇやつだ」


 起きがけの冬也は独りごちる。そして、しがみついて眠るペスカを、起こさないようにそっと引き剥がし、ベッドから降りカーテンを開ける。部屋から見える海には、水平線から顔を出す朝陽で、キラキラと輝いていた。


「綺麗だな。写真に残しておきたい風景だな」

「そうでしょ。朝陽が写る海が最高だよね」


 冬也が振り向くと、ベッドの上でペスカが伸びをしていた。


「ペスカ、起きたのか」

「お兄ちゃん、良く眠れた?」

「あぁ。お前は?」

「お兄ちゃんおかげで、ぐっすりだよ」

「それで、今日はどうするんだ?」

「街へ繰り出すよ~! お楽しみにね!」


 身支度を整え、二人は食堂に向かう。朝食で出された物は、普通にパンとスープ、サラダ等であった。

 何も腕の良いシェフに無理を言い、エセ日本食を作らせる必要はない。冬也は、ルクスフィア伯爵邸での食事と比較し、出されたホテル風の朝食を堪能した。


 朝食を取ると、直ぐに二人は屋敷を出る。護衛に付こうとする兵士達に、ペスカは留守を言い渡す。そして二人きりになると、ゆっくり歩いて街へと向かった。

 昨日、馬車の中から街の様子は見ていた。実際に歩いてみると、新たな発見がある。ペスカ邸から出ると、高級そうな住宅街が立ち並ぶ。この辺りは上級貴族達の、別荘地帯になっているそうだ。


「こうやって見ると、豪華な建物ばっかりだけど、宮殿みたいなペスカの家見たら、ショボく感じるな」

「あれはこの国の王様が建てた物だし、まぁ私の趣味とは、少し違うんだけどね」


 別荘地帯を抜けると、海に面した大きな広場が見えて来る。

 円形状の広場を中心に道が併設され、幾つもの脇道へと繋がってた。広場は住民を始め、観光客の憩いの場でも有るのだろう。綺麗に刈られた芝生の上には、数個のベンチが有る。海を眺めながら、一息つくにはもってこいの場所かもしれない。

 そして広場の中心には、美しい女神の様な像が立っていた。


「ペスカ。この世界でも、女神の信仰ってあるんだな」

「何言ってんの、お兄ちゃん。あれ私だよ」


 冬也は首を傾げて、ペスカと像を何度も見比べる。


「はぁ? バカじゃねぇの? あれがお前の訳ねぇじゃん」

「本当だよ! 信じて無いの?」

「だって、あの像おっきいじゃん」

「お兄ちゃん。何処見て言った! 何処見て言った! 何処見て言った~!」

「いや、何処って身長に決まってんだろ! 顔も違うし!」

「当たり前だよ、生まれ変わってんだよ! あれは生前の模写なんだよ」

「そっか、お前もあんな美人に成長するといいな」

「な、お兄ちゃんのバカ! 本人を目の前にして言うセリフじゃないよ!」


 冬也の不要な発言で、ペスカはプリプリと頬を膨らませる。そんなペスカを宥めて、二人は再び街の散策を始めた。広場を抜け目抜通りに入る。

 目抜き通りには、そこかしこに海鮮物を扱う商店や飲食店が立ち並び、開店直後の時間にも関わらず、多くの人で賑わっていた。


「せっかくだし、海鮮料理を味わおうよ。行くよ、お兄ちゃん」

「海鮮料理って言ってもさ、変な魚出てくるんじゃ無いよな」

「日本で見るような魚は無いよ。まぁ独特な色をしたり、ちょっとグロテスクだったりするけど、ちゃんと食べられるし美味しいよ」

「本当か? 嘘だったら、お仕置きな」

「なら、美味しかったら、今日は混浴だからね」

「しねーよ、馬鹿!」


 二人は、取り合えず目に入った食堂へと、足を踏み入れる。そして、店員に案内されてテーブルにつくと、メニュー表を渡された。しかし表記された品は、冬也にでは全く想像がつかない。店員さんに聞くと、煮たり焼いたりする料理が多いらしい。

 ただ、現地の物を食べるのが、旅の醍醐味であろう。冬也は、詳しいであろうペスカに注文を任せる事にした。


「なぁペスカ。基本は、日本の定食屋と変わらねぇのか?」

「味付けは、東南アジアに近い感じかな?」

「刺身みたいのは、無いのか?」

「基本、この辺では食べないね。必ず火を通すの。香辛料を使った料理も多いよ」


 出てきた料理は、魚の煮付け、焼き魚、貝のスープ等、魚介尽くしの料理が並んでおり、見た目にも食欲がそそる料理であった。


「どう、お兄ちゃん?」

「魚の味自体は淡白だけど、独特な調味料使ってんな。香辛料やハーブで味付けしてるのか? 食えなくは無いな」

「これが、マーレの伝統料理だよ」

「そっか。地域でこんなに差が出るのか、面白れぇな」


 食事を堪能すると、次は市場へと足を運ぶ。既に競りが終わった時間にも関わらず、人が行き交う活気に溢れる場所であった。


「ここが市場ね。時間帯によっては、マーレで最も人が集まる場所だよ」

「築地みたいなもんだな。ところでこの辺で獲れる魚は、見ること出来ねぇの?」


 冬也の願いに応えようと、ペスカは市場関係者と交渉する。すると、今朝荷揚げしたばかりの魚を、見せてもらえる事になった。

 市場関係者に連れて行かれた場所は、競りが終わった魚を各店に運搬する為の作業場であった。そこには、日本では見る事が出来ない、色鮮やかであったり、深海魚も真っ青な程に異様な形の魚が並んでいた。


「キモ! これ本当に魚か? 食えんのか?」

「何言ってんの? さっき食べたじゃない」

「マジ! これを食ったの?」

「美味しいって言ってたし。見た目で判断しちゃいけないって、お兄ちゃんがいつも言ってるじゃない」

「別に旨いとは言ってねぇよ」

「それぞれの海で獲れる魚に、違いがあるでしょ? 地球とこの世界でも大きな違いはあるよ」

「なるほどな。ところでペスカ。この近海には、危ないのはいないのか? 例えば人を食べちゃう、ホオジロサメみたいなのとか?」

「いない事は無いけど、ほとんど見ないね」


 二人の話を聞いていたのか、一人の男が話しかけてきた。


「お二人さん、それがねぇ、最近現れるんだよ。ちょっとヤバイのがね。そのせいで、漁獲量が下がっているんだよ。湾内には被害は無いんだけど、湾外に出るとそいつに、襲われるらしいんだよ。漁船ごと沈めちまうらしいから危なくてね」


 男の言葉に、興味を示したペスカが、質問をし始めた。


「それって、どんな奴?」

「それがよぉ。目撃証言が少なくて、はっきりしねぇんだけどよぉ。漁船の十倍はある化け物って、もっぱらの噂だよ」

「まっさか~。で、実際の被害は?」

「三日前に船を出したペータの奴が、未だに帰ってこねぇよ」

「それって、単に遭難しただけじゃない?」

「やたら霧の濃い日だったから、あり得るんだけどよぉ。流石に三日はねぇや。それにベータの腕は確かだ。仮に遭難したって、平気な面して帰って来やがるぜ」


 話を聞き終わると、二人は散歩に戻る。停泊する漁船を眺めて、港伝いを散策し街中へと戻っていった。


 立ち並ぶ建物が石造りなのは、やはり中世を思わせる。内陸部と異なるのは、衣服の生地であろうか。綿を主体に作られた服よりも、この街では麻の生地で作った服が主要の様である。

 日本の港町や東南アジアの港町よりも、ヨーロッパの港町の方が印象に近い。ただし、食事に関しては東南アジアの味に近い。何だか不思議な感覚を思わせる、マーレの街を堪能し二人は帰宅の途に着く。


 来た道を戻りながら、別荘地帯に差し掛かった時、訝し気な表情を浮かべた冬也が、徐に口を開いた。


「なぁペスカ。さっきのおっさんの話は、モンスターの件と関係あるんじゃねぇか?」

「気のせいじゃない? 大体、漁船の十倍って、吹かし過ぎな気がするし。念の為、調査しても良いけど」

「でも話が本当なら、討伐が必要だろ? どうすんだ?」

「まぁ、何とかなるって」

「お前がそう言うなら、大丈夫なんだろうけど、油断はするなよ」


 噂の件に一抹の不安を感じつつも、ペスカが言うなら大丈夫だろうと、たかをくくるっている冬也。端から、呑気そうに構えるペスカ。

 そんな二人が、想定外の怪物に襲われる事になるとは、今の二人は予想もしていなかった。

次回もお楽しみに!


2018.3.16再校正。

2019.4.11再校正。

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