165 女神の思惑
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ただ光が溢れる何も無い空間に、見目麗しい女性達の姿があった。
スレンダーな体躯を持ち、童顔な面持ちで柔らかく微笑む女性。男性を魅了する様なグラマラスな身体つきで、シャープな顔立ちながら、柔和な微笑みを絶やさない女性。少女と見まごうばかりの姿と、勝気な釣り目がちの女性。
女性達はいずれも、世界を創造した原初の神である。
その中でも一番力を持つ女神。大地母神、豊穣の女神、様々な呼ばれ方をされるが、地上で神と言えば大抵この三柱の女神の名が上がるだろう。
三柱の女神は地上に留まらず、神々の中でも最も大きな力を持つ。
そして今、三柱の女神は、神々の住まう天空の地とは別の空間にいた。
三柱の女神は、顔を突き合わせる様に向かい合う。柔らかな表情とは裏腹に、緊迫感が空間内を包んでいた。
「それでミュール、そっちの状況はどうなの?」
「直球ね、フィアーナ。でも、ダーリンの様子は気になるわ」
「あのね、ラアルフィーネ。貴女みたいな色ボケ女神に、冬也君は渡さないわよ」
緊迫感を壊す様な、姦しい二柱の女神の様子に、女神ミュールは溜息を突く。
「はぁ。あんた達は、相変わらずね。あんな半神の何処が良いのよ。あいつ、所かまわず私の力を使うから、私の神気が減る一方なの。この間は、突然呼び出されたし」
「良いわね~。私も呼び出されたいわ~」
「ラアルフィーネ、ちょっと黙りなさい。あなたの事情はわかるけど、自業自得よミュール。貴女があの二人を選んだんだもの。私は仕方なく、協議の場で承認したのよ。それより、早く話を聞かせて頂戴」
「危険水域を越えたわよ。そろそろ介入も考えないと、不味いかも知れないわね」
女神ミュールの言葉に、女神フィアーナの表情が一変する。
それまで笑みを絶やさなかった女神ラアルフィーネまで、真剣な面持ちに変わった。そして女神フィアーナは、前のめりで掴みかからんとする勢いで、女神ミュールを問い詰める。
「なんですって! ミュール、もう少し詳しく話しなさい!」
「ちょっと。掴まないでよね、フィアーナ。簡単な話よ、ドラグスメリア土着の神が何柱か、闇に落ちたの。詳しい数はわかってないわ」
「そんな事は知ってるわよ。だから、冬也君とペスカちゃんを送ったんでしょ? 私はその先を知りたいの!」
「私の眷属になった神も、何柱か闇に落ちたの。取り込まれた内の一柱は、あの子達に倒されたけどね」
「待ってよ! ベオログ達は、どうなったの?」
「あの子は無事よ、それ以外は不味いわね。おかげで、私の神気もごっそり減ってる。悔しいけど暫くは、大きな力は使えないわ」
女神フィアーナは顔を青くする。
複数の神が悪意に染まり闇に落ちた。それだけでも、顔を青ざめさせる脅威である。しかし、事態はそれに留まらない。
「もし、ロメリアが残した悪意の塊が、ドラグスメリアで成長し新たな邪神として、生まれたなら」
「そうね、ラアルフィーネ。恐らく、あの大陸の神を複数取り込んで、既に巨大な力を持ってるでしょうね。あの子達では、手に負えないでしょうね。もしかすると、ラフィスフィア大陸より危険な状態になるかもしれないわ」
女神ラアルフィーネの言葉に重ねる様に、女神フィアーナが話す。その声色には強い緊張が含まれ、空間内は緊迫したムードに包まれる。
「じゃあ、介入するのフィアーナ」
「わかってるでしょ、ミュール。介入は出来ないわ」
女神フィアーナは、唇を少し噛みながら首を横に振る。悔し気に顔を歪ませて、女神フィアーナは少し俯いた。
自らが定めた法を破る訳にはいかない。そのジレンマが、女神フィアーナを苦しめていた。想定以上に事態が進行している驚き。それに加えて、冬也とペスカの状況も案じていた。
「あの子達は、どうしているの?」
「色々と面白い事をやってるわよ。ゴブリンを使って、軍隊を作ってるみたい」
「はぁ? ゴブリンってあの最弱の?」
「そうよ。あの最弱のゴブリンよ。私が面白半分に作った種族」
女神フィアーナは首を傾げ、女神ラアルフィーネは目を輝かせる。二柱の反応を確かめる様に見渡した後、女神ミュールは言葉を続けた。
「予想外だったわ。ラアルフィーネが送った子も、頑張ってるみたいね。ゴブリンがあんなに強くなるなんて思わなかったわ」
女神ミュールは、ゴブリンの里に起きた経緯を掻い摘んで説明する。
エレナによるゴブリンの特訓。トロールの変貌とコボルトの襲撃。二種族を見事に最弱のゴブリンが撃退。
それは女神フィアーナをして、驚きを隠し得ない事態であった。
一方、女神ラアルフィーネは、喜色をあらわにする。
冬也達の安否に安堵しただけでなく、自らが気まぐれに選んだ亜人が、予想外の活躍を見せた事にも喜びを感じていた。
そんな女神ラアルフィーネの笑顔は、再び消える事になる。
「それより、反フィアーナ派ね。ここまで厄介だとは、思わなかったわ」
「あのね、ラアルフィーネ。あんたの所だって、いつ狙われるかわからないのよ」
「まぁ確かに。ミュールの所と違って、私の所は一枚岩じゃないからね」
「そうよ。私の所は自慢じゃないけど、団結してたわ。それでも、この有様なのよ」
事実、ラフィスフィア大陸は、混沌勢の猛威に晒された。
ラフィスフィア大陸を拠点とする神々は、女神フィアーナを中心に団結をしていた。しかし、たった三柱の邪神と、一柱の戦いの神によって、地上は壊滅状態に追い込まれ、半数の人間が以上が死に追いやられたのだ。
それは、決して見過ごす事の出来ない事態である。
ロイマスリア三法が足枷となり、混沌勢への対処が遅れたと言っても過言ではない。そして、再びその脅威が訪れようとしている。次もまた対処が遅れる様なら、その影響は一つの大陸に止まらず、世界中に波及する恐れさえある。
女神ミュールは、女神フィアーナを睨め付ける様にして声を荒げる。
「フィアーナ。貴女まだ対話で済むと思ってるの? ラフィスフィア大陸での暗躍、ドラグスメリアでの暗躍。もう明白じゃない、断罪しなさいよ! 甘い事を考えてたらもっと酷い事になるわよ! 冗談じゃないわよ! 私の眷属だってやられてるのよ!」
「落ち着きなさいよ、ミュール。状況証拠が掴めてないんだもの。断罪は出来ないわよ」
「なら、どうするって言うのよ、ラアルフィーネ!」
女神達の視線がぶつかる。
女神フィアーナは、歯噛みをした。グッと耐える様に言葉を飲み込む。そしてゆっくりと、女神ミュールに答えた。
「あの神々は、わかってないだけ。世界を造る事が、どれだけ大変な事なのか。行き過ぎた文明が何を齎すのか」
「壊れてからじゃ遅いのよ!」
「わかってるわよ、ミュール」
「わかってないじゃない。あんたが甘い顔してるから、あいつ等が増長するのよ!」
女神フィアーナを、女神ミュールが睨め付ける。しかし、女神フィアーナは冷静な口調で、女神ミュールに答えた。
「やり方を間違えれば、タールカールの二の舞になるわ。わかるでしょミュール」
「わかってるわよ、ならどうするつもりなの?」
「最悪の場合は、世界を切り離す。神々には一切、地上に干渉させない様にね」
「それは・・・」
女神フィアーナが言ったのは、ロイマスリアという星から、神々を引き離すという事。引き離された神々は行き場を失い、新たな世界を創造しなければならない。
広大な宇宙で塵を集めて星を作り、生命が暮らせる環境を整える。それは神々にとって、過酷な試練への始まりである。
神々をまとめる立場にある女神フィアーナが、その言葉を口にしたのは、相応の覚悟が有ってこそだろう。
「私は嫌よ、面倒だもの。それにペスカちゃんには、ダーリンが着いてるでしょ!」
「まぁ確かに。あの子に冬也をつけたのは、上手い采配だったわね」
「あの子の知恵は、世界を滅ぼす危険性を孕んでるわ。今更ながら、フィアーナが早めに目を掛けたのは、ほんと幸いだったわね」
あっけらかんとした口調の、女神ラアルフィーネ。その穏やかな雰囲気に、女神ミュールは少し留飲を下げる。
女神ミュールが少し落ち着いた所で、女神フィアーナが徐に口を開いた。
「良いも悪いも、いずれにせよ、鍵はペスカちゃんになるわ。先ずはあの子が、反組織に囚われない様にしないとならないわよ」
女神フィアーナの言葉に、他の女神達が大きく頷く。
「あの子達がドラグスメリアで頑張っている間に、私達は状況証拠をいち早く掴む。頼むわねラアルフィーネ、ミュール」
女神フィアーナの言葉に頷くと、三柱の女神はそれぞれ立ち上がる。思惑が渦巻くロイスマリアに、平和な世界が訪れるのか?
それはかつての英雄にして、現人神となったペスカが命運を握る。そして、ペスカのいるドラグスメリアは、更なる混乱が訪れようとしていた。
新章突入しました。
そして、久しぶりの校正再開ですよ。
たいしたネタは無いけど、ネタが無いけどさ。
よく有る、重要な事だから二回言ったってやつ。
一度、やってみたかった。
こんな下らない事を書く位、脳味噌がとろけている珠さんです。
脳味噌がとけて柔らかくなったら、柔軟な発想が出来るのでは?
いやいや、そんなレベルを通り越して、とろけております。
いやぁ、なんていうか、夏はあかん。
夏休みは、有り寄りの有りだけどね。
有り寄りの有りって、なんやねん。意味がわからん。
書いててなんだけど。
そして落ちが無く、後書き終了です。
次回もお楽しみに。
2019.8.9校正。