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156 暗闇の戦い その3

ご閲覧ありがとうございます。

楽しんで頂けたら、幸いです。

 トロール軍団の前方を歩いていた、数体の目に矢が深く突き刺さる。

 激しい呻き声が、密林に響き渡る。そしてトロール達は、周囲を見渡した。敵が潜んでいる、だがその姿は見えない。

 立ち止まり、周囲を警戒するトロール達に、再び矢が降り注いだ。矢は、的確にトロール達の目を捉える。


 突き刺さった矢は、トロール達の目を深く抉る。巨大になり過ぎたトロールの手では、ゴブリン達が放った矢は小さすぎた。指先で摘まみ取る事も出来ずに、悲鳴を上げた。

 痛みのあまり、トロール達は片膝を突く。

 

 そして、更なるゴブリン達の一斉射撃。弓は真っすぐにトロール達に向かう。この時、密林はゴブリンの見方であった。矢を遮る事なく、木々は枝を寄せる。

 更に数体のトロールが、視界を閉ざされた。


 トロール達は、怒りの咆哮を上げる。

 密林の中から、弓が放たれたのが薄っすらと見えていた。何者かに狙われているが、依然として姿が見えない。

 トロール達は、怒りに任せて棍棒を振るう。大きく振り回し、密林を無尽蔵に破壊していく。


 トロールの一振りで、木々が粉々に破壊されて行く様は、ゴブリン達には脅威だった。当たれば間違いなく、体は粉々に砕かれる。

 棍棒の風圧でさえ、ゴブリン達は吹き飛ばされるだろう。

 

 これが、本物の戦場だ。

 ゴブリン達の肌は一斉に粟立つ。しかし、怯んでいては、死が待ち受けるだけ。ゴブリン達、移動を繰り返し、狙撃地点を変えて弓を放ち続けた。


 巨大化したトロール達は、密林から頭だけが出ている様な状態である。そして、それが災いとなった。

 ゴブリン達からは狙いやすい。トロール達は木々の間から、目の前に突如として現れた矢を避けられない。

 次々とトロール達は、膝を突いた。


 地の利が遺憾なく発揮され、序盤の攻防はゴブリン達の優勢に見えた。しかし、数に勝るトロール達の、勢いは止まらない。

 膝を突いた群れの一割を見捨て、再び前進を開始する。ひたすらに全てを蹴散らさんと、棍棒を振るう。


 作戦では、ここでトロールを怒りで暴走させ、分散させる予定だった。しかし、トロール達は仲間が傷つく事を、気にも留めていない様子である。

 巨体の大軍が、真っすぐに集落へ向かう。トロール達の予定外の行動に、ゴブリン達に焦りが生じた。


 焦りは油断を生む。

 一定の距離を保ち、攻撃をしていたパーティーの一つに、トロールの棍棒が飛ぶ。大地に棍棒が、深く突き刺さる。

 ゴブリン達は風圧で吹き飛ばされ、土砂で深いダメージを受けた。


 ズマは指笛で、近くのパーティーに合図し、傷付いたパーティーの回収を急がせる。だが、飛んでくる矢が減った事で、トロールが対抗策に気付いた。

 トロール達は、周囲に向かい一斉に棍棒を投げつけた。雨の様に、巨大な棍棒が降り注ぐ。間一髪で避けるものの、ゴブリン達は撤退を余儀なくされた。

 

 クロスボウの射程範囲を優に超える距離から、棍棒が降り注ぐ。近づく事すら出来ない状況に、ズマは焦れた。

 当初、エレナから授けられた作戦と、状況が異なっている。自分達の持つ武器は、クロスボウと尖らせた石だけ。

 よっぽど急所を突かない限り、トロールの頑丈な皮膚には、傷ひとつ付けられないだろう。


 作戦指揮を執るズマは、ペスカとエレナの指示を仰ぐ為に、急いで集落へ戻った。だがペスカは、ズマを叱り飛ばす。


「指揮官が何しに戻って来たの? 仲間を見捨てる気?」

「いえ。滅相もありません。私はただ」

「ただ、何よ! 指揮官はあんたなのよ、ズマ! 自分で考えて、行動しなさい!」

「しかし我等の弓が、奴らに届きません。打つ手がありません」


 ペスカはズマを殴りつけ、声を荒げた。


「馬鹿な事を言うな! 罠でも何でも使って、足止めしろ! あんたは、何をエレナから学んだの? 逃げ帰って弱音を吐く暇が有るなら、味方を動かせ!」


 ズマは口から流れる血を拭わずに、すぐさま立ち上がる。そして、ペスカ達に敬礼をして集落を後にした。


「ペスカ。助けてあげないニャ?」

「助けないよ、今はね。この程度で音を上げたら、限界なんて越えられないよ」

「どう言う事ニャ?」

「エレナ。あんたは、切羽詰まった時どうする?」

「それは、マナを全開にして、命がけで突っ込むニャ」


 エレナは言いながら、はたと気付く。

 まだ、ゴブリン達は自ら考え行動していない。それどころか、命の危険が無い場所で、ただ攻撃を繰り返しているだけ。死に物狂いで、勝ち得た能力は、未だ見ていない。


「とは言え、そろそろ後続部隊を出そっか」

「冬也の荷物は待たないニャ?」

「いいよ。密林の木でも、石くらいは投げられるだろうし」

「なんか、色々杜撰な気がするニャ」

「そんな事ないよ。詮索してないで、後続部隊に命令してきなよ」

「わかったニャ。ペスカの考えてる事は、いまいち謎だニャ」


 里を出たズマは、走りながら懸命に頭を動かした。

 矢とて無限では無い。一体一では到底敵わない、巨大な相手。ペスカ達から授けられた知恵は、最初の作戦だけ。作戦と異なり、トロール達は分断せずに、真っ直ぐ里へ進んでいる。

 

 どうすれば良い。どうすれば里を守れる。どうすれば仲間を守れる。

 

 まとまらない考えのまま、ズマは木々をすり抜け走る。

 誰でも良い、助けてくれ。いや、駄目だ。それでは、今までと変わらない。俺は、変わると誓ったのだ。俺が、仲間を守らなければ。

 そうだ。その為の方法を、教官から教わったのだ。

 

 ズマの意思を受け、体内のマナが自然と流動する。ズマは立ち止まり目を閉じ、恩人達の姿を思い浮かべた。


 しなやかでも強靭な、エレナの脚力と腕力。冬也の強い意志の力。ペスカの大きなマナ。恩人達は、あの大軍は脅威にも感じないのだろう。

 どれも自分には、遥かに遠い存在である。せめて、一歩でも近くあったなら。

 

「大地の女神ミュール様。我が一族に力をお貸しください。大いなる脅威に抗える力を。脆いこの体に災いを跳ね除ける力を」


 その時だった。ズマの体内でマナが膨れ上がる。力が漲っていくのがわかる。

 身体に纏う力が、自分を高みに押し上げている様だった。


 試しに跳躍したズマは、その変化に驚く。

 エレナの様に、身長の何倍もの高さへ飛び上がっている。今まで訓練で使っていた身体強化とは一線を画す、圧倒的な能力の上昇であった。

 今までは単にマナを使い、身体の要所を少し強化していただけだった。確実なイメージと呪文を唱えた事で、ズマは意図せずに、身体強化を完全な魔法として発動させた。


「そうか、手段はもう教わっていたのか」


 ズマの中で全てが結実する。

 ひたすら過酷な筋力強化、マナのコントロール、狩り、そして今までの人生。全てがズマの中で、昇華されていった。


 ズマは指笛で、前線部隊を全て集める。エレナの命令で里を出た後続部隊も含めて、ゴブリン軍団が集合した。

 トロールの軍団がもう少しで里に迫る。一刻を争う事態の中、ズマは声を上げた。

 

「皆。これから命令を与える。俺達だけの力で、この逆境を覆す」

戦いがそろそろ佳境に。

次回もお楽しみに。

2019.7.16校正。

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