153 真夜中の襲撃
ご閲覧ありがとうございます。
楽しんで頂けたら、幸いです。
それは密林が夜闇に包まれ、多くの生き物が寝床で休む頃。月夜さえ届かない暗闇を、真っすぐに歩く集団があった。
巨大な棍棒を抱え、目をぎらつかせた集団は、三百は下らない数を持って一方向を目指す。明確な殺意を隠そうとせず、集団は進む。
木々を薙ぎ払い、地を這う虫を踏みつぶす。密林が騒めくが、気にも留めない。言葉なく疎らに響く足音は、何もかもを押しつぶす意志が籠っていた。
かつて、彼らは温厚な種族だった。他種族との争いを嫌い、収穫を分かち合う事が出来る種族だった。いつの日だったか、彼らの脳内に声が聞こえた。
力を示せ。得る事が出来るのは、強者だけだ。
強者であれ、弱者を踏みつぶせ、蹂躙しろ。いたぶる事は、最高の喜びだと知れ。踏みにじる事は、最大の甘美だと知れ。
夜ごと聞こえるその声は、彼らを温厚的から嗜虐的に変えていった。そして悪意ある集団が出来上がった。
彼らの近くには、大陸最弱と呼ばれる種族が暮らしていた。かつての隣人は、彼らにとって格好の的だった。隣人をいたぶる事は、とても気分が高揚した。彼らは、初めて快楽を覚えた。
しかし、せっかく覚えた快楽を、邪魔する者が現れた。それは猿に似た、見た事の無い生き物。そして、ワーウルフに似た種族の雌である。
数名が傷を負い、集落に戻った時は、皆が驚愕した。
特に、本能的な恐怖を感じた、猿に似た生き物の話しは、多くの者が俄かに信じる事が出来なかった。
そして仲間の傷を癒しつつ、屈辱を晴らすべく機会を伺った。
再び、夜ごとに頭には声が響いた。
復讐しろ。八つ裂きにしろ。薙ぎ払え。殺せ、殺せ、殺せ!
日ごとに憎悪が高まる。憎悪と共に、力が強まる。
丸太ほどに太い腕はより太く、皮膚はより頑丈に。元々大きな体は、より大きく強く変化していった。
変化は大きさだけでは無い。彼らの身体は真っ黒に染まる。既に、元の種族と異なる容姿に変化していた。
同族の回復を待つ日々は、彼らの苛立ちを募らせる。溜まりきった悪意が溢れそうな時に、声が聞こえた。
さあ、蹂躙の時間だ!
既に巨人ほどの大きさにまで成長した彼らは、軽々と木々を踏みつぶす。
木々は伝える、彼との約束を守る為に。悪意ある者達の襲撃を。変わり果てた隣人の脅威を。
☆ ☆ ☆
静まり返ったゴブリンの集落で、エレナが走る。そして一つの小屋の戸を開けて、大声で叫んだ。
「ペスカ、起きるニャ! 大変ニャ! なんかヤバそうなのが近づいてるニャ!」
「うっさい、エレナ。起きてるし、知ってるよ」
「あいつら何かヤバイニャ! あんなの見た事無い奴ニャ!」
「いや、あれはトロールだよ! あんた、この前やっつけたでしょ!」
「あれが、トロールニャ? 全く違う化け物ニャ! なんでニャ?」
「詳しい事は、後で教えてあげる。あんたは、早くゴブリン達を起こしなさい」
密林の騒めきに、いち早く気が付いたエレナは、集落を出て周囲を探索した。
夜目の利くエレナにとって、暗闇での行動は手慣れている。探索中にエレナが目にしたのは、巨人と見紛う体躯のトロールだった。
慌てて集落に引き返したエレナは、すぐさまペスカの寝る小屋に向かう。勢い良く戸を開けると、既にペスカは起きて椅子に腰かけていた。
そしてペスカは、密林の中で何が起きているのか、ほぼ状況を把握していた。
冬也はゴブリンの集落を去る際に、二つの事を密林の木々に依頼している。
一つ目は、ゴブリン達が自分の力で狩りが出来る様になるまで、獲物を集落に運ぶ事。もう一つは、ゴブリンの集落に危険が迫った時は、ペスカに知らせる事。
ただし、知能の無い木々に、情報が伝達出来るのか?
出来るが、漠然としたイメージが伝わって来る。これが正解である。
知能の無い木々に、情報を伝達をさせているのだ。正確な情報を得られると思う方が、間違いである。そして、漠然としたイメージだけ伝わっても、解読するのに時間がかかる。
冬也の様に感覚的に捉える者ならば、それでも充分なのだろう。しかし、正確な情報となれば、話しは違う。
そしてペスカは、これについて事前に対策を行っていた。
危険迫る、巨大な化物、怖い、黒い。
漠然としたイメージを、言語に置き換える。それは、木々と意思疎通を図る上で、ペスカがかけた魔法である。
ゴブリン達に治療魔法を教える合間に、ペスカは神気を使って木々と意思疎通を図っていた。そこで、兄の想いを知ると共に、素早く情報を収集出来る様になっていた。
☆ ☆ ☆
ペスカの言葉を受けて、エレナが足早に小屋を出る。
ズマを始めとした各班のリーダーを起こし、ゴブリン達を集める様に命令する。訓練を受けたゴブリン達は、迅速な動きで広場に集合した。
月明りしか射さない集落の広場に、突然集められたゴブリン達は、揃って首を傾げる。だが、エレナの強張った表情を見れば、何か異常事態が起きている事は感じられた。
ゴブリン達は、各班に分かれて整列する。ゴブリンが揃った後に、ペスカが広場に現れる。ペスカが到着した事を確認すると、エレナはゴブリン達を見渡す。
そして静かに口を開いた。
「今、ここにはトロールの軍勢が迫っている。お前達を襲った奴等は力を増し、更に強大になっている」
ゴブリン達に動揺が走る。
かつての自分達が、手も足も出なかった相手が、更に強くなっていると知らされたのだ。動揺するのも、仕方がない事だろう。それだけゴブリン達にとって、トロールはトラウマに近い。
しかし動揺したのも一瞬の事、ゴブリン達は直ぐに静まりエレナの言葉を待つ。
「憶する者は、この場から去れ。責めはしない」
エレナの言葉に対し、ゴブリン達は微動だにせず直立する。戦う覚悟は、既に出来ているかの様に。
過酷な訓練を乗り越えて来た、それは少なからずゴブリン達の自信となっていたのだろう。そして、今のゴブリン達には、逃げる選択肢などは無い。
エレナは、再びゴブリン達を見渡す。
逃げる者がいても、止めるつもりは無かった。むしろ命の脅威から逃げる事の方が、自然な感覚だろう。
だがゴブリン達の、立ち向かう強い意志を感じ、エレナ自身も熱くなっていた。
「良いだろう。私がお前達を必ず勝たせてやる!」
そしてゴブリン達から、一斉に雄叫びが上がる。ゴブリンにとって因縁の戦いが、始まろうとしていた。
自慢ではないですが、私は歌が上手いと言われます。
ですが、それほど得したと思えません。
例えば、カラオケに行った時。
私の後に歌うのを、嫌がられます。
カラオケに行く度、何度も言われると、二度と行きたくなくなります。
仕事の付き合いでカラオケに行く時は、盛り上げ役に回り、絶対にマイクを持ちません。
そんな私から、歌に自信が無い方へアドバイスを一つ。
気持ちを籠める事、楽しく歌う事、この二つが出来れば充分です。
ユーチューブを見ると、歌ってみた動画を出される方が多くいらっしゃいます。
メロディーをちゃんと歌えるなら、カラオケレベルでは、上手いのでしょう。
でも心に響く方は、ほとんどいらっしゃいません。
多少、音程が外れてもいいんです。
思いっきり魂を籠めて歌えば、必ず聞いてる人には伝わります。
カラオケレベルで上手い人よりも、多少下手でも魂を籠められる人の歌が好きです。
映画ボヘミアンラプソディーで、フレディーマーキュリーを知った方は、少なくないでしょう。
彼は、とても上手なボーカリストです。
しかし、ただ上手いだけなら、ここまで有名になったでしょうか?
彼の歌は、心に響きます。それは、魂を籠めて歌うからでしょう。
さて、歌が下手だと思っている方々。
ぼそぼそと自信なさそうに歌わないで、自信をもって歌って下さい。
プロじゃないんですから、メロディーをなぞるのは二の次です。
重要なのは、楽しむ事。
そして、楽しい気持ちを籠めて、歌う事です。
慣れてきたら、メロディーをなぞれるように、練習すれば良いんです。
思い切って歌う事は、発散にもなります。
たまには、カラオケではっちゃけて、日頃の鬱憤を晴らして下さい。
次回もお楽しみに。
2019.7.16校正。