閑話 空の想い
ご閲覧ありがとうございます。
楽しんで頂けたら、幸いです。
空は子供の頃から人見知りだった。一人で遊んでいる事が多かった。
独りが好きなのだろうと、周囲は深く気に留めていなかった。
しかし好きで一人でいる訳では無く、周囲の流れに着いて行けないだけ。ただ自分から話しかけるのが、苦手なだけだった。
幼稚園の頃も、楽しく遊ぶ子供達の輪に入れず、一人で絵本を読んでいた。
「ねぇ。何を読んでるの? 一緒に読んでい良い?」
空に話しかけてきたのは、金髪の可愛い顔した女の子。ペスカ・メイザー。
空は、前から彼女の事を知っていた。同じ桃組の子、それだけでは無い。名前も顔も珍しい、外国人の子供だったからである。
彼女は可愛いけれど、変な子と噂をされていた。そして空と同じく、一人でいる事が多かった。
糊を食べてみたり、ブツブツ言いながら色んな物を触る姿を、空も見た事がある。
彼女の不思議な行動と、容姿と異なる大人びた言動に、先生すらもどう接して良いのか、距離間を掴めずにいる様であった。
だけど、彼女は自分とは違う。常に楽しそうにしていた。その笑顔に惹かれ、ふと空の口から言葉が零れる。
「うん。一緒に読も」
「あなた、お名前は?」
「に~じま、そらだよ」
「空ちゃんね。私はペスカで良いよ」
「ペスカちゃん?」
「そうだよ、ペスカだよ。空ちゃん」
不思議な女の子。空は子供ながらに、漠然とそう思った。
空とペスカはその日以降、一緒に居る事が多くなった。
ペスカと一緒にいるのは、楽しかった。当たり前の景色が、変わっていく様だった。
ドア、部屋、幼稚園バス、ペスカといると何もかもが、魔法にかけられた様に、楽しい物になった。特にペスカの語るおとぎ話は、楽しかった。まるで魔法の国に行った様な気分になった。
「ペスカちゃんのお話、楽しいね。外国のお話なの?」
「まぁ、外国では有るかな」
周りの子供達とは明らかに違う、落ち着いた感じのペスカを、空は年上のお姉さんの様に感じていた。
たった一人、自分の相手をしてくれるペスカを、空は大好きになっていた。
☆ ☆ ☆
ある日、空は迷子になった。
買い物に出た時、一緒に居た母親がたまたま目を離した隙だった。人混みに紛れた時には、母親の姿はもう無い。
「ママどこ? ママ~!」
空は泣きじゃくり、ぽてぽてと歩く。母親を探し、宛ても無く小さな足で歩き続ける。
「マ゛マ゛~。マ゛マ゛~!」
小さな声で、空は大声で泣く。大人は腫れ物を触る様に、誰も助けてくれない。誰もが見ない振りをして、素通りしていく。不安が募り、空の鳴き声は更に大きくなっていく。
しかしその時、空の小さな手をしっかりと握ってくる、力強い手があった。
「どうしたの? 大丈夫? おか~さん、いなくなったの?」
その手を握ってくれたのは、空と同じくらいの背をした男の子。その男の子は、優しく笑いかける。
「俺が一緒に探してあげる。もう大丈夫だよ」
男の子の力強い手、優しそうな顔に、空は少しだけほっとした。
「ねぇ、名前教えて?」
「じ~じば、ぞだ」
「そば? そばちゃんだな、わかった!」
「ぢがうの、ぞだ」
「わかった、ぞばだな」
嗚咽しながら拙く話す空の言葉は、男の子には伝わらない。空はいっそう不安になるが、男の子は空の手をギュっと掴んで、大声を張り上げた。
「じ~ばば、そばちゃんのおか~さん、何処かにいない~?」
男の子の声は、周囲の目を引き付ける。
「そばちゃんだよ~! じ~ばば、そばちゃん。おか~さんとはぐれたんだ! そばちゃんのおか~さん、早く出てきて~!」
男の子は三十分ほど叫び続けた。名前が違うので、意味が伝わらないはず。それでも男の子は、小さい体に似合わず、大きな声で呼びかけ続けた。
空は自然と涙を止めていた。握りしめられた手から、温かく力強いものが流れ込んで来る様だった。
泣くな。俺が居るから安心しろ。そう言われている様だった。
やがて母と再会した空は、母に抱き着く。空の母は、男の子にお礼を告げた。
「坊や、ありがとうね。お名前聞かせてくれる?」
「冬也。東郷冬也だよ」
冬也と名乗った男の子は、空に近づくと頭を撫でた。
「お母さんと会えて、良かったな。もうはぐれるなよ」
「うん。ありがとう」
人見知りの空から、自然と溢れた言葉だった。
やがて小学生になった空は、家の遠いペスカと違う小学校に行く事になる。
友達作りが苦手の空は、寂しい小学校生活を過ごしていた。しかし、十歳の時に転機が訪れる。転校生として、見覚えがある少女が、クラスに入ってきた。
「東郷ペスカです。これからよろしく!」
転校生は、一人ぼっちの空を見つけると、明るく話しかけて来る。
「空ちゃんでしょ? 久しぶりだね」
空がペスカの事を忘れるはずが無かった。
ペスカといた時が、一番楽しい時間だったから。だけど、違う小学校に行ったはずの友達と、再び会えるとは思っていなかった。驚いて、思わず空は声を上げてしまった。
「ペスカちゃんなの? 名前変わったの?」
「そうだよ。お母さんが再婚して名前が変わったの。お兄ちゃんも出来たんだよ。超カッコイイの!」
ペスカのおかげで、空の毎日は再び楽しいものに変わっていった。ペスカの破天荒ぶりは拍車がかかり、引っ張り回される事は多かった。
それすらも、楽しいと感じてしまうのは、ペスカが常に楽しそうに笑っているからだった。
そして、空は運命の出会いを果たす。ペスカから兄として紹介された人は、かつて迷子になった時に助けてくれた男の子であった。
「空ちゃんって言うのか。ペスカが世話になってるみたいだな。ありがとう」
冬也はその事をすっかり忘れていたが、思えばその出会いが初恋だったのかも知れない。
変わらない優しい笑顔に、空は鼓動が早くなるのを感じていた。
両親が共働きで帰りが遅い空の家、両親共にほとんど不在のペスカの家。
自然と空は両親が帰る時間まで、ペスカの自宅で過ごす事が多くなっていった。冬也の手伝いをする事で、家事を覚えた。ペスカには勉強を教えて貰った。
空にとって大切な時間。そして、空は淡い恋心を大切に育て、時を重ねていった。
ペスカと冬也はとても仲が良かった。血のつながり等が些細な事と思える程に。
空は憧れた。二人の強い絆、ペスカの才、冬也の逞しさ。
ずっと二人の傍にいたい。だから空は頑張った。勉強や運動、家事に至る迄、努力を怠らなかった。
二人と共に並んで歩ける様になりたかった。
そして空は今、二人と共に戦場を駆ける。
自分がどれだけ、二人の役に立つかわからない。だけど、確信している事が一つだけある。
私は絶対に諦めない。
私は絶対に死なない。
強い意志が空に宿る。それは神の意図すら覆す、強い意志である。
守るんだ。あの笑顔を守るんだ。
空の魂は強く輝く。起こり来る困難を払いのける程に、強く明るく輝く。
それは近い未来、二人の救いとなる大きな力であった。
新章突入して、なんでこのタイミングで閑話?
はい、その謎にお答えしましょう。
当時、毎日投稿を続けていました。
そして他サイトと異なり、なろうだけ101、102話を同日に公開しました。
その為、一日だけ更新出来る話が無くなったのです。
これでは、毎日投稿がミスで途切てしまう!
そして私は急遽、一時間程で閑話を作り投稿しました。
私自身は、空ちゃんが結構お気に入りです。
いつか、空ちゃんサイドの話を入れたいなと思っていました。
折角の機会なので、空ちゃんが主人公のお話を作りました。
因みにこの回は、なろうでしか公開してません。
レアですよ、レア!
それはともかく、次は本編戻ります。
次回もお楽しみに。
2019.6.6校正。