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心情模様

作者: 永塚マダラオ

自分には人間観察は向いてないようだ。

自分の好きな娯楽に関する物なら、ひとつひとつを吟味してあーだこーだと空想に(ふけ)ったり、夢中にもなれる。

しかし街中(まちなか)やショッピングモールで行き交う人々、それに向けるとなると話は変わってしまう。

その人はどんな服装か、その色は、髪の長さは、男か、女の人か、親子か、友達同士か、カップルなのか、そもそもその人の顔の造形に目を向ければいいのか。

いや、そんな細々としたものを瞬時に把握する必要はない。

ただその個人の行動を見送る、それだけでいいのかもしれない。

その人が次に何をするのか、無意識に使う仕草などに着目すれば、それで充分なのだろう。

そう考えれば別に大した労力を使う訳でもなければ、億劫に感じる必要もない。

そう結論を出し、手元の小説へと避難させていた視線をまた元に戻そうと(しおり)を手にする。

だけれど、それでも、面倒臭さが先にたってしまい、栞を掴んだ利き手が止まってしまう。

これで何度目とも数えた訳ではないが、そろそろ見飽きてしまうほど長い間 (なが)めていた光景を(まぶた)の裏で反芻(はんすう)する。

そこには街灯や街中の木の数も思い出せそうなほど目に焼き付いていた。

けれどそこに、人の姿は見当たらなかった。

べつに無人の街、それか人類が消えた世界など海外ドラマに出てきそうな世界観の光景、と言う訳ではなく。

ただ“人らしい影”とでも言えばいいのか、まるで(もや)がかかったかのように曖昧な形ぐらいしか思い出せなかった。

自分の個人への観察、ひいては人間、そして他人への関心はその程度なんだと自分で答えを出してるかのようだ。

だがこれ以上このまま逡巡(しゅんじゅん)し続ける方が、億劫を通り越して諦めが(まさ)った。

自分で自分の感情に観念して本を閉じ、本来の目的へと視線を戻してみた。

そこには大勢の人が歩いている。

荷物を片手に親しい者と手を絡めている恋人同士。

その日の戦利品で両手が塞がっている母親。

それぞれにその日の過ごしかたを物語るように。

と、実にそれっぽい言葉を並べてはみた。

とどのつまり、往来する人たちの手荷物や所持品などを盗み見ることしかできていないのだ。

勿論、なにかと目に付いた人を視界から消えるまでじっくりと観察して、それがどんなものなのか知ればいいだけの話なのだろう。

だが、これがなかなか上手くいかなかった。

その日が休日で。

街の中心部の大通りだからで。

観察対象が人混みに紛れて見失う、だから思ったように進まない。

 勿論それも理由の1つではある。

試しに、目の前を通り過ぎたひとりのサラリーマンを見やる。

黒のパンツに白のシャツと、下半身と同じ色の(かばん)を、多分(たぶん)利き腕とは反対側の肩に掛けている。

 その人をなるたけ見ていよう、そう心掛けてみる。

そして服装から今度は顔を見ようとして、いつの間にか別の人に目線が移っていた。




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