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Alchemist  作者: 無口な社畜
第一章 ホームタウンから出てみよう
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第五話 ステータス

 それはタッチパネルそのものだった。


 この世界の説明を求めた俺の手を引いてシルキーが案内してきたのは、この部屋に1つだけあった鏡台であった。

 俺はそこでシルキーに促されるままに鏡台からコードのような物で繋がっているリング──この悪夢を見る切っ掛けになったショックリングにそっくりだったので多少躊躇いはあったが──を右手の人差し指に嵌めると、鏡面だと思っていた部分に突然現れた画面に驚く。


 どうやら、指輪を付けた指で画面を触ると操作できるようだが、これってまんまタッチパネルだよね。

 さすが妄想。どこからどう見てもファンタジーなこの世界においても、便利機能は健在らしかった。

 そんな余りにも使い慣れた感のある画面操作を、シルキーの言葉に従って画面を進めていくと、行き着いた『ステータス』画面に目を向ける。


名前:ソウザ

年齢:28

職業:剣士

ホームタウン:ウッドロック

レベル:1

体力:15/15

魔力:5/5

力:11

俊敏:10

知能:3

精神:19

カルマ:0/1000

スキル:

魂貨:25920

使い魔:シルキー ⇒

称号:


 一見すると一昔前のRPGのような簡素なステータス画面だが、これが現段階における俺自身の能力値というわけだ。

 名前からホームタウンまでは登録時に俺が入力した情報そのままだ。年齢は入れた覚えがないのだが、入っているということはどこかで入れたのかもしれない。とにかく眠かったしそれはありえる。


 レベルについても問題ない。ゲーム開始時だし当然だ。体力から俊敏までも剣士という職業から考えるに妥当なのだろう。

 だが、この知力3は頂けない。魔法の攻撃力と防御力に影響するステータスなのはなんとなくわかるのだが、第一印象が悪すぎないだろうか? まるでバカみたいじゃないか。

 だが、それよりも不思議なのは精神の19という数値である。


「なあ、この精神っていうのは、神官とかが使うような聖なる魔法に影響するパラメータって事でいいのか?」


 俺の問い掛けにシルキーは頷く。


「はいです。レベル1でこの精神値はすごいと思いますですよ。さすがは神官様ですねっ!!」


 元気よく答えるシルキーに対して、俺は脱力する。

 ほんの数十分前の事なのに、この子は俺に対して「剣士様」と言った事さえ忘れてしまっているらしい。


「いや、俺剣士なんだけど……」

「……あれ? そう言えばそうですね……。ソウザ様。どうしてソウザ様は剣士なのに神官様なのです?」

「知らんよ……」


 首をかしげて大きなクエスチョンマークを頭の上に出現させていそうなシルキーの問い掛けに、俺はそれ以上の追求を諦める。

 そもそもステータス画面にしっかりと剣士と書かれているのだから神官もくそもない。


「それじゃ次。このカルマって何? 今はゼロみたいだけど」

「何でしょうね? シルキーにもさっぱりなのです」


 やばい。アドバイザーがポンコツだ。

 だが、俺のかわいそうな子を見るような瞳に気がついたのだろう。シルキーが慌てたように俺のステータスのカルマの部分と、使い魔の部分を指を指す。


「だ、だって、シルキーだって初めて見たのです! ここの矢印を触ってシルキーのステータスも見て欲しいのです! シルキーのステータスにはこんなのないのです!」


 必死な顔のシルキーの指さした部分を見てみると、確かにシルキーの名前の横に矢印が一つ浮かんでいる。

 俺は言われるがままにその矢印に触れてみると、俺のステータスと並ぶようにシルキーのステータスが現れた。


名前:シルキー・ドレッド

年齢:16

職業;使い魔

ホームタウン:ウッドロック

レベル:5

体力:10/9(+1)

魔力:23/22(+1)

力:2(+1)

俊敏:5(+1)

知能:2(+1)

精神:3(+1)

スキル:風魔法LV1

魂貨:25920

称号:『ソウザの下僕』


 能力低っ(ひっく)! 見た所魔術師系のステータスなのに知力2とか俺よりバカ……もとい、俺より魔術師向きじゃねぇ!

 それと、この括弧内のプラス補正はなんなのか。いや、それよりも突っ込む所があるぞ。


「お前その見た目と頭で16なのかよ!」

「ひ、酷いのです! シルキーはこう見えても大人なのです!」


 誰も子供とまでは言っていないのに自分を大人だと主張している時点で周りから相当言われている事なのだろう。

 流石に小さな子のコンプレックスを弄る趣味は俺にはないので、別の突っ込みどころに話題を移す。


「じゃあ次。この括弧の中の+1は何?」

「多分、新たな称号の補正値なのです。昨日までは無かった称号がありますから」


 シルキーの指さした部分を見てみれば、そこには『ソウザの下僕』という称号が映されていた。


「下僕……下僕かぁ……」

「下僕です。下僕なのです」


 普通ここは嘆く所ではないだろうか。

 普通に生活していたなら決して使われる事はないであろう『下僕』という立場に、シルキーはニコニコと笑顔を崩さない。どうにも、この子とは価値観が合いそうもない。


「はぁ……。次行くか。スキルと称号が無いのは初めだからいいとして、この魂貨って何だ?」

「命のお金なのです」


 はっきりとした声。

 

 今まではどこか自信の無さそうな、もしくは能天気な返答だったシルキーの声質が変わったような気がした。


「命の……お金?」

「はいです」


 俺の問いにシルキーは頷く。


「この世界に生まれた人はみんな『命には価値が有る』と教えられます。その理由で一番大きな理由はこの“魂貨”の存在です。この数値はそのままその人の命の価値であり、量なのです」


 言われて俺は自分の魂貨の数字を見る。

 25920。

 それが俺の命の価値らしい。


「この魂貨は今使用している【メニュー板】から商品を購入する際のお金として使用できます。その商品は普通では手に入らない品物ばかりで、とても便利なものなのです」


 話を聞く限りだとまるで通販のようだが、ここがゲームを元にした妄想の世界だと考えると、課金アイテムの購入方法の説明のようにも聞こえる。


「メニュー板から買い物をすると減る魂貨ですが、何もしなくても減ります。その数字はその時の体調や状態によっても違いますが、基本的には何もしなくても1日につき1つ減ってしまうのです」


 一日に一つ減る……という事は、俺の魂貨は何もしなくてもおよそ71年後に0になる計算だ。

 最も、そんな長い間この妄想に付き合ってやつつもりはないのだが。


「もしも……この魂貨ってのが0になったらどうなるんだ?」

「死んでしまうのです」


 ──つもりはないのだが、それでも試しに聞いた俺に対してのシルキーの答えは至ってシンプルだった。


「ベンリな道具を買って太く短く生きるか、我慢して細く長く生きるか、それは個人の自由だと、前にシルキーの町にきた【使徒様】も仰っていたのです」


 魂貨の説明を聞いている途中であったが、新たなワードが飛び出した所で俺はシルキーに対して疑問を口にする。

 最も、今回は答えがなくとも何となく意味がわかるワードではあったが。


「使徒ってのは?」

「使徒様は使徒様なのです。ソウザ様も使徒様なのです」


 思っていた通りの答えに俺は頷きながら指でタッチパネルを操作する。

 画面の上部に「ショップ」というタグを発見した為だ。触れると新たなウィンドウが現れ、思ったとおり買い物の画面が現れた。


「……その使徒様はご自分の事を【ジュウカキンシャ】と仰っておられたのです。その言葉通り沢山の豪華な装備を身に付けて。──ですが」


 重課金者。いや、この場合は重課魂者とでも言ったほうがいいだろうか?

 俺はショップに売っているアイテムを流し見ながらシルキーの言葉を聞く。


「町に来てから3ヶ月後にお亡くなりになりました」


 シルキーの言葉に俺は画面から目を離して長い溜息を吐く。

 ざっと流し見した程度だが、安い武器で凡そ100~1000。レアと書かれた武器で3000~5000程。

 ……武器一つ買うだけで10年分の寿命とか馬鹿げている。


「……魂貨は命の量だって言ったな。つまり、魂貨がある限りどうあっても死なないって事か?」

「いいえ」


 俺の問いを一言で否定するシルキー。


「この世界に生まれた私達は魂貨の量に関わらず、病気になったり怪我をしたりすれば死んでしまいますが、使徒様に限り対価を払う事で生き残る事が出来るのだそうです」

「対価ってのは魂貨での支払いか? 死を回避するのには一体どれほどの対価を支払う必要があるんだ?」

「……わかりません。シルキーはソウザ様以外の人のステータスを見る事は出来ませんから。ただ、先ほど話した使徒様は、『今までに3回死んだ事がある』と仰っていたのです」

「課金装備を買いまくった上に3回……ねえ」


 そう考えると思っていたよりも復活の対価は安いのかもしれない。

 元々持っていた魂貨の量にもよるのだろうが、仮にそいつがレア装備を4つ購入していたとして40年分。その後に3回死んだ後数ヵ月後に“完全に死んだ”とすると、安く見積もっても10年分程の対価は取られるのではないだろうか。


「最後の質問だ。さっきから君は魂貨を“命の量”だと口にしてきた。しかし、このステータスにある俺と君の魂貨の量は同じ25920だ(・・・・・・・・)。それは何故だ?」

「その答えは簡単なのです」


 再び画面に視線を送り、仲良く並んだステータスに表示されている、同じ数字を指差して質問する俺に、シルキーは何故かとても嬉しそうに答えてくれる。


「シルキーはソウザ様の使い魔ですから。ソウザ様が亡くなられる時はシルキーも共に死ぬ定めなのです」


 その答えに俺は驚いて白髪の少女に首を向ける。

 少女は笑っていた。

 年相応・・・の幼さを残しながらも迷いのない柔らかな微笑みを──


「初めにお話しましたよ? シルキーはソウザ様と運命を共にすると。生涯お使えすると。シルキーが死んでもソウザ様には影響ありませんが、ソウザ様の死はシルキーの死でもあるのです。だからソウザ様──」


 笑顔のままにシルキーは両手を広げる。

 その姿が余りにも現実離れしていて。

 それでいて余りにもリアルで。


 その姿を見て俺は思うのだ。

 例えこの世界が妄想を利用した体感型のゲームだったとしても──


「──存分にシルキーの事を使って(・・・)下さい」


 ──とんでもないクソゲーである事に違いはない。と。




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