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Alchemist  作者: 無口な社畜
第一章 ホームタウンから出てみよう
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第四話 創造神のお告げ

 まずは色々考えよう。


 どんな方法を使ったかは知らないが、ここはVRヴァーチャルリアリティのようなもので、Alchemistとかいうクソゲーを体感している状況らしい。

 シンプルに考えるならば、あの時飲んだ錠剤はやはり危ない幻覚剤か何かで、ショックリングとやらは受信機というところか。頭ではなく指に付けるところは解せないが。


 そうなるとこの“悪夢”は幻覚剤の効果が切れるまで続くという事だが、心配なのは依存性がどれくらいあるかという事だ。

 もしも俺が抗えないほど依存性の強いドラッグだった場合、俺は立派な重課金者(ヤク中)になる事請け合いだ。


「知らずにヤーさんの資金源になった気分だ。あんなの詐欺もいいとこだろ」


 思えば地雷臭溢れるあの雰囲気は人を寄せ付けない為にワザとそうしたのかもしれない。あの運営会社とオンラインゲームはドラッグを売るための隠れ蓑だったという事か。


 そこまで考えて俺は意識を外に向けると横を見る。

 そこには俺から声をかけられるのを待っているのか、ニコニコ顔の白髪の少女が立っていた。

 ……本当にこれが幻覚なら凄すぎるな。


 目の前の少女ははっきりとした質感を持ち、動くたびに揺れる白髪は触れる事が躊躇われる程に穢れのない絹糸のように陽の光を捉えて輝いている。

 俺は断じてロリコンではないが、それでも思わず視線を向けてしまうくらいには整った顔立ちをしていた。


「シルキー……だっけ? いくつか質問してもいいかな?」

「喜んでっ!」


 俺の問いかけにどこかの居酒屋の挨拶のような元気な声を上げながら、彼女は両手を上げて小さく跳ねる。

 俺に声をかけてもらったのが嬉しかったのか、元々そういう性格なのかはわからないが元気な事だ。

 ちなみに俺はというと、久しぶりに人の名前なんて口にしたものだからどう呼んでいいものか少し迷っていた。


「まずは確認なんだけど、ここはウッドロックで間違いない? あ、この部屋じゃなくてこの町のことね」

「ですです」


 俺の問いかけにシルキーは2度ほど頷いて、


「ここはウッドロックにあるシルキーとソウザ様の部屋なのです。本日降臨・・されるソウザ様の為に、一杯、一杯お掃除しました!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 両手を広げて「お部屋を見て!」と言わんばかりのシルキーの笑顔に思わず制止の声を上げながら。


今日・・俺が来る事をあらかじめ知っていたのか?」

「3日前にお告げがあったです。この町のこの場所にソウザ様が降臨するからお迎えに上がるように……と」


 3日前というと俺が登録メールを送信した日に符合する。

 だが、それは俺が“そう思っているからそういう設定”になっている可能性が高い。


「お告げねえ……。そのお告げをしてくれたのは神官さんか誰かかい?」

「創造神様なのです」


 ゲームだったらそんな人もいるのだろうとかけた俺の問いに答えたシルキーに淀みない。

 よりによって創造神とはさすが妄想。何でもありだ。


「創造神? 創造神って事は神様だろう? 君は神様の声を聞くことが出来るとでも?」


 俺の問いにシルキーは頷く。

 その行動は特別なものは何もなく、それが自然であるかのような仕草で。


「はいです。シルキーは神代の一族なので、創造神様のお声を聞くことが出来るのです」


 それが本当ならば凄い事だが、どうにもさっきまで元気一杯だったシルキートーンが少し下がったのが気になった。

 しかし、それも一瞬の事で、直ぐに満面の笑みを浮かべて語るのだ。


「……シルキーは生まれてから今まで創造神様のお声を聞いた事がありませんでした。……でもっ! この前初めて聞いたのです! 生まれて初めて創造神様のお声をっ! 初めてお告げを授かったのですっ!」


 ぴょんと飛び跳ね、まるでこちらに飛びついてきそうな程の勢いでシルキーは話す。


「創造神様は言いました。ソウザ様と『運命を共にするように』と。神代の一族の者にとって、それは何物にも代え難い幸福なのですっ!」


 運命か……。

 聞き様によっては重いその言葉も、話しているのが年端もいかない少女である事と、この世界が所詮作られたものだという事実が現実味をなくしていく。


 彼女には悪いが、今の俺にはすぐにでもこの妄想から覚めてクソッタレな現実に戻らなければならないのだから。

 クソみたいな現実であっても、その現実(じごく)でもがいている同僚を見捨てるのはしのびなさすぎた。


 俺は硬い板張りのベッドから降りると立ち上がる。

 こうして見下ろしてみるとシルキーとの身長差に改めて年の差という奴に自覚する。

 

「話を聞く限りではどうやら俺の事も多少は知っているらしいね。それじゃ教えてもらおうかな」


 俺は小さな子にそうするように、手を差し伸べながら声をかける。


「この世界の歩き方を」

 

 そんな俺の言葉にシルキーは「はいですっ!」と元気な声を上げると、俺の右手をそっと握るのだった。



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